第六章 四十六話 首都攻略戦・異常あり、その四
この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。
ドウミョウは立ち上がり、シンに反撃を加えようとした。
シンは回避しすれ違いにカウンターを食らわせようとしたが、ドウミョウのほうも黙ってやられる人物ではない。自慢の身体能力で回避した後シンの腕を掴んだ。
「この野郎!」
ドウミョウがシンを倒した後、馬乗りになるようにしてシンを連続で殴った。
「セイイチ!」
「おい!?」
「と、止めろ止めろ!」
その場にいた全員がドウミョウの猛反撃を止めようとした。だが、シンは反撃した。ドウミョウの馬乗りの攻撃に対してどうにか攻撃を加えようとした。
腕を掴み、噛み付き、どうにか反撃の糸口を探った。
その過程でドウミョウは手痛い手傷を負ったが致命傷にならなかった。
「この野郎!この野郎!」
そこでようやくタカオが止める。その次にモリが説得に入る。ジャックもそれに加勢する。
「やめろ!いがみ合っている場合ではない」
「シン!やめろ!もう殴るな!噛み付くな!!」
「シン!!これ以上は駄目だ」
そこでようやく二人は殴り合いをやめた。周りの人間の助力を得て二人は距離をとる。
「…………」
「…………」
ハヤタ以上にドウミョウとシンの対立は深刻であった。まさに水と油。性分の相性が異なる者が出会うとこうも混沌とした果たし合いになるのかという有様を周囲の人間にまざまざと見せた。
「……おい、モリ。喧嘩しに来た訳ではないだろうが。さっさと用件を言え」
「すみません。タカオの兄さん」
「あにさん!?」
「あにさん!?」
ハヤタとシンが揃って驚愕する。
「……あに……へ?兄?え?」
ドウミョウが驚愕の面持ちで目を泳がせた。
「……一応、兄弟子だ。同じ流派の」
「……えっと?なんの?」
「空手だ」
「空手?」
「空手だ」
「からて」
ドウミョウがあまりにも間の抜けた表情で言葉を繰り返していた。
「兄貴とモリが?」
シンも困惑の表情であった。
「意外か?」
「いえ……ただ……世間は狭いなと」
「そうか」
「まあ、あまり見ない組み合わせだからな」
「そうか?」
「そうだ」
「そうか」
タカオとモリは互いに顔を見合わせてからうんうんと頷いた。
「あのー。そのお話はいつ頃から?」
ドウミョウが疑問を投げかける。
「アレは高校の時からだったな」
「ああ……そう考えると……三一五年のことか?」
「14歳の頃か……あの頃は楽しかったな……」
「ああ……」
シンはモリ室長が意図的に三一六年の時のことを避けているのを察していた。三一六年にシンの誘拐があった。その時のことは母の死を目撃したシンのみならず、兄であるタカオの心にも傷を負わせていた。
タカオとモリは少年の頃のような懐かしい表情を浮かべ会話を交わし始めた。
「……シンを追いかけてレオハルトと出会い、レオの父であるカールと喧嘩して、街の悪をズタボロにしてやって……いろんな事があった。『面と向かっての再会』がこんな形で残念だ」
「お前の活躍は聞いていたさ。『セントラル・ウィル』とやらとの戦闘といい」
「その前にマサタカの仲間と戦争だった」
「相変わらず物騒な男だ」
「怒った時の貴方よりはマシだ」
「どうだろうな。……まあ、今はこの混沌とした戦場を収めるのが先だ。居てくれたことに感謝している」
「ああ……弟の方は歓迎していないだろうが……」
「それはすまなかった。いろいろとすれ違ったものでな」
「すれ違いか……シンとハヤタのこともあってな」
「聞いている。そっちも大変だな。女の子の心は難しいだろうからな」
「マリンか……もう彼女はSIAの所属として動いている。……彼女はともかくシンの方とな……」
「……まあ、それに関しては明らかにそちらの落ち度だな。部下の過去もろくに調べずメンタルケアを怠った結果だからな。しかも仲間扱い『すら』しなかったのだろう?」
「……確かにな。その代償が『彼の怒り』という訳か」
「……俺も人の事は言えないが、親しい人間を傷つけられて放置されたら誰であっても怒る。そのうえ、シンは肩書きこそ『民間警備会社』だが、言い換えれば傭兵だからな。仕事仲間や家族の生死は繊細な問題だ。怒るとかそう言う次元じゃない」
「……わかった。だが一つ理解してほしい事がある」
「なんだ?」
「マリンにとっての『正義』は『アイドルになること』の延長線に過ぎなかったわけだ。我々にとって、その姿勢は迷惑だった」
「それは理解している。お前らの敵は『セントラル・ウィル』だけではないだろうからな」
「ああ……だからマリンは『正義の味方』足り得ない。それだけは理解してほしい」
「……まあな。だが、マリン・スノーの落ち度はシンだって承知している。それでも『守ることを選択した』ということは、きちんと考えがあるって事だ」
「どうして彼をそう信じられるのです?」
「弟だからな。『血は水よりも濃い』って事だ」
「なるほど……それにしてもレオハルトは?」
「ある意味兄弟みたいなものだ」
「兄弟?」
「お前と俺の関係と同じだよ。モリ室長殿」
「なるほど」
モリとタカオは会話を交わしているとき。シンとハヤタも言葉を交わしていた。
「……お前といい、モリ室長といい。どうしてそう『正義』ばかりにこだわる?」
「……それが仕事だからだ」
「……マリンにその『正義』を分けてやれよ」
「分けたよ。一度」
「一度?」
「自殺未遂しかけたんだ」
「……昔のお前は優しくて良いヤツだって思った。何がお前を変えちまったんだ?」
「…………」
「ミシマは元気そうだな。アイツも一度死にかけたのが嘘みたいだ」
「葬式までやったよ。自慢の親友だからな」
「……そうだな」
「なあ……」
「なんだ?」
「…………サワダは……」
「サワダも『神の剣』の適合者だからな。同じ適合者の殺し方を知っていた」
「マリンを?」
「ああ。下手すればその勢いでうちの人員も殺しかねなかった」
「…………」
「ありがた迷惑なクズ野郎だ。お前がどう思おうとな」
「……」
「……ハヤタ・コウイチ」
「……?」
「お前の事は尊敬『していた』よ」
「そうか」
「だが、二度とサワダのことは話すな。あのクズ野郎のことを思い出すと吐き気がする。怒りと殺意でどうにかなりそうだからな」
「……そう……か」
心底苦渋に満ちた顔で、ハヤタはうなだれた。
「さて、雑談はここまでだ。仕事の準備がある。……じゃあな」
対照的にシンは平然を装いながらその場を後にしていたが、ハヤタと交わした言葉の端々に怒りの音色が確かにあった。
異空間の解析が終了したヒューイが各国の兵員輸送車内の兵員と通信回線を繋いだ。
アスガルド共和国、AGU、フランク連合王国、アズマ国、オズ連合王国。
各国の精兵とインテリたちが一斉に通信端末を注視する。
SIA側の人工知能『ミネルバ』が自動音声を生成し、解析結果を発表した。
「こんにちは。SIAの多目的戦術予報および作戦支援ユニット『ミネルバ』です。わたしは今回の解析を完了させ、ある重要な結論にたどり着く事が出来ました」
「……重要な結論?どういうことだミネルバ?」
「はい、結界内部に特殊な反応を検知しました。おそらく――」
「紫電機関」
タカオが唐突にそう発言した。
「はい、当AIも結界内部に紫電機関こと『グリーフモーター』があると断定しました」
すべての兵員輸送車からどよめきの声が上がった。
「……グリーフ……モーターだと?」
「こんな小国に!?一体なぜ?」
「どこにそんな技術力が?」
「あり得ない……第一、グリーフモーターは……五大国以外は、製造を禁止されている筈だ!条約違反だ!」
当然SIA、アスガルド正規軍の両者からも騒ぎ声が響く。人から人へ。困惑が疫病の如く伝染爆発した。
その時だった。
「聞け!!」
レオハルトがSIA局員全員を一喝した。
沈黙が車内を支配する。
「我々はこの時を待っていた!魔装使いの反応!そしてその技術を応用してグリーフモーターを開発することは自明の理!アイビスタンからグリーフモーターが見つかる事は予想できた事だ!そして、それを発見出来たのは我々だ!SIAだけだ!」
SIAの方から徐々に歓声が響く。
アスガルド共和国はレオハルトの英断によって、大きな発言権を得た。
一歩先んじて先手を打ったSIA。
先んじて正義の側に着いたことを強調したレオハルト。
これによってSIAが五大国のバックアップを受ける事が出来る事を約束された。それは対エクストラクター戦略において重要な転換点を意味していた。
まさに前人未到。
アスガルド側のあらゆる偉人がなし得なかった偉業をこの若き将軍がなし得た瞬間であった。
当然、SIAと友好関係にあるバレッドナインもこの恩恵を預かる事が出来た。この事はデュナ王女救済を目的として行動する彼らに大きな追い風となる。あらゆる人員の支援、武器弾薬の支援、世論の後押し、そして名誉の回復。
一国の行く末だけでなく銀河の火種に繋がる危機を事前に防ごうとした彼女の功績はアスガルド共和国の支援のもと認められるようになる。
だが、その前に成すべき事がある。
『逆賊オネス大帝』の打倒。そしてアイビスタン本星を蝕む汚染グリーフの結界の除去。
これは最優先事項であった。
国がなくなってはデュナの名誉回復が無意味となる。
アスガルドの敵にして人類の敵であるエクストラクターの打倒を大義名分としてオネス大帝を討ち取ることがデュナ救済の必須事項となった。
「……すまんなレオハルト」
「お互い様だ。持ちつ持たれつってやつだ」
「やや利用された感があるが、目的が目的だ。納得はしている」
「感謝する。ヤツらの好き放題にされることは人類の破滅に繋がるからな」
「こっちもこっちで『王女様』の破滅に繋がるからな。ギブアンドテイクだ」
「ああ……ちなみに、今ドラコ君にものすごい感謝されているよ。これは楽しいことになりそうだ」
「ふ、アイビスタンとアスガルドに永久の友好あれってことだな」
「ああ、勝つのが楽しみだ」
「だがそうなる前に苦労しそうだな」
「エステラか」
「あの『時止め女』に対して策を考えねば」
しばし思案した後、シンが口を開いた。
「……なあ。中将」
「どうした?良いアイディアが?」
「ああ……ただ根比べになりそうだ」
「……お前の言う『根比べ』はシャレにならん……が、今は聞くしかないな」
シンはレオハルトにある策略のアイディアを述べた。
案の定、レオハルトは困惑した様子で傾聴していた。
シンの策とは?
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