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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 三十九話 ナタラの影、その九

この物語は残酷な描写が含まれる事があります。ご注意ください。

ユキは作業を急いだ。

カズやルイーザが周辺を見てくれているのが救いではあるが、それでも時間が限られていることには変わりはなかった。

「……王城内のPCからのアクセスは良好。見取り図の確保は……これか。完璧ね」

首都警備軍の駐在基地の一つに潜入した三人はシン同様、警備兵を排除し誰にも知られないように基地中枢へと潜入した。三人での潜入だったため動きづらく潜入には時間がかかった。

だが、ルイーザの『アロー』による報告とカズのメタアクトによる敵兵の感知、ユキの警備システムの無力化などによってどうにか潜入に成功した。

「うう……ちょっと怖かったな」

「でも、何とかなったでしょ」

「ルイーザさん、そうは言うけどやっぱり僕はしんどい」

「弱音吐かないの。まだ仕事が残ってるよ」

「ユキさんが頑張って首都の警備情報を抜き取るんだよね。国王の居場所とか」

「そう、だから頑張りなさいな」

「……うう」

軍事作戦に慣れているルイーザはともかくカズはかなり疲労困憊の様子であった。それでもカズが参加した事で打開出来た状況も多かった。今回の潜入もその一つだった。

データを小型の端末に転送した後、ユキは二人と共に基地をこっそりと後にした。

その後はひたすら市街地を抜け、シンと合流するだけである。三人は急いで裏通りを駆け抜けた。

「止まって!」

カズが不意に叫ぶ。

「……カズ?」

「どうした?」

壁にはナイフが刺さっていた。

「…………いる。二人」

カズは進行方向を指差して二人に言った。

敵は確かにいた。

二人。カズは確かにそう言った。

だがいたのは一人だった。

「……ヒューイ。アディとジャックは?」

「交戦中らしい。とんでもない変態野郎がアディに執着している」

「……アディは災難ね」

「全くだ」

ユキとリンク接続した『ヒューイ』が全体の状況を逐一ユキに報告してくれているが、すべてを把握出来る訳ではなかった。例えば、敵の数。隠された今現在の情報を知るにはアナログな調査を自力で行なう他ない。すなわち、会敵し、敵を知る事。それ以外は過去のデータでしか知り得ないことであった。

暗視モード。

ユキは自身の人造人間としての強みを最大限に使った。両腕と内蔵された補助演算脳以外は通常の成人女性の肉体と変わりないが、彼女は人間としての範囲で出来る限界を拡張されていた。

敵は視覚では確かに一人だ。だが振動や音は二人分の痕跡を指し示していた。

カズマ・L・リンクスが言っていたのはこのことであった。

『透明人間』がルイーザに強襲を仕掛けた!

手には刃物。だがルイーザは位置を知る術が無い。

閃光。

ユキの右腕部が変形し『透明人間』に向けて射撃を行なう。

透明人間が後ずさる。『彼』が居た位置にあった壁。そこにはカボチャ大の大きさをした焼け焦げた半円の銃痕が残った。

「………………失敗か」

「そういうことね」

ユキがキャノン状の右腕を構える。ルイーザもそれに合わせ拳銃を構える。

「いいや敗北とは言ってない。失敗はしたがそれは一時の結果に過ぎない」

「何言ってんだこいつ」

ぶつぶつと会話を繰り返す異様な敵の様子にルイーザは面食らっていた。

「ワケワカンネ」

「ワカンネ」

アローたちも困惑している。殺気を放つ以上は敵であるとは分かる。しかしそれだけであった。手元の情報は奇襲してきた側が光学迷彩装置なしで透明になれる能力者であることと前方の敵が姿を表して戦っても問題ない能力か技能を保有していると言う事だけであった。

「わけわからないなら撃つよ!どうせ敵でしょ!」

ルイーザは拳銃を放った。

火薬が炸裂する音と共に猛烈な勢いで射出された二発の金属弾が敵を貫く筈であった。

「……うそ…………」

ルイーザは唖然とする。敵は頭部を射止められた筈だったが生きていた。

弾丸は額の皮膚で止まり地面へと落下する。男の顔は甲羅のような硬質な物質で覆われていた。

「無機生命体……?」

「違う!さっきまでヒトだった!元は!」

トレンチコートの男は硬質な皮膚のままこちらへと突進する。

「……この!」

ルイーザは再度拳銃を撃とうとした。だが、薄皮一枚を何者かに切断される。

「なぁああ!?」

軽い出血と共に拳銃が転がり落ちる。透明な何かが蹴っ飛ばそうとその足が動くのがルイーザの目には見えない。暗い夜である事も災いした。

「アロー!!」

そう叫ぶと、半透明な分身たちが拳銃を一点だけ動かした。『アロー』そのものは非力であったが、モノを動かす程度の動作は出来た。

タァァン。

火薬の弾けるチープな音と共に拳銃が発射される。拳銃弾は敵を射抜く事は出来なかった。

だが、その『反動と向き』が肝心であった。宙に浮いた回転式拳銃が発射された反作用によって銃そのものが反対へと動いた。そこにはルイーザがいた。

「ガッチャ!」

『捕まえた!』を意味する言葉をルイーザが叫ぶ。拳銃を手にするのはほぼ同時であった。

「……ぅんの!」

壁を背に味方のいる地点以外の場所をルイーザはデタラメに乱射しようとした。ユキが腕部キャノンを放った。そこは一見すると虚空だが、その先に気配があった。ルイーザがその地面の一歩後に一発撃つ。すると悲鳴のした場所に一点の弾痕を中心に小さな血液が辺りに飛び散った。

「かすった!ダメージは小さい!」

「……そんなことないわ。ルイ」

「けど!」

「血を見なさい」

「血?……あ!?」

その場から逃げるようにして血が滴り落ちる。それは空間と同化した皮膚から血の雫が流れ落ちていた。

「不自然な動き!光学迷彩とは違う!」

「そこを狙う!」

だが、障害は一つではなかった。二つあった。

トレンチコートの怪人が何度もカズを狙っていた。

「逸らすだけで!」

カズは空気の流れを急速に変え打撃の軌道を大きく逸らそうと必死だった。能力を行使するたびに疲弊は大きくなる。カズは徐々に息を切らし始めていた。「むぅぅ……」

怪人がうなるような声を上げる。

両の腕を上げ強力な一撃を繰り出そうとしていた。

「ぐぐぐ……」

カズは既に逃げる体力を失っていた。虚をつかれ体が動けずにいた。

ルイーザとユキがカズを一気に引きずる。

カズはどうにかコート男の渾身の一撃から逃れる事が出来た。しかし、カズはさらなる苦難に晒される。

透明男だ。

彼の動きをどうにか察知し、両の手でナイフを持つ手を抑える事が出来た。だが、能力の行使はともかく、殺し合いや力比べの経験が浅いカズにとってこの状況自体が絶体絶命であった。

「ほう、これは王手すばらしい筋書きにして結末への過程」

透明男は自身の勝ちを確信しカズにのしかかろうとした。

「そうかしら?」

「……見えなくても、分かるわ」

ルイーザは火薬式拳銃を手早く装填。ユキも右腕を構え、ある一点に砲口を向けた。

「……なん……と」

一斉射撃の苛烈さはカズでなくても唖然とするほどの勢いがあった。

ユキの射撃は右腕部のアームキャノンの威力と射手の技量が相俟っているものであったが、それ以上に特筆すべきはルイーザの射撃である。正確に急所を撃ち抜き、リロードのスピードも神業級の速さであった。

撃って、撃って、撃って、装填。

撃って、撃って、撃って、装填。

連続する破裂音と粒子弾が肉体を貫く音が、生々しく敵を撃ち抜いた。そしてはたと敵はふらふらとよろめき血を吐いて倒れた。

「おがぁぁああああああ!」

コート男はユキに摑み掛かる。ルイーザが止めようとするが捕まえられ首を締められる。二人はそれぞれの片腕で首を締められる体勢になった。

「やめろぉぉッ!」

カズは空気を操作し、風を即席で生成する。皮膚周辺の細胞からメタアクト因子がバラまかれる。

操作された酸素などの粒子が暴力的なまでなエネルギーを纏う。

風の刃だ。

コート男の目が風の刃で斬りつけられる。

「があああああ!」

男が切られた目を抑えようとした。そこをユキは見逃さなかった。

ユキは右腕部粒子キャノンを眼窩に構え何発も撃ち込んだ。

敵の頭部の肉や脳が焼き切れる臭いが辺りに充満し、コート男も倒れ伏した。彼は即死だった。透明男と違う結末だった。

透明な彼の方は簡単に死ぬ事が出来ず、血を口から吹いていた。次第に透明の能力が解除され、男の姿が明らかになる。

マフィア然としたスーツの男だ。

肌は黒く、頭髪はきっちりと整えられていた。

「……こ、こ、これが死。そうだ消滅とはこういうことか。はははこれこそが死か。罰なのだな生きるために食らった命はともかく……ごほ……ごぼ……」

男は再度血を吐いた。そして懐から拳銃を取り出すと自分に向けた。

「……結果は……もかく……楽しい戦いだった。……ナタラ……にと……て……闘争がすべ……て……」

閃光と共に男の頭部は熱と光の線で焼き切れた。

「イカレているわ」

ユキは死体を見ながら吐き捨てるように言った。

「否定はしない。これぞ鉄砲玉ね……」

「うう、しんどかったなあ……」

ふらふらなカズをルイーザが支えた。

警察車両らしきランプの光と音が三人の場所に忍び寄った。

「逃げるよ!」

ユキたちはその場から足早に去っていった。






オネス大帝の居る玉座には大帝を除いた二人の人物がいた。

一人はスーツのアズマ人だ。糸目の男で軽薄な笑みを絶やさない。

ノブだ。

そして、もう一人はエステラ。

バニア族の身でありながら、アイビスタン軍の制服を着用している。

「……アイビスタン国王オネスの名において、エステラ。汝を将軍に任命する。余の治世の為にその『時空凍結』の力を存分に振るうといい」

「御意」

凛とした立ち振る舞いでエステラはオネス大帝の言葉に低頭の姿勢で応える。

「さて……こちらの方も準備出来ています。……なにとぞ至急」

ノブは手を揉みながらエステラの返答を待った。

「ああ……例の件は存分にやるといい。最低でも……時間稼ぎになる」

「…………」

ノブは不穏な笑みを浮かべながら玉座の間から退出した。

そこにはエステラと国王が残される。

「国王様。どうかご安心ください。脱出ルートと亡命先の選定はすんでおります」

「うむ……これでさらに贅を尽くす事が出来るありがたい事だ」

国王は下品な笑みを浮かべる。

同時にエステラも笑みを浮かべた。氷のような冷血な笑みであった。

インフルエンザの話題もあり、戦々恐々の日々でございます。


さて間が空いてしまいましたが、次回はデュナとシルバを中心とした話となるでしょう。次回もよろしくお願いします。

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