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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 四十七話 首都攻略戦・異常あり、その五

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

その兵員輸送車にはいくつかの名前があった。

車両は四台あった。『レッドライダー号』『ホワイトライダー号』『ブラックライダー号』、そして『ペイルライダー号』……。

アズマとAGU側の実動部隊が搭乗するレッドライダー号。

SIA、バレッドナイン、アイビスタン大連合側の搭乗するブラックライダー号。

アズマの観測部隊とフランク連合の実動部隊が乗るホワイトライダー号。

そしてオズ連合王国の部隊のみが搭乗するペイルライダー号。

その兵員輸送車は『フロンティア3級多目的装甲揚陸輸送車』。アスガルド共和国とAGUがかつて共同で開発した車両の発展型である。異常環境下での活動を目的とし、その装甲は間違いなく堅牢。そのうえ、エナジー障壁による空間断絶によって金属を通す攻撃や害毒への対策も考えうる限り十分なものであった。車内はいくつかのブロックに分けられており、指令区画、エンジン区画、居住区画、研究区画の四つに分けられていた。

複数人の指揮官と後方支援担当の大部隊を残し、四台の兵員輸送車が結界内部への行軍を開始した。

「こちらはホワイトライダー号のタカオ・アラカワだ。これより突入部隊は異空間内部への調査、および異空間の侵食阻止任務を開始する」

「了解だ。ペイルライダー号のアディル上級大将に従って動いてくれ。……すまんな、タカオ。お前には手間をかけさせた」

「気にするな。俺だって親友や弟が苦しむのを見たくはない」

「シンの妨害もそのためか?」

「まあな」

「弟を信じてやれ。彼は皆が思っている以上に考えて動く人物だ。頑固でやや向こう見ずなのは……しばし目をつぶってやれ」

「心配するな。俺の弟だからな。それに今はあいつの作戦が要だろう?」

「確かに」

「エステラに関しては俺とシンの二段構えでいく。あの女豹に関しては心配しなくて良い」

「分かった。期待している」

「後、すまないがドウミョウとは接触させるなよ」

「……まあ、俺も似たような経験があるからなぁ。配慮するさ」

「すまん」

「……ユダも困ったものだな。世の中は白か黒かじゃないだろうに」

「そこは俺も思っている。人員の平均年齢が若いのもあるだろうな」

「……若造ばかりの組織か。ストーン会長が唯一の年長者だろうに……勝手にくたばりやがって」

「セントラル・ウィルとやらの策略もあるだろう。だから頼むぞ」

「……ベフトン団長殿にでも相談してみるさ」

「彼にもよろしくな」

「ああ、任せろ」

あらゆる不安要素に加えて内憂。

ユダとバレッドナインの不仲。

フランクとオズの歴史的な非友好的な関係。

アスガルド共和国主導のもと、多国籍軍を束ねるにはタカオ・アラカワ教授の協力は不可欠なものであった。彼は頭脳明晰で生物学を始めとした自然科学に長けているだけでなく、『グリーフの扱いそのもの』が現人類で一番長けた人物であった。

「……アラカワ教授」

「ん?」

そばに居たジル・ベフトンがアラカワ教授に声をかけた。表情は険しい。

タカオはすぐさま、彼が何を言わんとしているかを理解した。

「オズの人たちを、まだ信用できないようだね」

「……!?」

ゆっくりと、タカオはベフトンの方に顔を向けた。

「そう驚く事ではない。だが、今は全ての人間が協力せざるを得ない。そうだろう?」

「……ええ」

「君も騎士なら自分の成すべき事の成否を考えるべきだね」

「……感謝します。教授殿」

「大した事はしていない」

「いえ、初心に返ることができました。おかげさまで」

「ほう……向上心があって礼儀正しい人物は嫌いではないな」

満足げな様子でタカオが頷くのを見て、ベフトンは利き腕を差し出した。

「ジル。ジル・ベフトンと申します。貴君に敬意をもって」

「タカオだ。タカオ・アラカワ」

二人はしばしの間、固く握手を交わした。

手を離した後、タカオはふと顔を上げた

「さて、今回の作戦だがどう思う?」

「不確定要素が多いですが、戦力としてはこちらが圧倒的に優勢です。こちらにはオズのアディル上級大将、我々王立騎士団、SIAとバレッドナイン、AGUの特務機関ユダ、そして……あなた」

「そう買いかぶるな。俺はただの教授だ。平和ボケした国から来た……な」

「今はそう言う事にしておきます」

「助かる」

ジルとタカオのやりとりは静かなものであったが、どこか緊張感のあるものであった。互いの品位と素性、腹の内を探るようなシビアな心理戦すら繰り広げられていた。

リリリン、リリン、リリリン。

リリリン、リリン、リリリン。

端末の通知音。

タカオの携帯端末から鈴のような軽快で短い金属音が繰り返し響く。それは胸ポケットに入っていた。すぐさまタカオは金属音の方に手をやった。

「失礼」

端末に指を伸ばし、応答する。端末はホワイトライダー号の通信網を通してブラックライダー号の通信と接続されていた。

相手はシン。ブラックライダー号の通信回線からだった。

画面にはカラスのエムブレムの描かれた覆面をした男が映っている。

タカオにとって見慣れた弟の目が見える。

「今は『呼び名』で呼んだ方が良いか?」

「ああ、そうしてくれアラカワ教授」

「分かったよ。『シャドウ』殿」

「感謝する」

「さて、俺はお前をエステラとオネス大帝の元へ向かわせる。……国王なのに『大帝』っていうのも変な話だがな」

「彼が自分の臣下と国民にそう呼ばせている」

「わかってるよ。文字通り『裸の王様』だな」

「……そこまでは俺はどうすればいい?」

「バニア王女様のエスコートだ。バレッドナイン総出で王女様を守ってやんな。彼女も部下の士気高揚のために専用のパワードスーツをもってきたと言ってたぞ」

「パワードスーツ?」

「王族が他の民族と戦をする時の衣装だ。グリーフの耐性も確認したが、あれはすげえぞ。そこらの歩兵用パワードスーツより高性能だ。さすがにジョルジョの魔改造スーツよりは劣るが」

「それでも凄いな。バニア族のどこにそんな技術が?」

「アイビスタンは年がら年中、内戦しているような国だからな。軍事技術はどの民族も研究している。王族の装備は尚更気を遣うだろうしな」

「なら、シルバ司令官も」

「彼ならもっと心配ない。メタアクト能力が細胞を変異させて外骨格を形成するタイプだからな。大気の成分に適応させれば問題なければ行動は可能だ」

「なら、敵の出方を気にすれば良い訳だな?」

「そうだ。相手はオズ連合側の鮮血騎士団とアイビスタンの近衛部隊を保持しているからな。鮮血騎士団はアディル上級大将がどうにかするが……」

「それでも、向かってくるヤツは来るし、そのうえアイビスタン中央政府軍の部隊はどうにかしないといけないな」

「しかも、この空間だ。『下級魔獣』が徘徊している可能性がある。油断はするな?」

「わかった。善処する」

エクストラクターに身体を改造された魔装使いには『時限式の爆弾』があった。といっても文字通りの意味ではない。

時間が来るとコアに蓄積された汚染物質、すなわち汚染されたグリーフに生命力を飲まれる。絶命し抜け殻となった肉体は傷一つない死体となって置き去りとなり、その場で結界を生成する。

その空間内は外に居る生物の生命力を貪るべく、空間の要である『主』としもべである『下級魔獣』が産み出される。

結界内での活動が行なえる者は三種類に分けられる。必要な処置をされたパワードスーツ着用者か、メタアクターか、魔装使いかに分けられた。

そのため、各国の兵たちはメタアクト能力をもつ者以外は頭部を汚染されないよう、対グリーフ処置の施されたガスマスク状の装置か、強化外骨格かを着用していた。

『魔獣』や『主』は知能や精神を宿した脳を優先して狙おうとする習性があった。ヒトを始めとした知的生物の神経細胞を補食するのが狙いだ。

「王女の名誉回復の裁判のやり直しのつもりが……どうしてこうなったのだ」

「ラウ隊長、俺もそう思うが逆に好都合だ」

バニア王女の近衛隊長らしき女にシンがなだめる言葉をかける。

「それは分かるが……」

「それに……オネス大帝とやらの汚職や犯罪組織への関与は無視できねえ。どのみちこうなる運命だったのさ」

「まあ……戦う事に関して、否定はしない。ただ、相手は強大だ。我々バニアの民が何度も反攻作戦を行なっても返り討ちにしてくる相手だ。油断だけはゆめゆめなされるな……」

「任せろ」

シンがギラギラとした目つきになった。

タカオの知っている穏やかで朗らかな顔をしたシンではなく、闇夜の戦士の表情をしていた。彼は既に『シャドウ』となった。

「……あの日、アスガルドに渡ってからその顔が馴染んじまったな」

しばし思案するような顔をしてからシャドウは返答をした。

「……否定はしない。教授殿」

「無理はするな」

「心配するな。全員無事で帰るつもりだ。少なくともバレッドナインの面々は……」

「ああ……」

シン・アラカワこと、シャドウは通信を切った。

タカオは表情の消えた画面をぼんやりと眺めていた。







ブラックライダー号、車内。

シンを始めとしたバレッドナインの面々は装備を整える。

まず、メタアクターであるカズことカズマ・L・リンクスはこれと言った対グリーフ処置を必要としなかった。その代わり魔獣や『ヌシ』との戦闘に備え、軽量なプロテクターを装備した。そのプロテクターにはメタアクト能力が伝播しやすいよう、特殊な合金が使われていた。

この点はルイーザ・ルイ・ハレヴィこと『リボルバー・ルイーザ』も同様であったが彼女は更に魔獣などに対抗すべくSIAから特殊な弾丸をいくつか申請していた。ジャックも同様だ。

「こういうとき、旧式装備に慣れているといいことあるわね」

「ああ、全くだ」

「やれやれ、こういう時の二人は仲いいわね。妬いちゃうわ」

強化外骨格を着込み通常では持てない火器を装備したジャックがルイーザと話に花を咲かせる。それをやや不満げな目でアディは見つめていた。

前線向きの能力者であるアディはこれと言った装備は申請しない。せいぜい銃器をいくつか持つくらいだ。

「準備できた?」

カズの言葉に二人が答える。

「こっちは問題無し」

「各自チェックだ」

ユキ、シンの順に言葉を発する。彼らもふさわしい装備をしていた。

「よし、今回の作戦はオネス大帝以下数名の殲滅を支援する事と結界の『ヌシ』を始末し、異空間を除去することの二点だ。質問は?」

「なしだ」

全員の表情を見て、副長であるジャックが返事した。

いよいよ異空間へ。


次回もよろしくお願いします。

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