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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 四十四話 首都攻略戦・異常あり、その二

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

 極彩色の球体がアイビスタン王城を飲み込んで数時間後。

『ユニコーン王立王城前公園』にて、各国軍隊が集結した。

 その名の通り、公園の中央には一角獣の像が設置されている。

 その地点を中心にSIA、アスガルド正規軍陸上部隊、ユダ、AGU正規軍、アズマ国国防軍陸戦部隊、フランク連合王国王立騎士団、オズ連合正規軍、そしてバレッドナインとアイビスタン大連合の連合部隊が仮設陣営を設置していた。彼らはメルヘンかつ派手な色彩で輝く異常な空間の様子をリアルタイムで警戒していた。

「……まさか、レオハルトの言う通りになるとは……な」

 ユダのマサタカ・サカモト所長が苦々しい目で異空間を睨みつけた。

「厳密には私だけではありません」

「?」

「彼も協力しました」

 レオハルト・シュタウフェンベルグ中将はタカオ・アラカワ教授の方を見た。彼はシン・アラカワと何かを話していた。

「……アズマ国きっての智者。アラカワ教授か」

「彼は後一週間ほどすればアイビスタンが完全に飲まれると計算していたようです。現に彼のアイビスタンの知り合いは国外へと出ています」

「……その知り合いとやら、全て知っていたのか?」

「いいえ、……ただアイビスタンは終わりだと話されていたそうです」

「……それで信じてもらえるとはかなり信頼されているな」

「ええ、あの『東の国の賢者』ですからね」

「……なんともファンタジックな渾名だ」

「ですが核心を突いた名前です。実に彼らしい」

「まあ……な。『予言者』とも日頃から渾名されるだけある」

「全くだ。……これで貴方のモリ室長が正規軍に手出ししなければ完璧だったのですが」

「その件は『一部』お詫びする。だが、そちらにも落ち度はあったのだろう?」

「……否定はしませんが、不幸な流血が起きた以上そちらの力の振るい方を考えていただきたいものですな」

「だが、戦場での出来事だ。全てを制御できる訳ではない」

「もっともだが、再発防止は考えていただきたい。世論がどう傾くか分からないものでな。ユダの皆様にはくれぐれもご理解いただきたい」

「善処しよう」

「…………頼みますよ?」

 レオハルト中将とマサタカ所長との間に微妙な空気が流れていた。

「……あなたは総帥時代の悪癖は抜けきりませんね?どうも……」

「それは嫌味かな?」

「いえ、ただシンやジョアッキーノ中尉たちは貴方のことを良くは思わないでしょう」

「ジョアッキーノ中尉……ああ、エースパイロットの彼ですか。彼の名前はアスガルドでは聞かない名ですな。たまにジョルジュかジョルジョか間違えそうに……」

「まあ……彼は元々アタリア国の人間ですからね」

「アタリア……AGU側の移民かな?」

「ええ、アズマ人でありAGU側の人間である貴方たちとは共通の話題もあるでしょう?」

「我々も様々な苦労は多かったな。銀河共通語が苦手なハヤタに、各国の軍関係者との軋轢がある私側の部下といい……」

「……『サカモト機関』と『ユダ』が別れていた時代は我々も手を焼きましたな」

「その節はすまんな」

「お互い様だ。それよりそちらはどうだ」

「突入の準備か……こちらは問題ないそちらは?」

「どうにか……だが、正規軍側が怖じ気づいている」

「……先の損耗が響いたか」

「だから、穏便に済ませたかったんですがね」

 レオハルトのそばにイェーガー少尉が歩み寄ってきた。レオハルトはすぐにイェーガーの方を見る。

「レオハルト様……少し問題が」

「……正規軍か?」

「いえ……それよりも、シンとドウミョウが」

「そっちか」

「ええ」

 アラカワ退役中尉とドウミョウ・セイイチの仲の悪さは有名だった。

 片方は戦闘技術・戦術・身体能力以外は常人の、叩き上げの元空挺部隊員。

 もう片方は、あらゆる能力・教養が抜群でハヤタの片腕として敏腕を振るう天才少年。

 この時点で二人の目線は完全に違っていた。

 一方は、平和な国で育ち才能や仲間にも恵まれた寺育ちの神童。

 もう片方は、戦場と闇社会を生き抜いた現実主義者の若き強者。

 そもそも見ているものが百八十度違っていた。

 それに加えて、二人の間に致命的に違うものがあった。

 マリン・スノーへの見方であった。

 シンは自身の凄惨な過去もあり、シンはマリンの過去や価値観に寄り添う事が出来た。今現在に至ってはたびたび文通をする程の仲の良さである。

 一方のドウミョウは、彼女の悲観的な言動や精神的な見返りを求めていたマリンの行動に対して快い気持ちを抱いておらず、かつて行動を共にしていた彼女と反発する事が多かった。

 そんなマリンのこともあってドウミョウとシンの間にはより一層の軋轢が存在していた。

「…………」

「…………」

 もはや両者は言葉を交わす事なく睨み合っていた。

 両者は明王か阿修羅かを思わせるような形相でお互いに凝視を続ける。

「く、空気が……重い……」

「これ喧嘩というより殺し合いになるぞ……」

 ジョルジョとジャックが揃って異様な雰囲気の二人に言葉を残していた。

「……あのー、ドウミョウ君?」

「……なんだこれは?」

「ええぇ……なにこれ……」

 ユダ側のハヤタとモリ、ミシマも両者の間の殺気に困惑の表情を見せる。

「ドウミョウ、落ち着け」

「シン。それ以上はやめろ」

 マサタカ所長とレオハルト中将がとうとう両者の仲裁を行なう羽目になった。

「……ふん」

「……チッ」

 両者は完全にいがみ合っていた。早くも多国籍軍の連携に難が出始めていた。

「……我々の正規軍のこともあるが、協力者であるバレッドナインとの連携の問題もある。……いがみ合っている時間はないというのに……」

 レオハルトは頭を抱えながら両者の様子を見ていた。

 仲間と共にいるシンは穏やかな顔をしている。仲間を気遣っていた。

 ドウミョウが仲間と話す時の顔は明るい。突飛な冗談すら言っている。

 だが、両者が出会うと殴り合いになる。人間関係の難解な問題であった。

 そんなマサタカとレオハルトの二人のそばに近寄る人物が二人いた。

 一人はジル・ベフトン。

『盾の騎士』とも呼ばれるフランク連合王国屈指の実力者であった。騎士らしく完全武装な上、彼のトレードマークである巨大な盾を携行していた。

 もう一人は、アマミヤ・ケンヤ。

 アズマ国にて『銀狼』の異名を持つ名門武家の五代目当主である。シン・アラカワとの繋がりは深く、アスガルドに渡った頃のシンの武道の師の一人であった。

「我が弟子が迷惑をかけたな。レオハルト殿」

「いいえ、むしろ彼がいなければ大惨事になってました」

「ほぉ……彼はそれほどの活躍を?」

「ええ、彼の功績です」

「やれやれ……真相解明の功労者とあろうものが、もっと落ち着いた振る舞いをすればいいのにな……」

 ジルの方もこの状況に困惑の様子を示していた。

「……長年、戦場にはいましたがこんなちぐはぐな状況は久しぶりですな」

「……久しぶり?」

「ええ、ケンヤ殿。オズ連合のある部隊と私の部隊が合同作戦を行なった時以来ですよ……」

「い、一体どんな?」

「話せば長いですよ」

「なるほど、いずれ聞かせていただく。それよりも……」

 ジルは城が存在していた方角を見た。そこには異空間への球体の裂け目があるだけだ。神妙な面持ちでジルは目の前の異様な光景を睨みつける。

「……面妖だな。実に」

 吐き捨てるようにジルはそう言った。

 目の前の『裂け目』は未だに動きがないが、『下級魔獣』の出没は時間の問題であった。極彩色の球形が脈動するかのように空を侵食し、徐々に空間をこじ開け始めていた。

「…………聞こえる」

 タカオ・アラカワ教授は呟くようにそう言った。

「……聞こえる?」

 ジルが怪訝そうな顔でそう言った。

「…………亡者の声だ。空間に『記録された声』が聞こえる」

 空気中に散布される微量の『汚れたグリーフ』の残滓を媒介して、『声』を感知していた。

「……どんな声だ」

「……『怖い』とか『痛い』とかだ。たまに別の声も聞こえる」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………なるほど」

 アマミヤ、ジル、レオハルトの三名はぞっと寒気を感じるような表情を浮かべる。マサタカ所長はしばし思案した後、頷くように『なるほど』と言った。

「……各国の軍隊の準備はどうなっている?こちらは諸侯から軍隊を預かっている」

 ジルが冷や汗を垂らしながら、これからの作戦を急いだ。

「……俺が聞いた限りだと、アズマ国はアラカワ教授を中心とした観測部隊と国防軍による制圧部隊を編成していると聞いている。他は知らん。あ、だが、弟子のシン……バレッドナインは少人数だから準備はもう終わっていると聞いているな」

「ユダに関しても問題はない。足並みさえ揃えばいつでも行ける」

「SIAに関しては問題ないが、正規軍に関しては先の損害の件もあり、大幅に遅れる。一刻も速く突入すべきだから、我々は第一陣、彼らは第二陣として参戦するそうだ」

「……オズに関してはどうなっている?」

「ああ、その件は『彼』が来るそうだ」

「……彼?」

「……オズ側の人物で比較的信用できる人物だ」

「……ああ、彼か」

 この陰鬱な雰囲気に似合わぬ豪快な大音声が辺りに響く。

「おおおおお!お久しぶりだなぁ!レオハルト君!!」

「やはり……貴方でしたか。アディル上級大将」

 アル・アディル。オズ連合王国においてその名を知らぬものはいなかった。豪放磊落。その表現に違わぬ大男であった。それと同時に彼は理を解する智者でもある。大軍を率いる者としてこれ以上にない貫禄があった。

「それに……ジル君にマサタカ君にアマミヤ先生ではないか!こんな不吉な状況でなければ酒盛りをしたいくらいだ!作戦後にやろう!是非!」

「……これまた騒がしい人物が……だが、彼ならば信頼が出来る。ありがたいことだ」

「おや……なにか我々側に不味い人物でも?」

「ええ、ちょっと愛国心が暴走した輩が」

「……鮮血騎士団のことかね」

「理解が速くて何よりです。彼らはおそらく、アイビスタン国王と共にいると推測されます」

「……なんと……彼らがなぜ他国の王と?」

「今はまだなにも……」

「いずれにせよ我々は準備完了だ。近衛兵団も砲兵隊も揚陸突撃兵団も既に準備完了しておる!」

 かくして五大国家の大部隊がアイビスタンの地で集結し、未知の大惨事を食い止めるべく『異空間への突入作戦』が敢行されようとしていた。

深まる謎と共に最終決戦へ。

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