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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 五十一話 王城制圧

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください

その来訪者は突如出現した。

多国籍軍が全ての鮮血騎士団や近衛部隊を無力化し、周辺の下級魔獣や、『ヌシ』をも駆逐して間もない時のことだった。『その糸目の男』はバレッドナインにとって見覚えのあるものであった。

「なんだこいつ!?」

ユダのハヤタが驚愕の声を上げる。

ノブは意味もなく、うんうん頷いてから多国籍軍の前に進み出た。

「動くな!」

SIAのスチェイがそう言うとSIA特別機動班が銃口を向けた。それに合わせるように全ての軍が銃や武器を向けた。

「この怪しい男はなんだ?」

モリが怪訝な顔で男を見る。モリの意見はもっともである。普通に考えれば戦場のど真ん中で微笑を浮かべている様は不気味を通り越して恐怖を感じさせる様相であった。

「どうもどうも」

当の本人はそんな様子を察していないのかぺこぺこと頭を下げている。その様子はさらに周囲の人間の警戒心を煽る。同時に苛立ちもそうであった。

「…………おい。お前何者だ」

アスガルド正規軍の兵がノブのそばに近寄った。当然小銃も持っている。

「ええ、ええ、私皆から『ノブ』ともっぱら呼ばれておりまして此の度はマスメディアの関係者との交渉を始め、政府の広報を担当しておりました。取り急ぎ至急……」

「……とりあえず動くな。身元は理解した」

「ええ、ええ、わかっております。私もあなたも仕事をしているだけに過ぎません。ですので発砲だけはどうか抑えていただきたいと思います。あ、今名刺を取り出しますので……」

「おい!動くな!動くなと言っている!」

「ええ、ええ、至急至急で取り出します。ですのでそうか怒らないでください。私もあなたも仕事で来ております。ですのでどうかご容赦下さいませ。理解のほうをよろしくお願いします。これは選別です。『向こう』に行ってもどうか達者でいてくださいませ。では失礼」

そう言ってノブは一人の兵士に大量の手投げ弾を巻き付けた。

「逃げろ!!」

アスガルド軍の兵の一人がそう言ったか言い終わらないうちに蒼い光の線が兵士に巻き付いた。

光。

それは青の疾風、あるいは閃光であった。

レオハルトの高速移動の軌跡である。

閃光は何かを投げ捨てた。それは手投げ弾の束であった。遠くで爆発が起きる。爆発の地点からノブに向かって蒼い光の線が目にも留まらぬ速度でノブに摑み掛かる。

レオハルトは抜刀し、ノブに詰め寄った。

「続きは共和国内の独房で聞こうか。貴様のことはシンから聞いている。お前が地下のことに関与してるか、調べさせてもらうぞ」

「あらら、貴方がいたことはやや想定外です。仕方ありません。この場は大人しくしましょう」

ノブはアスガルド軍の関係者に連れ去られる。

その様子をSIAの面々は不気味そうに見ていた。

「……なに……あれ」

アンジェラはその中でもより警戒感を露骨に示した人物の一人であった。同じようにノブに対して警戒感を示す人物がいた。二人だ。

イェーガーとサイトウ。

どちらも戦場での経験が豊富な二人であった。

「…………」

「……チッ」

じっと黙っているイェーガーとは対照的にサイトウは露骨に舌打ちをする。

「ねぇ……あの人、なんか嫌だ」

「……ああ、その勘は大事にしな。曹長」

「え、どういうこと?」

「……俺たちは君の観察眼を考慮しても良かったようだ。その観察眼はなにもボーイズラブなる妄想だけの代物ではないらしいな」

「失礼ね!男と男の関係はこの世でもっとも美しく混じり気も偽りもないものよ。分かる人には分かるんだから!」

「わかった。そんなに熱くなるな。それよりも……」

「あいつね……糸目の……」

サイトウとアンジェラが沈黙する。それは言いようのない不吉な感覚を抱えていたが、発言というプロセスに入るまでには躊躇いがあったためだからだった。

「……近いうちに……やるだろうな……」

あからさまにノブに不快感を示したサイトウ中尉とは対照的にイェーガー少尉は端的に、しかしはっきりとこれからのことを言った。







アイビスタン王宮の制圧と異空間の除去を成し遂げた多国籍軍は凱旋ような歓迎を受けた。

色とりどりの紙吹雪、熱烈な歓声、子供たちが駆け寄る。

それまでと違う熱烈な歓迎に五大国の軍のほぼすべてが面食らったような様子であった。SIAだけはその歓迎を無邪気に楽しんでいた。

「これ……楽しんでいいの?」

アンジェラだけはSIAの中でも例外的に面食らった様子であった。

「良いんだよアンジー。俺たちが来なかったらもっと酷い事になったんだからさ。それにさ、可愛らしい女の子たちも来てるぜ」

「あら、私は何処かに仲良さげの男二人組はいないかなーって」

「ぶれねえなぁ、お前は」

アンジェラの趣味にサイトウはやや苦笑いの様子を浮かべていた。もっとも、女の子をじっと物色するサイトウとジョルジョの様子こそがアンジェラにとっては笑いの種であった。

「ぷー……くすくす」

「……まあ、……いつものことだ」

イェーガーがそれを見て生暖かい視線を三人に送った。

「すみませんね。イェーガー少尉……」

「いつもの事だって言ったろ。俺はむしろ安心感を覚えている。誰か一人死にそうな勢いだったからな……」

そう言ってイェーガーはある人物を指差した。

ラウ近衛隊長。デュナ王女に付き従うようにして動いていた。

「あの子?」

「そうだ」

「どうして?」

「アイツは常にデュナ王女のそばから離れないような動きをしていた。何か危機が降り掛かれば……『盾』になっていただろうな……」

「…………」

アンジェラもその様子を見て頷く。

「……デュナ王女はさ……娼婦になってたんだよね……」

「それ以外に生きる道がなかったからな」

「どうして?」

「このアイビスタンの産業は観光業を除けば、マフィアやカルテルが仕切っていたようなものだからな。市場にはオアシスグループの人間がうろついているし、全ての店も軒並み支配されていた。アイビスタン系列のマフィアは国王とエステラが指揮していたようなものだ。……娼婦以外にはなれなかったんだろうな」

「でも……なぜ娼婦に……」

「……死んだ国王は好色だからな。この国の裏社会は売春と麻薬で潤っていたのさ。……つくづく胸糞悪い話だがな。それに少数民族の王族だった女がまともな仕事をさせてもらえたか疑問だしな」

「……ひどい話」

「そういうことさ。この国は根本から腐りきって破滅以外の道はなかったはずだった。……ヤツが来るまではな」

「……シン。シン・アラカワ退役中尉ね」

「……あいつも変わらねえな。『孤独と絶望に落ちた人間』を必ず助ける男だ。アイツとの出会いはデュナ王女にとっては最大の転換点だった筈だ。もし出会ってなければ……どうなってたんだろうな?」

「……テロリストにでもなってたのかもしれない。あの人、世の中を恨んでいたしね……」

「……かもな……まあ、今となっては……そんな悲観的な可能性はもうどうでも良いがな」

「ええ……今はこの勝利を祝いましょう……それに帰ればBL本の支度しなきゃ……夏までに出したいネタ考えとかないと……」

「……そう言う意味じゃお前もぶれねえな」

「まあね。それが私だし」

「だろうな。変態キャラの俺も人の事は言えないな」

「それ自分で言う?」

「言う。それが俺」

「あんたもさあ」

「そう言うもんだろうさ。人間てさ」

「そうね」

アンジェラとサイトウが会話していると聞き慣れた呼び声が聞こえる。

ジョルジョ・ジョアッキーノの声だった。彼は遠くにいた。

「おいどうした?ジョルジョ」

「こっち来なって」

「あん?」

「可愛い子たちが一杯でさ。うっへへへ……」

ジョルジョが引き連れている若い女性は粒ぞろいの面々であった。

褐色肌の健康的でスポーティな美女。豊満な胸と臀部が印象的な金髪女。アズマ系の清楚な印象の奇麗な黒髪。年下系で甘えん坊なトランジスタグラマー。

豊満な女性という一言だけでもこれだけの女性をすぐ揃えてきたジョルジョは『愛すべきバカ』と表現すべき行動力があった。

「……ひとりくれよ」

「やーだよー。自分で見つけなよ」

「う、裏切り者ぉぉ!俺によこせよぉ!」

「周り見てみなよ」

「周り?……お」

サイトウの周辺にも美女たちが集まってきていた。

ロリータ系、年下、清楚、当然グラマラスな美女も。

「……そこのロリータちゃん。お兄ちゃんとたのしくあそぼうぜ」

思いっきりニヤニヤと満面の笑みを浮かべたサイトウとジョルジョはスペンサー大佐に鉄拳制裁を食らう羽目になった。

「……お前ら。遊びに来たんじゃない。風紀を乱すな馬鹿者が」

「わーん、堅物大佐のバカー」

「わーん、堅物大佐のバカー」

サイトウとジョルジョが異口同音に嘘泣きを始めた。

そしてまた叩かれた。

ごっごっと頭蓋の響く音が辺りに伝播した。

「お前ら後で説教部屋だ!ほら来い!ほら!」

そう言って二人はスペンサーに引きずられてゆく。

「皆さん、すみません。あのバカ二人には言っておきますので」

スチェイが女の子たちにぺこぺこと謝ってたが、軍人らしからぬ謙虚さと本人の甘い顔立ちによって女の子たちの受けは二人よりも良かった。

「君可愛いね」

「イケメンだね、お兄さん」

「連絡先教えとくわ。いつでも会いにきてよ」

「お兄ちゃんまた遊んでねー」

「かわいい子。顔真っ赤でかわいい」

「あ、耳まで真っ赤」

「ほんとだ、かわいい」

「し、し、失礼しまぁす!!」

こうしてスチェイは顔を真っ赤にしながら何処かに逃げ去っていった。その様子はまるで蒸気機関車のような迫力があった。本人のウブなところも相俟ってスチェイは街の女の子たちの誘惑から逃げ続ける羽目になった。

「……男もいろいろね」

アンジェラがそう言って踵を返すとまた見覚えのある顔が見えた。

レイチェルとキャリーであった。

「キャリー!レイ!」

「ちょっりーす。アンジー無事で良かった」

「あ、おつかれさまでした」

「キャリーまだ緊張してる?戦闘終わったよ」

「うん、でもやっぱり、……すごく緊張した。戦いは慣れないなぁ」

「うんうん、私もそう。でもわたしはさー超疲れた」

「そうだよね。レイチェルは頑張ってたし」

「キャリーだって見回りしてたでしょ。下級魔獣がたびたび襲ってきたし、疲れたでしょ?休んで休んで」

「うん、そうする。……ありがとう」

「いいよいいよ。いまのキャリー可愛かった」

「うん」

「ほーら、レイ、あまりキャリーを本気にさせないの」

「あ!いや、その……」

レイとキャリーが赤面する様子を見てアンジェラは思わず微笑を浮かべた。アンジェラは戦友と共に生き残れた事を噛み締めながら、これからの事をふと思案していた。

歴史が動く時。王制が打破され、アイビスタンの風が変わる。不審な闇を感じつつデュナ王女を翻弄した戦いは終結する。


次回で六章の最終話となります。次回もよろしくお願いします。

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