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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 四十五話 首都攻略戦・異常あり、その三

この物語は残酷な描写が含まれる事があります。ご注意ください。

バレッドナインの『ヒューイ』とSIAの『ミネルバ』を始め、各国の人工知能・電脳システムが一斉に解析を行いながら、全軍が装備を整える。

内部の探索には特殊なパワードスーツかAFが必須であった。そのうえ、『結界』内部は大抵の場合、一個一個の環境が異なり、迷路のような場合もあれば、足場もないような茫漠な環境である事もあり得た。

「…………内部環境の解析は?」

レオハルトがエンジニアの一人に声をかける

「……八割完了。ただその過程で送り込んだ偵察ドローンの大半が大破しました。……内部に罠が多くあります」

「……罠か」

「玉座の間は現実のそれとほぼ同じですが、それ以外はかなり混沌としています。まるで侵入するものを拒むような……」

「具体的には」

「マイクロ波の出る灼熱通路、レーザートラップ、地雷原、バンカーを配備した広間に、兵士を象った人型魔獣が多数……」

「……魔境だ。文字通り」

そばで聞いていたイェーガーがシニカルな笑みを浮かべる。

SIA側の副長官であるチャールズ・A・スペンサー大佐は額に触れるようにして俯いてしまった。現状がかなりまずい事態であることを痛感している。だが、冷静さをどうにか奮い立たせたのかしばし思案の様子を見せてから口を開く。

「……『玉座の位置』は?」

「解析中です……」

「なるほど、データが必要な訳だな」

「……第一陣がどうなるかで決まる訳だ」

「SIAの面々もバレッドナインもいるからなどうにかはなるが……」

「確実に死者が出る。少なくない数が……」

「第一陣のメンバーは?」

「はい、バレッドナインの全ての人員、我々SIA側の特別機動班の主力、アズマ国の観測部隊とフランク王国の外人部隊や正規軍、オズ側は主力を多数投入するそうです」

「……ユダは?」

「彼らはほぼ全員。マサタカ所長は残るそうです。『結界』の外からバックアップを行なうと思われます」

「我々と同じか」

「はい、布陣自体はアズマ国を除き大部隊や精鋭部隊を投入の模様」

「いや、アズマもタカオがいる」

「……アラカワ教授ですか」

「シンの兄もまた英雄だということだ。シンがそうであるように」

「……どうなるのでしょう。この戦いは……」

「……エクストラクターの影がちらついていた以上はかなり壮絶な戦いになると分かっていた。……各員心せよ。激戦になる。諸君らの奮戦に期待する」

レオハルトは無線通信を起動し、兵員輸送車に向けて音声を送信した。

仮設司令部内にレオハルトの声が響く。

その様子をマサタカは横でじっと見ていた。







作戦に用いられた兵員輸送車両の装甲は厚く、しかも特殊なラミネート装甲やエナジー障壁で覆われていた、防御能力と車体の大きさ、積載量を見れば揚陸艦と表現しても差し支えないほどである。しかも車体は大きく、一台一台が要塞のような威容を誇っていた。その横に複数のAFが並走していた。AF部隊はSIAのジョルジョが中心となって指揮をとっている。

その車両の一台『ブラックライダー号』はSIAの面々とアイビスタン大連合の人員、そしてバレッドナインのメンバーを乗せて異空間内部へのホバリング態勢を整えていた。

「……ほとんど移動拠点だよなこれは……しかも浮くという……」

所々に包帯がされているサイトウが呆気にとられた様子で車外の様子を見ていた。

「……ここまで来るのが長かったなぁ……」

「過酷すぎる……しんど……」

アンジェラとキャリーが血の気の引いた顔でうなだれていた。

「……しんどいのはこっちだ」

「か、代わって……後生だから……」

無線越しにジョルジョとスチェイの疲労困憊の音声が艦内に響く。

「すまん……人員が……規定時刻まで耐えてくれ……」

レオハルトが申し訳なさそうに頭を下げている。

「へ……上官が部下に頭下げんなって……大変だろうが……やってやるさ……」

「貴方のおかげでSIA側の人員に死者はいないんです。けが人は多数ですが、どうにかしてみせますよ……」

「……すまん」

レオハルトとの信頼関係のおかげでどうにかSIAの指揮や戦力は保たれていた。死者がいないという実績。レオハルトの高い指揮能力と先を見通した戦術によって、全体の士気はぎりぎりとところまで高められていた。

「……ユダも困ったものです。このような茶番に全力を出すとは……」

「向こうは『正義』を体現するのは自分たちだと信じて止まないからな。ある意味カルト教団と戦争するより厄介な相手だ」

「……サイトウ中尉。いつ彼らが聞くか分からない状況で……」

「愚痴ぐらい言わせてくれよ……キャリーとレイチェルが死にかけたからな」

「……サイトウ、ちょっといいか?」

「うん、どうした?」

「何人かいないメンバーがいるだろう。彼らはどうした?」

怪訝そうな声色のジョルジョがサイトウに返答を促した。

「彼らは別業務だ」

「別業務?」

「俺たちの戦いは戦闘だけじゃない。いろいろと調査をしなければならなくてな。例えばアオイはミリアと共に聞き込みをしたりしていた」

「へえ、スチェイの妹の……だからか。アイビスタンが『抜き取るもの』との繋がりを疑ったのは」

「そそ、この国は小さくて主要な産業はせいぜい観光と天然の資源、嗜好品の豆ぐらいだしな。どうしてこの国が少し前からエネルギーを生産・輸出し始めたか疑問だったんだ」

「……『黒』だな確かに。でも大もてだって輸出したらもっと早くバレるだろうに……まあ、今バレているが」

「輸出は『裏の顧客』にだろうな……船とかなら予備バッテリーとして電気などに替えちまえば、売りようはあるしな」

「……アラカワ教授はそのことを考えて?」

「なぜ、シンの兄貴の?」

「教授は『この国は終わりだって』言ってたんだろう?」

「ああ、俺たちが動けなければ終わっていた」

「……シンが動いてなかったら?」

「…………結界に国が飲まれて大惨事だったな」

「そうだ。バレッドナインの動きは誰にとっても想定外だったから、各国が重い腰を上げれたが……」

「……シンに感謝だな」

「そうだな。アイツは悪人には遠慮も慈悲もないが、人助けには熱心だもんな」

「ああ。レオハルトが微笑んだのはそう言う事な」

「悪い笑みだったな」

「まあ……どこの誰か知らんが、『伝説の退役中尉殿』を怒らせたのは自業自得だ」

「でも、哀れにも思うだろう?」

「まあな、国王だか大帝だか知らねえけど、ここまで悪事を積み重ねちまったんだ……どんなに芸術的に殺害されても文句を言うヤツはいないだろうな」

「問題は……」

「シンとユダの……」

「正義の味方様か……」

ユダとタカオとシン。

火種の多さにジョルジュたちはげんなりとしていた。







シンは異空間内部突入作戦の前にある人物と出会っていた。

タカオ・アラカワ。

表向きはアズマ国帝都第一大学の教授として教鞭を振るっていた。だが、それ以外の時間では内閣特務室執行官として、国内外の脅威からアズマ国を守護していた。

そのため、タカオは『アラカワ教授』とも呼ばれることも『アラカワ執行官』と呼ばれる事もある。複雑な身の上の彼にはそれにふさわしい過去があった。

弟の誘拐、母の死、父の無念、弟の帰還、一家総出でのヤクザ組織との抗争、そして、弟の渡航。

タカオは弟とは違った悪を憎んでいた。

国まるごと。野蛮な愚者への憎悪。

その思いがタカオという男の情念を支配していた。

「……兄貴」

「……止まらなかったな。結局」

「アディの件。謝って。彼女に」

「……前科者になぜそうしてやる必要が」

「謝って」

「……」

アディは平然を装っていたが、腕が震えていた。

「……すまなかったな。……あー」

「ザザン・アディーネ・スコルピ」

「……どう呼べば良い。外国の名前はちょっと――」

「アディって呼ばれている」

どこか不機嫌でぶっきらぼうな口調でアディはそう返答した。

「わかった。……余計な事言って……あと、辛い事をしてすまなかったなアディ」

「…………いいよ。そういうことは慣れているから」

アディは目を逸らしながら、苦々しい表情を浮かべる。眼鏡越しに見える目がどこか哀しい印象を見る者に与えた。

「……アディ部長……」

ルイーザが同情するかのような苦々しい表情でアディの方を見た。アディが何か答えようとした時だった。タイミング悪くユダの面々が来た。

「…………シン。お前か」

ハヤタ・コウイチ。正義の申し子。あるいは『鋼鉄の正義漢』と呼ばれた男が立っていた。

ユダの中心人物にして最重要人物。それが彼であった。

ラインアークの偶発的な接触と巻き込まれるようにして、戦いに参加し、そして『正義の味方としての使命』に目覚めた男がいた。彼とシンとの出会いはラインアークとの出会いよりも偶発的なものであった。

アスガルド軍とユダの合同作戦。そのシャトルの中で彼らは出会った。

簡単な自己紹介の後、二人は奮戦した。そして認め合った。

シンはハヤタの輝かしい使命感を。

ハヤタはシンの強き信念を。

二人は互いを尊敬した。

だが、すれ違った。

「……お前か。コウイチ」

シンは軽蔑するかのようにハヤタを見た。

「よくもお前はマリンを見捨てられたな?独りぼっちで苦しんでいたというのに。しかもお前は『本命の恋人』と仲良さそうにイチャイチャと……」

「……」

ばつが悪そうにコウイチは目を背けた。

「俺がマリンを救ったから良かったものを……もしマリンがサワダのクソ野郎に殺されて首だけになって帰ってきたら、誰が責任をとるんだ?……ああ?」

シンは憎悪の目線をハヤタに向ける。それは戦友兼親友に向ける目線では到底なかった。

「……あいつは問題児だったんだよ。マリンは」

「あ?」

そばに居たドウミョウの反論にシンは憤怒の形相をドウミョウに向ける。

「常に調和ばかり乱して……そのくせ自分の都合ばかり……悲劇のヒロインぶって周りを困惑させてばかりの女なんていずれ……」

「おい……だから死んでいいってのか?」

「……サワダの言い分ももっともだ。アイツは『偽善者』だよ」

シンはドウミョウを殴った。渾身の右ストレート。

怒りの鉄拳。ドウミョウの体が二メートル飛ばされた。

シンとハヤタ。二人の関係。複雑にすれ違う正義と男たち。


次回に続きます。

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