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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 三十四話 ナタラの影、その四

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

暗い個室の中のことだ。

スタンドの電球だけが煌煌と光っている中でイェーガーは作業を続けていた。

アルベルト・イェーガーがアンジェラから受け取った書類にはメッセージが隠されていた。

イェーガーはそばにあったルーズリーフ一枚にメモをとり始めた。

「……………………」

レオハルトからのメッセージは時刻の指定と準備を急ぐ旨が記されていた。

「なるほど……」

イェーガーは全てを察したかのような顔をしていた。

狙撃銃を厳重にケースに保管し、鍵をかける。

それを何回か確認した後、整理。

愛用の拳銃の動作を確認。

異常なし。

それを済ませて初めて、イェーガーは自分の部屋を出た。

正規軍の人間と何人かすれ違うのを確認しながらイェーガーはレオハルトのもとへと向かった。

「…………」

レオハルトの執務室の前、扉をノック。スライド型の扉だ。

「どうぞ」

声がした。レオハルトの声であった。

パネルを操作し、イェーガーが入室する。

室内にはレオハルトの他、ユキとシン、ドラコがいた。

レオハルトの姿を確認後、イェーガーは敬礼を行なった。

シンは何やらを両手で持っている。

パーソナル端末だ。それにはなにか映像が映されている。

抽象的な図形のようなものが複雑に動きながら言葉を発していた。

「ハロー、こちらは戦術支援AI『ヒューイ』だ。照合開始。……ふむ、アルベルト・イェーガー少尉か。常々、伝説的な評判は聞いている。一匹狼の凄腕スナイパー。お会い出来て嬉しい次第だ」

「よろしく頼む…………」

挨拶だけを済ませ、イェーガーはレオハルトの方を見た。

「なるほど、……この男の行動パターンはマスターと似て非なる傾向にある様だ。孤独をむしろ好んでいる。ごく一握りの人物との接触のみを望んでいると理解出来る……プロファイリングデータ更新中……」

「……ずいぶんと勉強熱心だな……」

「それが仕事だ。個々人の行動パターンまでも考慮して作戦を立案する」

シンが横から『ヒューイ』の説明を行なった。

「……こちらにも『ミネルバ』と呼ぶべきものがあったな」

「あるだろうな。確かに」

イェーガーはレオハルトに視線を戻した。

丁寧なお辞儀の後、彼はレオハルトと言葉を交わした。

「レオハルト様。アルベルト・イェーガー少尉、ただいま参上しました」

「来てくれてありがとう、イェーガー。いつもすまないね」

「いえ……私は当然のことをしただけのこと……」

「さて……今回の任務の件だが……」

「ええ、正規軍と同行してアイビスタンにはびこるゴミを掃除すると言う事でしたね」

「はは……辛辣な物言いだね」

「ええ……仮にも他の民族の首長を売春婦に無理矢理、身を落とさせるだけでなく、逃げたら殺そうとする悪行。ゴミと言わずしてなんと……しかもその黒幕はあの『エクストラクター』どもと通じている始末……どうしようもないですな」

「それは否定しない。今回の事件は真実を知るものにとっては確実にそう位置づけられるからね」

「……真実を知らないものにとってはどう見えていますかな?」

「……アイビスタン現政権の情報操作によると、我々は事実をねじ曲げる侵略者と位置づけられている。どうやら向こう側にマスメディアのやり方に通じた人物が存在しているようだ」

「なるほど……だからユダは……」

「そう……政権側の放送によってまんまと丸め込まれてしまっている。それに……アスガルドが大国であったことも災いして悪の大国対正義の小国の構図をでっち上げようとしている。AGU側が……すっかり騙されているようだな」

「ふー……困りましたね。任務には支障が出ていますね。『ユダ』を筆頭に」

「……『神の剣』と称される人型兵器を保有するユダ。彼らの戦力は三騎だけとは限らないだろう……例えば……」

「例えば……?」

「……『幽霊狙撃手』……」

「そう言えばいましたな……ハヤタの親友に腕のいい『狙撃手』が」

「そうだ。……潜伏している可能性は高い。ほぼほぼ『いる』とかんがえた方がいいだろうな」

「もっとも……犯罪組織は切り捨てるでしょうね」

「さすがにな、その辺は彼らにも分別というものはある……だから仕掛けるのはそれらを……」

ヒューイが横から説明を挟んだ。

「犯罪組織の殲滅直後に警戒すべきだな。当AIの予測結果によれば85%の確率でその時点から仕掛ける事になる」

「……残り15%は?」

「……その後の動きを見てから動く可能性だ……いずれにしろ彼らは『確実に』仕掛けてくるだろうな……『その幽霊』がいない限りは……」

「…………」

「だが15%の確率も考慮する事も本AIは推奨するものとする」

「ん……?」

「ユダの輸送艦や人員の動きを調査すると不審な動きがもう一人見られた」

「もうひとり……?」

「……ドウミョウ・セイイチ。天才だ。アズマ国内の寺院で引き取られ、そこの住職によってあらゆる英才教育を受けている。男性。年齢は十九。シンやハヤタより一つしただな」

「英才教育?」

「この男、あらゆるオカルトや宗教の知識に秀でているだけでなく免許がある」

「バイクか?」

「それもだが……土木作業用のAFだけでなく、軍用の免許までもっている」

「…………は?」

「…………は?」

「…………え?」

その場にいた五人が目を見開いた。

「軍用のAFを操縦出来る。しかも十年来の逸材とその教習所の教官の記録が……」

「まてまてまてまてまて、待て!なにがどうなったら軍用AFの操縦免許が取得出来る!?あれには年齢制限と書類と面接と座学と実技と……いつとった!?」

「記録照合中……なんてことだ……13歳の時だ」

「はぁ!?」

「ええ!?」

ユキとイェーガーが驚愕のあまり素っ頓狂な叫び声をあげた。

シンやドラコも思わず目を見開いている。

対照的に、レオハルトは素直に関心した様子であった。拍手を送ろうとしていたが、イェーガーの苛立った様子に気づき拍手を控えた。

「………………」

イェーガーは苛立った様子を見せないように工夫していた。無表情。筋肉の強張りを抑え、出来る限り普段通りの表情であるかのように振る舞う。声も相応の高さや抑揚を意識して会話する。

「さ、さて……彼が……どう我々の邪魔をするのですかな?」

「…………狙撃と遊撃。撹乱にはうってつけの人選だ。遊撃の出来る兵員が敵を足止めしている時に狙撃手が確実に一人ずつ仕留めつつ、敵全体を一歩も動けない恐怖で無力化。典型的なやり方だな」

「……だが人数が少ないな。普通なら……チッ、そういうことか」

「……通常ならチームで襲撃する所だけれど、二人で撹乱出来ると敵は踏んでいる……自信家のドウミョウらしいやり口だわ」

「しかも遊撃の人数を一人に限定することで同士討ちの効果も期待出来るし、他の作戦に人員を割く事が出来る。僕のような戦術側の観点から見てもなかなか理にかなった戦法だ。ややリスキーなのはドウミョウの技量のみでカバーする気か……確かにとんでもない自信を感じる」

「…………ガキが」

「……ん?」

「……失礼……とにかく正規軍には十分警戒が必要だ。この分だと援軍が必要になる」

「…………」

レオハルトは一呼吸置いてからイェーガーに語りかけた。

「イェーガー」

「はい、レオハルト様」

「……成すべきを成せばいい。それ以外は気にしなくてもいい」

「……御意」

「さて、肝心のシャドウ側の作戦はいかに?」

レオハルトが視線を動かしたのと同時にシンが立ち上がって説明を行なった。イェーガーはシンの方を見た。既にシンはカラスの覆面で顔を覆っている。

「まず、政府軍はデュナとドラコのアイビスタン連合の実働部隊で応戦する。メタアクターや大型兵器との戦闘や、多民族騎兵団の精兵たちが援軍として応戦する。我々バレッドナインは少数の別働隊と共に国王を直接始末する。出来れば、イェーガーが同行してほしかったが……我々の戦力でも国王を打倒出来る」

「……敵も想定はしているだろうな。ノブを名乗る人物やエステラ……」

「そうだ。だが、生半可な戦力では国王を守るどころか返り討ちにあうと理解しているだろうから、近衛兵も多く配備しているだろうな。そうなると、相応の装備がいる。多数の敵を打破できる性能のある銃器や、暗殺に適した小型のナイフやら……最初は裏手から敵の城内に潜入、罠を考慮して身軽な装備が推奨されるべきか?」

「なるほど、サブマシンガンをいくつか手配しておこう。ソードオフショットガンもあると便利だろう?」

「ありがとう。それと閃光手榴弾や煙幕、クラスターグレネードもあるといい……そうだ」

「どうした?」

「対メタアクター戦を想定した装備もあったはずだ。いくつか欲しい」

「分かった。君は今作戦の要だからな。いくらでも手配する」

「ありがとう。中将」

「作戦は以上になる他に質問は?」

「……AF」

唐突にイェーガーが口を開いた。

「今乗っているAFに人工知能を搭載させたい。非搭乗時にはスポッターとしての機能と援護射撃をしてくれるようにチューンをしてほしい。……搭乗時は完全手動で」

「わかった。整備斑に伝えておく」

「頼むぞ……」

それを合図にイェーガーは部屋を出た。完璧な準備と訓練の為であった。

イェーガーは手元の端末からジャックへと連絡を行なった。






アスガルドの正規軍は何部隊かに分けて派遣されていた。

アイビスタンはオズ連合王国とAGUに挟まれた中立地帯の一部であったので、航行と人員、兵装などの輸送は容易ではあった。そしてなにより、SIA側の迅速な手配とバレッドナイン側にジャックという様々な人脈を多く持つ者の存在により近隣での物資の調達が可能となった。その結果どの陣営よりも準備を完了させたことにより万全な状態で戦いに望む事が出来た。

イェーガーはその状況を客観的に見れた人物の一人であった。

「……これで五分にはなった。問題は……やはりラインアークとブルーフィアーを迎え撃つ我々……といったところか」

装備を完了させ、レオハルトの指定したポイントにイェーガーはいた。

すべての景色が暗く彩られていた。

イェーガーの右耳の装置から音声が流れる。

正規軍のものであった。

彼はすぐさま大口径の対物粒子狙撃銃を構える。伏射の姿勢だ。

「これより作戦を開始する。頼むぞ『スコーピオン』……」

「……『スコーピオン』より……了解」

イェーガーは石のように『時』を待った。

いよいよ開戦です。三つ巴の様相。混沌とするであろう戦いをどう乗り越えるか。


次回もよろしくお願いします。

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