第六章 四十三話 首都攻略戦・異常あり、その一
この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください
シンはアイビスタン軍の突入を合図に叫んだ。
「ユキ!やれ!」
それを合図に政府軍の施設や通信基地、王城の門などから轟音と炎が起きる。どうっといった重苦しい炸裂音と共にバレッドナインは作戦を次の段階へと移行させた。
「バレッドナインはこのまま王城へと突入する!先陣を切り、後続の部隊への活路を開く!」
シンの合図と共にバレッドナインは前進を始める。途中何人かの敵が機関銃や対戦車砲を持って攻撃を行なってきたが全て返り討ちにされた。それだけでなく、彼らの使っていた装備は根こそぎジャック・P・ロネンによってありがたく頂戴される羽目になった。
「良い装備だ!感謝するぜ」
「……山賊じゃないんだから」
「アディ、細かいのは無しだ!使えるもんは使う!戦場の鉄則だ!」
「合理的だな。俺ももらおう」
「……シン、貴方まで……」
「生き残る事だけを考えろ。相手は強敵だ」
「……ふう、そうね。拳銃か短機関銃をもらえるかしら」
「ああ、これ使いな」
ジャックがアディに短機関銃を渡す。旧式の火薬式だった。
「うん、大丈夫そうね」
アディは敵の武装を慣れた手つきでチェックする。歴戦の傭兵ジャックの相棒に恥じない手際であった。
「ルイーザは銃いる?」
「これがあるから。あ、でも弾薬は回して、9ミリ弾ある?」
「あるある。後進国の戦場じゃあ使う装備は旧式だからな。当然あるぜ」
「あたしにそれ言う?」
「それもそうか。これ使いな」
「どーもー」
アディは火薬式オートマチック拳銃のマガジンを受け取った。
「スピードローダー持ってきてよかったわ」
いくつかのマガジンから9ミリ弾をスピードローダーに移しながら、ルイーザは呟いた。弾丸がリボルバーに装填しやすい状態となる。
「ルイーザ、今日日どうしてそんな骨董品にこだわる?」
「粒子式だと能力との相性が悪いし、なにより使い慣れているからね。癖が分かるから限界以上を引き出せるのよ」
「やれやれ……あんさんも変わり者だな」
「褒め言葉と受け取っておくわ」
ルイーザは弾薬を装填しやすいように準備を完了させて真っ先に周辺を伺った。敵影はないが、異質な雰囲気を彼女は感じた。
「……ルイーザ、お前も気付いたか」
「シン?あなたも?」
「……確かに変だな」
火薬式機関銃を抱えジャックも周辺を伺った。カズだけがおろおろと周囲を伺ったがすぐに何かを察してシンの方に頷いた。
「…………いる。これで二人目だ」
「……『神の剣』の乗り手はナノマシンの恩恵によって強化された身体能力と、メタアクトに匹敵する特殊な能力を得るからな。『来る』とは思っていたが……」
シンが何かを投げる。石だ。
羽根手裏剣ではない。だが、それは敵を動揺させるのに十分な手段となった。
敵が思わず後ずさる。距離はかなり遠いが、蜃気楼のような風景の歪みが誰の目にも確かに認識できていた。
「…………気付かれたか」
「ああ……出てこいミシマ」
「そういうわけにはいかない。小国を侵略した君たちを止めるために来た」
「……これもレオハルトの言う通りだったな。あらゆる手段で我々が悪役に仕立てられるって」
「内政干渉を行なう大国の侵略者と黒幕。まさに悪のテンプレートね」
アディが自嘲気味の口調でシンの発言に続いた。
「……アディがそんな事言うなんてね?コミックは嫌いじゃなかった?」
「ものによる。ヒーローものはもちろん嫌い」
「……だろうなぁ。カラス男さんの仲間じゃ仕方ないな!」
後ろから男の声がした。見覚えのある金髪に染めたアズマ人が現れる。戦場には似つかわしくないカジュアルな出で立ちの軟派そうな男であった。
ドウミョウ・セイイチ。
AGUの特務機関『ユダ』きっての『万能の天才』であった。
姿は一般人や観光客のように見えるが、その立ち振る舞いに一切の隙が見えなかった。否、隙をわざと見せているが、それは偽物の隙であった。シンとジャック、アディ、ルイーザ、ユキが敵の異質な立ち振る舞いに否応無しに警戒心を強めてゆく。近接格闘や武道の素養がないカズだけが他の様子を見てそわそわとしていた。
相手はへらへらと笑いながらこちらへと近寄ってくる。
「カズ、敵はかなりのやり手だ。警戒しろ」
「え、あ、うん……」
カズがようやく細胞の活性に意識と力を集中させる。だが、その様子を見てもドウミョウは動じる様子がまるでなかった。
「久しぶりだね?マリン・スノーの保護者さん」
「よりにもよって貴様もとはな。マリンの件は反省したか?」
「それよりそっちが反省しなきゃ?マリンも問題児だったけど……アンタも大概だよね?」
「間違ったやり方に隷属する趣味はないのでな。あいにくだが」
「おお、怖い怖い。こっちは平和的に侵略を止めたいだけなんだが」
「国王の皮を被った犯罪者兼売国奴とその他諸々を逃がしたくないからな。道を開けてくれたらなら、今までの罵詈雑言を詫びてやろう。寺育ちの悪ガキ」
「おおっと、こっちの武装解除命令に従ったなら……そうだな……あ、『悲劇のヒロインぶるな』ってアイツに言った件を詫びてやるよ。怪奇カラス男さん」
「………………へぇ、とっっくに詫びているものだと思っていたのだが」
「うーん、あいつとは反りが合わなかったからねえ……」
シンは声色こそ普段通りだが、表情が殺気立っていた。特に目は普段のようなリラックスしたものではなく、猛禽類を思わせるような鋭い視線へと変わっていた。戦闘態勢にシンは既に入っていた。
「……あの、シン?」
「……挑発に……って向こうもやる気か」
「あら、私としてはこういう連中は虫酸が……ね」
「アディ部長……?」
戸惑うカズ、渋々応戦準備を行なうジャック、乗り気のアディに、味方に驚くルイーザ。さまざまな反応を示しつつも、バレッドナインとユダ別働隊は激突する。
シンとドウミョウが正面から激突した。
「うるぁぁぁぁああああ!!」
シンが鋭い蹴り技を繰り出す。
「オラオラァァアアアア!!」
猛烈な打撃を繰り出すドウミョウ。
変幻自在に動くドウミョウに対してシンも苛烈な攻撃を加えた。ドウミョウは始め相手を舐めきったような動きで応戦したが、シンの大砲のような凶暴な打撃に対して、次第に追い詰められ始めた。
「……一人じゃヤバかったな」
「!!」
幽霊狙撃手ことミシマが透明化した状態で威嚇射撃を行った。
一度。
そして、もう一度。
シンが弾丸軌道を読み、最低限の動きで安全確保を行なう。
粒子の弾丸がシンのすぐそばをかすめる。
「次は当てる」
それはまさに生きた光学迷彩であった。そこにユキが反撃を加える。
「はいそこ、邪魔しない」
ユキの攻撃に合わせてバレッドナインの他メンバーも援護射撃を行なった。
狙撃というに対する応戦の答えの一つ。制圧射撃。すなわち面での迎撃であった。
シンは狙撃に気取られ、敵に反撃の機会を与えてしまうが、どうにか態勢を立て直す。
「……りゃあ!」
ジュードーの動き。
相手の重心を片手で崩し敵の態勢をふらふらにした。普通ならそのまま倒れて終わりだが、ドウミョウは一度転がってから再度立ち上がった。獣のような軽快な立ち回りだ。ドウミョウは笑みを浮かべながらファインティングポーズを再度とる。
「生意気なガキが」
「結構やるじゃん。すっごい殺気」
敵は追い詰められていたが楽しんでいた。
シンは相手が若手である事に加えて、自身より長身で軽快な動きを行なう相手に決定打を欠く羽目に陥った。
「…………チッ」
相手が挑発を繰り返すが動じない様子をシンは見せる。
「じゃ、しょうがないね」
今度はドウミョウが大振りな蹴りを加える。
シンは防いだが、体がわずかに下がる。
「お、次はこれ!もひとつこれ!さらにこれ!」
ドウミョウが軽快にラッシュを行なう。
打撃、打撃、打撃、蹴り、打撃、打撃、蹴り、蹴り、打撃。
打撃、蹴り、打撃、打撃、打撃、蹴り、打撃……。
雨あられのような攻撃がシンに消耗を強いる筈だった。
「調子に乗るな」
シンはドウミョウの繰り出した足を両手で掴み、そのまま反対側に投げ飛ばした。
「ぅるぁあああああああああああああああああああああああ!!」
否、近くの壁に叩き付けた。
「ごぉッ……」
164センチ程度の小さな体躯から重戦車のような馬力が発揮される。20センチ以上の差があるドウミョウがいとも簡単にトタンや地面とキスをする羽目になった。だが、その怪我はシンの予想より小さかった。
「……凄いな。人間ってとっさに受け身とる癖があるよね」
鼻から流血し、身体のあちこちに打撲の形跡はあったが、ドウミョウは戦闘に支障はないようであった。
「シン!無理は駄目!」
「だが挟み撃ちの態勢だ!逃げられん!」
「く、このままじゃ城内の潜入どころじゃ……」
だが、そこで異変が起きた。
アイビスタン王城。
そこの一部が極彩色の球体に飲まれる。
最初は一部であった。だが、王城のあらゆる箇所から次々と球体が形成されてゆく。そしてそれは巨大な球に合一され、王城が『一つの空間的歪み』に吸引されていった。
「な……な、なぁ!?」
「あれは……」
ミシマも戦闘をやめ光学迷彩を解く、その動揺した顔がシンたちにも見えていた。だがシンたちはそんな事すらどうでもよくなった。
王城を飲み込む歪み。それが意味することは一つだった。
「……レオハルトの言っていた『敵』が……」
「……人が……城が……」
「…………これはまずいわ」
「なに……あれ……」
「城が、城が……飲まれてゆく……」
「おいおいおいおい……どうなっちまうんだこれ!?」
バレッドナインのメンバーもこの奇怪で狂気に満ちた光景に唖然とするしかなかった。当然シンも唖然とした。
そして、ユダ別働隊の二人もまた目の前の状況に混乱するしかなかった。
城内へ。
次回もよろしくお願いします。




