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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 三十五話 ナタラの影、その五

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

アイビスタン本星の宙域のことである。

アスガルド共和国の軍艦は合計三一〇隻。これはアスガルド共和国軍の1%にも満たない数字であったが、それでも、これから迎え撃つ敵の『頭数のみを考えると』十二分に過剰な数字であった。

SIAの艦隊はその内の十隻。

駆逐艦四隻

フリゲート艦一隻

空母一隻

巡洋艦三隻

そして、旗艦たる潜宙艦『アーネスト・ジュニア』で構成されていた。

正規軍の船舶三〇〇隻の内、戦艦は旗艦『ジェネラル・ロナルド』を含め四十五隻、空母五十五隻、巡洋艦六十隻、残り一四〇隻はフリゲート艦や駆逐艦で構成されていた。

AF部隊はSIA側が五十機いた。彼らは皆、出撃の時を待っていた、正規軍は既に二七五〇〇機もの大部隊が展開されていた。

普通の指揮官なら手厚い援軍に喜ぶだろうが、レオハルトはこの状況をひどく恨めしく思っていた。

「……こちら、アーネスト・ジュニア。ジェネラル・ロナルドに搭乗中であろう提督にこの布陣の訳を聞きたい」

「こちら第11方面艦隊所属、今『神の剣・迎撃作戦』の指揮官であるアンドリュー・ローソン提督である。本作戦は万全を期して……」

「なんて事を!いたずらに将兵を死なせる気か!」

レオハルトは感謝ではなく痛烈な非難の言葉を伝えた。

「……何を言っている?ラインアークは惑星数個分の距離を移動出来る広域転送能力があり、戦闘能力そのものも十分な脅威で、さらにあのブルーフィアーの存在も確認出来ている。きみたち特務機関の一軍ではカバー仕切れないだろうに?」

「……逆ですよ。我々だけなら被害は最小限度ですみます。あなた方の親切はお節介にしかなりません」

「我々を足手まといと!?」

「足手まといとは言いませんがね……リスクに対してリターンがかみ合いませんよ?」

「皆、覚悟は出来ている」

「……家族と帰る家のある兵たちにいちいち覚悟をさせるのは良き将軍とはいえませんな」

心底呆れた表情をしてからレオハルトは通信を遮断し、広域回線を開こうとした。

聞き慣れない顔と、会談で見た顔が映し出される。

「……舐められたものだな。我々も」

通信が割り込まれる。味方の声ではなかった。

アーネスト・ジュニア艦橋内のオペレーターが叫んだ。

「ハッキングだ!回線に侵入の形跡有り!」

艦内に警報が鳴り、対エナジー・対衝撃障壁装甲が甲板に展開される。対空機関砲のターレット部分が露出し、黒い星々の海を警戒する。

「……モリ室長ですか。この結果は残念です」

「それはこちらの台詞だ。エクストラクターとの関与に託つけて他国への侵略などとはな」

「……侵略はアイビスタン現政権側の――」

「言い訳というつもりか」

「ええ。既存権益を貪る口実です。アイビスタンはマフィアやテロ組織とも関与してます」

「だからといって、他国への侵略の為に軍を動かすとはな」

「……私はSIA以外、誰も来るなと言った筈ですがね」

「例外がいるようですが?……シャドウとバレッドナイン。あんな危険人物の巣窟と手を組むとはな」

「……一時的とは言え、サワダを仲間扱いする貴様らには言われる筋合いはない」

「黙れ。いずれにせよ……叩き伏せて押し通るだけだ」

一方的に罵倒と宣戦布告の言葉を放った後、一方的に不正な通信が途切れた。

「……敵の位置は?」

「正面!一時方向に艦影、数は一!アサルト・フレームらしき艦載機も二機、既に出撃しています!」

「……AFではない」

レオハルト・フォン・シュタウフェンベルグ一呼吸置いてから言った。

「神の剣だ。AF部隊全機出撃!無理はするなよ!」

命令と共にSIAの48機もの騎兵が虚空へと射出された。

騎兵隊の隊長はスチェイことスチュワート・メイスン大尉。手堅い戦術を好み、中距離での戦いが得意な男であった。メタアクト能力を持ち、実体のある光の虚像で触れたことのある構造物や銃器を模倣する能力があった。

この能力自体は珍しくはないが、彼自身はSIAのエージェントの中でも聡明で判断に優れた人物であった為に能力を十二分に活用して戦う事が出来た。そして人を前線から統率し指揮することに優れ、有能な人物でもあった。

その人間的な特徴は彼の搭乗機の調整にも現れていた。

乗っているのは正規軍の制式AFの一つでもあるホーネットであった。エンジンに改良が施され、粒子機関銃などの制式装備が実弾を用いたAF用カービン銃などに変更されているなどもあるが、最も際立った特徴は内部コンピューターであった。

編隊の指揮支援機能が従来の指揮官用機よりも大幅に拡張されており、さらにスチェイのメタアクトにあわせて各種兵装の出力が強化されていた。通常ならそれだけの処理には大幅な搭乗者の負担を強いるが、指揮支援機能プログラムの大幅な強化とスチェイの身体にあわせたメタアクト同調機構によって、パイロット負担低減だけでなく、パイロットの要望と個性に合わせた改良を可能にした。

「……各機出たか?」

スチェイの通信にジョルジョとコウジが答えた。

「いいぜいいぜ!いつでもいけるぜ隊長殿!」

「遊びは控えろよ副隊長」

「おう、なら速攻でやってやるぜ!」

ジョルジョは久しぶりに愛機である真っ赤なハイパーイーグル級に搭乗した事で普段の二倍興奮していた。速度にすぐれ、ヒット&アウェイに適したピーキーなチューンがなされていた。

「こっちも問題ないぜ。スチェイ隊長」

「頼りにしてるぞサイトウ」

「火力支援は任せろ」

サイトウは空戦型の機体ではなく暗い迷彩柄のファランクス三型に乗っていた。

ファランクス三型は機動力に劣るが、対エナジー装甲の出力が高く、装甲の厚い機体であった。AF用トマホーク、対艦バズーカ砲、対AF用サブマシンガン、肩部ミサイルポットを装備していた。それに加え旧式でも優れていたエンジン出力がさらに改良されておりホーネットやハイパーイーグルよりも機動力は劣っているが決して鈍重ではなかった。

そして、女の声。

アンジェラ・ヘラ曹長であった。

彼女は黒い機体に乗っていた。バロール、新型武装の試験機であった。

「別働隊はオールオッケーよ。レイチェルもキャリーも既に指定ポイントに向かっている」

「あまりバレるなよ?」

「もちろん」

レオハルト中将は通信が敵に傍受される可能性を考え、別働隊の通信ネットワークは他の部隊や軍艦同士のそれとは区別して構成してあった。

レイチェル、アンジェラ、キャリーは合図があるまでは潜伏することになる。その間の主力はスチェイを中心とした三人組が要となる。

スチェイがジョルジョとあわせて動く。スチェイの飛行部隊十六機が突出しないように配慮しつつ、敵にプレッシャーを与える狙いがあったが、二機の『神の剣』は前方に何もないかのように突進してくる。

その間、サイトウは敵艦の甲板にいるもう一機の『神の剣』を警戒した。

「…………ハインド・アーチャーか」

古代鉄器時代の重装歩兵を思わせる外観の鉄巨人がサイトウを視認していた。向こう側の頭部カメラがサイトウ側を視認した時、挑発的な口調の若い男の声がサイトウ側に響く。

「……お、アンタがボクの相手?よろー」

「……ずいぶんと余裕そうだな?サワシロ坊?」

サイトウが相手を少年と呼んだ事には大きな理由があった。

相手が17歳の若者であることと挑発を込めていることであった。

「あーうぜぇ。お前だって歳変わらないけど??ええ?」

「その態度を見てるといちいち素人に見えるんだが?んん?」

中性的で少年じみた見た目を相俟って二十歳のサイトウの指摘はそれなりに的確であったがそれが相手の苛立ちに火をつけた。

「ああ!?老け顔の変態ゴリラには言われたくないんだが!!?」

「……お仕置きが必要だな!?」

ファランクス側が一手早めに攻撃を行なった。

サブマシンガンの銃口が火を吹き、肩部ミサイルランチャーからマイクロ・対空ミサイルが射出される。無音の虚空に実弾と誘導弾が飛来し、アーチャーに着弾した。

だが、傷は浅いばかりか、生物の自然治癒のごとく装甲が塞がっていった。

「これでやられるとは思ってねえよ!……やれ!!」

サイトウの率いている部隊が対艦バズーカ砲やミサイル、肩部重機関砲を一斉に放つ。

さすがに不味いと思ったのか『黄色と白の重装歩兵』は何発かの榴弾を回避した。だが避けきれず機関砲とミサイルに当たる。

「あああ!うざいうざい!」

そう言ってサワシロがコンソールをいじると重装歩兵の肩からワイヤーが射出された。ワイヤーの先には杭がありそれがサイトウの僚機の一つであるファランクス三型を引きずり出す。

「おりゃああ!」

ただの殴打。

右腕部から放たれた殴打がファランクスの堅牢な装甲を破損させ、機体を中破させた。

「おい!もう下がれ!それ以上は無理だ。……残りは俺と一緒に抑え込むぞ!続け!」

サイトウは破損した機体を下がらせ、残りの僚機と共に突撃。敵を抑え込むべく十五機同時に突撃を敢行した。

重装歩兵は両の肩部榴弾砲を放ったが、サイトウの部隊は器用に回避する。

「雑魚がごちゃごちゃと!!」

サワシロが銃身の短い銃剣を装備しながら、ファランクスを六機切り伏せた。

切られたファランクスは逃げるだけの余力はあったが戦闘の継続は不可能なまでに追い込まれていた。通信越しに隊員の弱音が上がる。

「こ、こいつやべえッ!」

「機体がッ!クソッ!」

彼らとてただ倒されに来た訳ではなく、サイトウ中尉が信頼した叩き上げの傭兵上がりの人材であった。だが相手が悪すぎた。

二機。ファランクスがまた破損する。

銃剣から放たれた弾丸が着弾すると、着弾した箇所から小さな爆発が起きた。

回線の切れた破損箇所から漏電が起きる。二機とも戦闘は可能だが、かなり追い込まれていた。

「……チッ。調子に乗りやがって!」

サブマシンガンを撃ちながらサイトウのファランクス他、七機が『雌鹿の射手』の名を冠する重装歩兵を抑え込むべく至近距離に接近した。

「うざい!うざい!雑魚らしくやられろ!!」

黄色の重装歩兵が腕を振り回し回転するかのように暴れる。

サイトウを含めた三機のファランクス三型がどうにか張り付くが他は叩き付けられ虚空へと振り落とされた。サイトウがファランクスのトマホークでハインド・アーチャーの両腕部を切断しようとした。左腕部はどうにか切り落とせたが、右腕部は装甲に傷をくらいのところで斧が暗い虚空へと飛ばされてしまった。

同時に抑え込もうとしていた二機のうちの一機も吹き飛ばされる。

「ぉぉこのぉぉ!?やべええええええぇぇ!」

サイトウはただ、自身の機体の出力を信じるしかなかった。

次の話で、ユダ側が本気を出します。


どうなるSIA。そんな次回。よろしくお願いします

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