第六章 四十九話 首都攻略戦・異常あり、その七
この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。
激しい機銃の猛攻が多国籍軍を襲った。
重機関銃と旧式の火器。それに対して多国籍軍は防御に適したメタアクターで安全地帯を作り、最新の火器で敵に応戦する。明らかに多国籍軍側が優勢であるにもかかわらず敵である鮮血騎士団は良く戦った。アディルが停戦を呼びかけているにもかかわらず。
「鮮血の紋章を掲げる同胞たちよ!われはオズ連合王国のアル・アディル上級大将である!!直ちに武器を収めよ!!さすれば悪いようにはしない!」
拡声器によって増幅したとは言え、多数の銃声よりも響く大音声であった。それにも関わらず鮮血騎士団の兵たちは混乱したり降伏する気配はない。
「敗北主義者の偽英雄め!貴様には騙されん!!」
「裏切りは血で償え!真実と正義は我らにあり!」
「突撃だ!祖国を裏切る逆賊どもは皆殺しだ!!」
「進め!進め!進め!進め!」
兵たちは血走った目で総突撃を敢行した。
とうとうたまらず、殺しに消極的なユダやアズマ国の軍も射撃を行ない始めた。
当然、アスガルドやフランク連合はそれ以前より応戦を行なっていた。
「我が名はジル!ジル・ベフトンだ!貴公らの勇猛さに敬意を表し、全軍と全力を持って迎撃を行なう!」
ベフトンは粒子拳銃と大盾を構え、前進を開始した。部下たちも気勢を上げベフトンの後に続く。
「フランク連合軍に続け!我が祖国を取り戻すぞ!」
ドラコ司令もまた部下たちに対して叫ぶ。アイビスタン大連合の士気は高い。旧式の装備しかない軍にも関わらず、あらゆる人種・民族が結束し、敵の猛攻に対して怖じ気づく様子は皆無であった。
そこには当然バニア族の姿もあった。デュナ派の民族が女王を取り戻し、後ろ盾を得た事で士気を完全に取り戻していた。それに加え、敵は女王を脅かし、穢し、犯した相手の仲間であった。デュナ派の兵たちは皆、怒りに震えていた。
バニア族の女戦士たちはその勇猛さをこの場で存分に振るう。
相手が大砲であろうと、銃器を持ち出そうと彼女たちを止める事は出来なかった。
「なぜ戦う!?これは祖国を守る戦いではない!」
アディルがそう呼びかけるが、鮮血騎士団は聞く耳を持たなかった。
「アレさえあれば!我々の祖国が銀河で唯一の国家となる!アスガルドの軟弱者どものように『抜きとるもの』に怯える必要はないのだ!!」
「アレだと!?何だそれは!?」
「敗北主義者は知る必要はない!外国と迎合した老害はここで死ね!!勝利は我が祖国にあり!血を!血を!」
かくして、正面玄関には無数の弾丸が飛び交うこととなった。
火薬式小銃の炸裂音に対して粒子の弾丸が反撃する。
粒子の弾丸相手では薄い金属板のような半端な遮蔽物は意味をなさず、鮮血騎士団はバタバタと銃弾に倒れていった。
バニア族の兵が柱や段差を利用しながら切り込んでゆく。その先陣はメタアクト能力で体を覆ったドラコ司令と強化外骨格を着たデュナ王女が常に居た。
敵は銃を構える間もなく銃ごと両断された。距離をとられれば不利だが、距離を詰めれば刀剣を所持したバニア族に分があった。
腹部を切り裂かれた鮮血騎士団の兵が痙攣しながら床に倒れ伏す。
「死ねぇぇ野蛮人がぁ!」
爆薬を体に巻き付けた敵の一人が、腰の手榴弾のピンを抜いてデュナへと向おうとした。自爆狙いだった。
「が……」
だが頭部を何者かに撃ち抜かれその場に足を止める。爆風は敵陣の横で起きた。多国籍軍の代わりに赤い騎士たちが被害を被ることになる。
撃ったのはバレッドナインのジャックだった。
「よそ見すんなよ!?」
「すまない!ジャック殿!」
近衛隊長のラウがお礼を述べた。
「こう言う連中は飽きる程相手してきた!支離滅裂な信心のためなら命を投げ出すヤツらだから気をつけろ!」
「そっちも気をつけて……敵はあのエステラと思われます!」
バレットナインはこの混乱に乗じて敵の中枢に切り込んでゆく。
途中、鮮血騎士団兵が何人か襲ってきたが、ユキとアディを中心に返り討ちにした。ユキはパワードスーツの補助脚を利用し、壁を軽快に飛び跳ねる。敵の目を十分に逸らした後、バレッドナインの援護射撃に合わせて敵に射撃を与える。敵が左右に気をとられた所でアディが蠍の尾を生成し、正面から乗り込んで敵の首を次々と刺し貫いていった。
「他愛もない」
タカオ教授がそう言った。両手には改造拳銃が握られている。
「全くだ」
シンもその言葉に賛同する。シンは敵の手榴弾や閃光弾をいくつか拝借し始めていた。
毒で痙攣した敵を後目にバレッドナイン一行とタカオ教授、そして後から『狩人』が続く。彼らは階段を駆け上がり玉座の間ヘと急いだ。
玉座の間は他の部屋と違い、侵食の度合いが異様に低かった。
肉片のような死体もなく、色合いが派手になっている箇所もない。王族らしい上品の色合いの天幕と宝玉などで豪勢に飾り付けられた玉座があっただけだ。部屋には罠の気配はない。ただ、広い空間に赤く上品な絨毯があるだけだった。
「常にカバー!」
ジャックとアディが機関銃を構えながら周囲の状況を確認する。
「クリア!左右に敵影無し!」
「こちらも!」
アディとジャックの動きは元傭兵だけあって手慣れたものであった。瞬時に奇襲を予期し、手に持った銃の射程範囲を考慮した慎重な動きをしている。良く訓練された兵士でもここまで手際の良い動きはなかなか出来なかった。
その動きに合わせイェーガーやバレッドナイン一行も部屋へ入り込む。
「ああ……いる。正面だ」
そう言ってシンは羽根手裏剣を投げた。
甲高い風切り音。翼のような形の刃物をシャドウは投擲する。着弾した場所の周辺から男の悲鳴が聞こえた。
「うぉぉ……こ、ここまで来たか……」
髭の見事な貴族風の男が玉座から現れる。そこにはエステラの姿もあった。幕の後ろに隠れていた。
「こいつか?」
「そうだ。あの女がエステラだ」
「……なるほど、レオハルトとはやや相性が悪そうだ。……あらゆる意味でな」
タカオ教授が吟味するようにエステラの方を見る。身のこなしは熟練の兵よりも隙のないもので、片刃の剣を持った立ち振る舞いはレオハルトのそれと勝るとも劣らないものであった。
「おい!そこの!我を無視するとは不敬であるぞ!」
「……なんだこのバカは?」
「バ……!?」
タカオが悪人や知性の低い人間に対する評価は皆等しく『バカ』であった。それはタカオの口癖にも現れており、軽蔑する者への態度や価値観を端的に表していた。
端的。そうあまりにも単調直入な言葉はオネス大帝を簡単に激怒させた。
「エステラァァァァ!この不敬な逆賊を早く消せぇぇ!」
あまりにも単純な怒りの理由にルイーザやアディ、ジャックから失笑の声が漏れた。
「承知」
エステラは剣を抜き。メタアクトを発動させる。殺気とも表現できる緊張感が玉座の間に充満する。それは空気の振動とも表現できる殺し合いや決闘の時に見られる独特の空気の乱れであった。
だが、凡百の決闘とは空気の乱れの幅が完全に異なっていた。
「……チッ。なんて殺気だ」
「…………これは……」
「やばいね……さすが敵の総大将……」
「こ、この人と戦うの……怖いなぁ……」
ジャック、アディ、ルイーザ、カズの四人が思わず気圧される。熟練の兵ですらこの女の殺気は異質であった。感覚的なものなので感じ方には個人差は当然ある。ただ絶対的に共通する事柄があった。
死への恐怖。
かの女将軍の放つ殺気にはそれを煽る何かがあった。細胞に悲鳴を上げさせる動きの一つ一つ、そしてメタアクトの挙動。彼女の細胞から放たれる冷気が否応無しに相対した者に嫌悪感や恐怖を与えるのが普通だった。
「全員、怖じ気つくな。もし飲まれたら……やられるぞ」
シンはまるでそのような冷気を感じないかのように振る舞っていた。シンはメタアクターではなく、生物的には普通の人間に過ぎない。せいぜい高度な戦闘訓練や実戦経験を積んだ常人程度の存在だ。グリーフに対する感度はあるが、タカオと違い、感じる程度である。エネルギーの行使・操作までは出来ない。
ユキも殺気に物怖じせず立ち向かう意志を見せていたが、そもそもユキとは根本的に違うものがあった。それは身体。純粋な肉体の強化の有無であった。ユキは故郷で体を改造され、ナノマシンを入れられ、グリーフに順応する処置まで受けていた。超人的な戦闘能力を得る事が出来て、正面切って安定した戦法の保証を彼女は得られていた。
敵は時空間の静止というアドバンテージはあった。そのことを含め、グリーフによるエネルギー的なバックアップを受けたユキが戦術の要になるのにふさわしいはずだった。
本来、シンは雑魚敵にしかなり得ない要素しかない筈であった。
だが、エステラはシンを警戒する。誰よりも徹底的に。
執念。戦術。経験。精神。
個体のわずかな思考の違いに過ぎないその要素がエステラを恐ろしく警戒させるのに十分な要素を内包させていた。
予測不能にして狂気的。
どんな手段をしてくるか分からない恐怖。それこそがシン・アラカワの恐怖であった。そしてその人物との戦闘は何者よりも過激であった。
「やあ、エステラ。戦う前にひとつ聞きたい」
「……珍しいやり口もあったものね。冥土の土産が言葉だなんて」
「お前がデュナを裏切った理由は?」
「弱いからよ」
「弱いから?」
「この世は弱肉強食……甘ったれたあの女にこの世は任せられないわ」
「なぜだ?」
「弱いヤツは死ぬ。歴史を見ればそれは当然の真理。弱い国は殺され、奪われ、死に絶える。それは宇宙に人類が出たとしても変わらない……」
「……ほう」
「共存共栄などという偽善にすがりつくあの女には……犯され続ける結末がふさわしい。そう考えたまでよ。生き残るのは想定外だったけどね」
「……なら、貴様は弱者ですらない」
……ピィン。
シンの指から何かが抜かれる。
指に『金属の輪っか』があった。それは手投げ弾のピンと似ていた。
シンことシャドウはまるで久しぶりの友人と出会うかのようにゆったりと歩み寄り始めた。
「な……!?」
「死ね」
さすがのエステラも驚愕の表情を隠す事は出来なかった。
すぐに体を後方に下がらせようとした。
それこそがシンの本当の狙いだった。
「フェイクだ。この自爆ベストは」
「!!」
シンは笑っていた。
エステラは心理的に玉座に近い位置に移動しようとしていた。
すぐそこにあった。シンのしかけた罠が。
刺さっていた羽根手裏剣。それにはセンサーが付いていた。ヒトなどの生物の体温を感知し、『何か』が爆発する仕掛けだった。
エステラとの決戦。運命やいかに。




