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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 五十話 許されざる者へ

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

エステラのそばで何かが爆発した。

それは粒子のように漂いエステラの体内に入り込む。

「毒か!?」

だがそれが、エステラの命を奪う事はない。

「……失敗だったな!」

そう言ってエステラは意気揚々と敵に切り込もうとした。そこで異変が起きた。

「……な!?」

エステラのすぐそばで弾丸が掠める。ピュンという素早く甲高い音がエステラの頬を切り裂く。その痛みを感じてエステラは明らかに動揺していた。

「なぜ……なぜ能力が!?まさか……」

「ナノマシン技術はいろいろ聞いているだろう?」

「これは特別だ。お前の能力を限定的に抑える」

「馬鹿な……ナノマシンの駆動すら……我が能力は静止させる、はず……なのに……なぜ……?」

「そうだ。それが厄介だ。お前の頭は悪くない。対策くらいは考えていたのだろう?」

「細胞抑制弾はさんざん狙撃手から食らった。だが、その程度だ。回復はしている!処置は十分だ!戦えば……なに……!?」

「細胞抑制弾はメタアクターの細胞のミトコンドリアやメタアクト因子に関連する細胞小器官に作用し代謝を通常レベルまで抑える。これも原理は同じだが、ナノマシンはやや変えてある。普通はエネルギーの代謝効率を変え、無駄にエネルギーを食うように細胞内に投入したナノマシンを動作させる。メタアクト分のエネルギーを使われないようにな。だが、これはマシンそのものを動作しなくても、一定の作用が働くように作ってある。SIAには感謝だな。お前用に特別な調整をしてくれたらしい。俺が使う事までは想定外だろうが……」

シャドウはエステラを見下ろした。見下すようにして。

「ばかな……」

「お前が弱いと見下した『ただの人間の恐ろしさ』を思い知れ」

シンはエステラの長い髪を掴み腹部を執拗に殴打した。エステラは剣で反撃を試みる。

だが、細胞そのものの活動が抑制された状態での戦闘は困難であった。良く訓練されたメタアクト能力者であってもそれは例外ではない。倦怠感と共にからだ全体が脱力し、手足を動かす事も気力を振り絞る必要があった。

ましてやエステラにはシャドウの猛攻が待ち構えていた。

背が低く、到底武闘派に見えない体躯から岩石が如き拳が繰り出される。猛烈な連撃がエステラを襲った。殴打の連続と強烈な脚撃。

苛烈かつ冷徹な攻撃の連続、狙う部位も計算し尽くされていた。まず胴体部を狙い体力を削ぎ落とし、次に足を狙う。相手の逃走能力や戦闘力を徹底的に削いでから頭部への攻撃を加える。

「が……がは……この……がぁ……雑魚ごとぎぃい……がは……が……」

シンの両手は既に鮮血で濡れていた。それでも攻撃は緩まない。

狂気的な。あまりにも狂気的な怒りに突き動かされるようにしてシンは拳を振るい続けた。

胴体、胴体、胴体、足、足、胴体、頭、頭、胴体、頭、頭、腕、足、頭、頭、頭、頭、腕、腕、右足、左足、胴体、胴体、胴体、胴体、腹、腹、首元、背中、頭、胴体……。

シャドウの執拗な攻撃が延々と続く。

エステラにとって、弱者は悪人より『下』だった。だが、シンにとってそのような卑劣はあらゆる事象や倫理、生命より『遥か下』だと断じていた。そうであることを立証するようにシンは拳を振るい続けた。処刑人が死刑囚を裁くようにして。みせしめにするようにして。

エステラは何度も血を吐き、なおかつ地べたを這いつくばった。長い髪は自身の血で赤黒く汚れていた。

シャドウの凄惨なエステラへの『裁き』を目撃しながらオネス大帝は戦慄していた。

「ば……かな……こんな……こんな……馬鹿な……」

シンはエステラの髪を引っ張る。エステラの整っていた顔が腫れ、所々流血していた。

「がぁッ…………」

「馬鹿で邪悪なお前にも一発で分かるように教えてやる。俺がいる限りお前はデュナの『下』だ。永遠にな。一生じゃないぞ?永遠だ。分かるか?『永遠』だよ。恐れと良心と知性の欠けたお前に骨の髄まで分かるまで何度でも調教してやる。…………『恐怖』をな」

「がぁ……がはぁ……が……」

「痛いか?苦しいか?やめてほしいか?……『ノー』だね。デュナ王女が散々苦しんだように『痛み』をもっとくれてやる」

エステラより玉座のそばで見ていたオネス大帝が恐怖していた。彼の股間から温かな湿り気が広がる。怯えから来る無様な湿り気であった。

「ひぃ……ひぃぃぃ…………」

シャドウはエステラを投げ飛ばす。柱にぶつかり、エステラは完全に戦意を失った。シャドウはオネス大帝のそばに近寄る。

「く、来るな来るな!来るなぁ!」

オネス大帝は胸元から拳銃を取り出し、シンに構えた。

それは完全に『悪手』だった。

拳銃が撃ち抜かれ。穴の開いた状態で床を滑ってゆく。

イェーガーの見事な狙撃であった。

「お見事」

シンはそのままオネス大帝の立派な髭を思いっきり引っ張った。

「ひぃ……ひぃぃぃっぃぃぃっぃぃぃいい……」

眼前に翼を広げたレイヴンの紋章が、それが描かれた覆面が迫る。眼光は鋭く戦神が如き怒りの形相が『国王もどき』を睨みつけた。

「お前だな?」

「ひぃぃ……」

「デュナを望まぬ娼婦に身を落とさせ屈辱と苦痛を与えたのは……」

「ひぃぃ……」

「お前如きが贅を尽くし犯罪者どもをのさばらせ、あまつさえ『似つかわしくない銅像』までプレゼントされるなんて因果だな」

「ひぃ……」

シンは外の様子を見る。

外の空間が徐々に正常な空色に戻る。極彩色が徐々に紺碧へと変わっていった。

その様子を見てシンは迷わずオネスの体を引きずり始めた。

「や、やめろ!我は国王だぞ!やめろ!」

「人殺しと他者の陵辱まで首まで浸かった下衆め。他人の危機には無頓着なくせに、お前みたいな輩はいつも危機に陥ってから神に祈る。『助けてくれ!』と……」

「な……なにを……か、か、金もあるぞ!欲しいのは金か?それとも女か?お気に入りの娼婦をみんな貸してやろう……なあ……頼む……た、た、『助けてくれ!』頼む!」

バルコニーまでオネスを引きずった後、シンは言った。目の前には広場があった。

ユニコーン広場が。そこにはその何ふさわしい銅像があった

「俺が神ならこう言ってやる」

一拍置いてから、シンは言った。

「今すぐ死ね」

そう言ってシャドウはオネス大帝をバルコニーから投げ捨てた。

甲高い悲鳴を上げながら、オネスはぐるぐると錐揉みしながら地面へと墜落していった。その落下先には確かに『それ』があった。

貞操の象徴。処女を好む獰猛な一角獣。ユニコーンの銅像。

その角に吸い込まれるようにオネスの体は落下した。当然その胴体には像の鋭い角が突き刺さった。

「がぎゃあああぐぎゃぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

発狂したような悲鳴を上げ、オネスは胴体から血を流した。

真っ赤な鮮血と臓物がユニコーン像を鮮やかに染め上げた。

ユニコーンの頭が完全なる深紅に染まった時にはオネスは絶命していた。

その様子を見下ろしながらシンは言った。

「イェーガー、デュナたちの方もやったみたいだな?」

「……ああ。そのようだ」

イェーガーは静かに頷いていた。

タカオ教授の姿はいつの間にか消えていた。







ジルたちやSIAの面々は鮮血騎士団と交戦し、大半の敵を無力化していった。

「もう!地面とキスしてなさいよ!くっつけ!」

アンジェラが片腕を動かすと赤い兵士の体が地面と接着した。もっと言えば何倍ものGを受け、動く力すら失っていた。

「があ、お、重い」

「おい……重いぞ」

「お前が重いんだよ間抜け!」

「何だと!お前はいつもいつも……」

「なんだとこの!」

その様子を見てアンジェラは鼻血を出していた。

「これは……進行と愛国の果てで見いだしたケンカップルの予感……!たぎる……うん?」

アンジェラが何かに気付き、それに近寄る。それは壁の異質な変化であった。隠し扉。アンジェラはその事にすぐ気がついた。

「ちょっと来て!」

「どうした?」

敵兵たちの拘束と無力化を終えたサイトウ、ジョルジョ、スチェイ、ジル・ベフトンの四名はアンジェラのそばに寄った。

それを確認したアンジェラは扉の歪な場所を指で押す。風景に溶けこんだ扉が開き地下への階段がそこから見えた。

「……なるほど、この先から敵が」

「へ?どういうことだ?」

「ジョルジョ中尉、敵の数がおかしかった。いくら倒しても湧いてくる。ならば何処かに隠れていると考えるのは当然だ」

「確かにな。それに敵の出現の位置も変だった」

「やたら奇襲されたりな。正規軍じゃ死者が出てるぜ」

「どれくらいやられた!?ユダとの戦闘でもそんなんじゃなかったぞ!?」

「多数。かなりひどい有様だ」

「……これは調べる必要があるな」

すぐそばで声がした。タカオ教授の声であった。

「教授!?シンたちと行った筈では?」

「ああ……気になる事があって戻った」

「戻ったって……階段まであるのに……」

「スチェイ。この男に物理法則を当てはめようとするのはナンセンスだ」

「サイトウ。言う事は分かるが……」

「いや、いい。サイトウの意見ももっともだ。むしろ理解が早くて助かる」

「……それはそうとアンジー」

「え?」

「鼻血。拭っとけよ」

そう言って五人は地下室へと向かっていった。







「……これは」

「…………」

その場にいた五人は息を飲んでいた。それは巨大な装置だ。モーターのような駆動音を立てながら、それはあるエネルギーを電気へと変換していた。

「……『グリーフモーター』……かなり粗悪なものだが、間違いない」

「…………ひどい」

アンジェラが顔を覆っていた。

装置には培養槽のようなものと接続されていた。

そのガラスの円柱は五つ存在しており、内部には五人の少女が入れられていた。

「…………」

五人のうち三人は息絶えていた。

生きている少女からも反応はない。淀んだコアがそこにあるだけだった。

「……ジョルジョ……後は分かるな?」

「………ちくしょうが」

女の子の命に関して諦めの悪いジョルジョですら『手遅れ』だと理解していた。それを読み取ったタカオは静かに頷く。

そして彼は二丁の拳銃を取り出す。

タカオは救われざる二人に永遠の安らぎを与えたのであった。

それぞれの決着。次回へ。

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