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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 三十三話 ナタラの影、その三

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください

アンジェラはレオハルトに付き添われてその機体のある場所の近くまで来ていた。仮説陣営のそばに着陸していた『アーネスト・ジュニア』内部、その艦内の第三格納庫にそれは厳重に保管されていた。

「曹長、あの機体が見えるか?」

「はい……見た事のないタイプですね?」

「そうだ……『YSF-0001型』、最新鋭の試作機だ」

強化ガラスの向こう側には黒く塗装された機体が存在した。機体そのものが

「曹長はAF操縦の経験があったはずだな?」

「ええ、ですがあのような機体は正規軍時代には見ませんね。ホーネット級などとはだいぶ違う気がします。ずんぐりした形ですし」

「そうだ。軍の知り合いから早急に搬送してもらったものだ。このような事態に備えてな」

「これが……私の……」

「機体名は『バロール』だ。この機体はメタアクター向けに設計されている。もちろん事前の適性検査や訓練は必須ではあるが」

「私に関しては問題ありませんが……この機体のために?」

「理解が早くて助かる」

「……なんというか。中将はあらゆる準備に無駄がありませんね」

「ありがとう。でも先を見通すのはいつもタカオの方が上だ」

「それは、中将の親友の……?」

「ああ……今回はきっと彼も来るだろうな……」

「敵として……?」

「いや……アズマ国側は味方だ」

「え……?」

「ただ来るのはずいぶん後になるようだけど」

「……」

「この機体についてはミーティングで説明する。作戦ではジョルジョやサイトウ、スチェイの部隊以上に重要な役割があるからね」

「うう……プレッシャーが……」

「ああ、すまない……でも、指示に従ってくれさえすればほぼ勝てる」

「言い切りましたね……相手はあの……」

「『鋼鉄の正義漢』ハヤタ・コウジと『青の処刑人』モリ・ダン」

「そうですよ!私なんかが」

アンジェラは相手の強大さと名声の大きさに思わず顔を俯いた。それをみてレオハルトは優しい顔でアンジェラに語りかける。

「曹長。相手は確かに強大だが、策はある。さっきも言ったが指示には全力で従ってくれ。それさえ出来れば、生きて帰れる」

「……信じますよ」

「ぜひ」

「……はぁ……まあ、いままでの中将に間違いはないですからね」

「そんな事はない。僕は神様じゃないからね」

「でも、中将は『救国の英雄』でしたでしょう?」

「僕だけの力じゃない。あの時は彼も正式なメンバーだったからね」

「……彼……アラカワ退役中尉ですか?」

「彼は非常に優秀な戦士だ。空挺部隊だった時も、父カールの私兵として戦っていた時も、一時的にSIAのメンバーだった時もそうだった。僕が救えないと判断した仲間や人質も彼は平然と救えた。出来ないと思えた作戦も彼がいれば出来た。そんなことは後にも先にも彼くらいだ」

「……当時の大統領の娘も救いましたからね」

「未だに伝説だね。その話は」

「一番のホラーはその動機ですよ。その子が学校で苦しんでいたから救出するっていってたけど……」

「うん?感動的な話だよね」

「だからって、たった一人でその子を誘拐した敵の基地を壊滅させるって……」

「彼はそういう男だよ」

「……中将、ここってもしかして人外魔境ですか?」

「はは、何を今更」

変なものを食べてしまったかのような顔をしていたアンジェラは、更に目を白黒させていた。

レオハルトはさらなる策の準備に移った。






イェーガーはいつも通りであった。

無愛想で無口。しかし、準備は正確で細密。職人のような独特の雰囲気が彼にはあった。

「…………」

社交的なアンジェラにとっても彼の雰囲気は近寄りがたく、普通の人物とは違う異質な存在感に畏敬の念を持つしかなかった。彼の側に置いてある狙撃銃とその部品がより、イェーガーの殺し屋のような雰囲気を助長していた。

「……ええっとイェーガー少尉?」

「………………ヘラ曹長か」

イェーガーはパーソナル端末を操作する手を止めアンジェラをじっと見つめた。その目は猛禽を思わせる鋭さがあり、アラカワ退役中尉とはまた違った鋭い空気をアンジェラは感じざるを得なかった。

アンジェラは目をやや泳がせながらも、どうにか気力を振り絞って言葉を発した。

「この書類を……」

アンジェラはレオハルトから頼まれていた書類をイェーガーに手渡した。

「なるほど……感謝する」

イェーガーはそれっきりであった。書類に簡単に目を通した後、狙撃銃の整備と端末の作業に再度戻っていった。

銃の調整を終えて端末の操作に彼は戻った。

カタカタ……。

カタカタ……。

カタカタ……。

軽快なキーボードの音と画面が切り替わる音だけがイェーガーの個室内に響く。

「少尉」

「…………なんだ」

少尉は再び指を止めた。

鋭い目が再度アンジェラを見る。

「……アラカワとは知り合いだったのですか?」

「…………それが?」

「気になったもので、レオハルト夫妻以外の人間をあまり信用しない貴方が……どうしてかなって」

「……そんなことか」

ものぐさそうなため息の後、イェーガーは簡単な説明をした。

「戦友兼恩人だ。それ以上でも以下でもない。……義理と矮小な人情で手を貸した。それだけだ……」

「……」

「……納得したか?」

「ええ……」

「すまないが、これ以上は作業の邪魔になる……」

「す、すみません……」

アンジェラは部屋を出ようとした。

「まて……」

不意にイェーガーが呼びかける。

「え?」

「…………作戦時はモリには気をつけろ。決して距離を詰められるな」

「あ、……ありがとうございます」

「……いけ」

アンジェラはそそくさと部屋を出た。彼女の手のひらには、べっとりと汗が出ていた。






作戦会議には主要なSIAの人員が集められた。AFの操縦免許と経験、実戦での対処に秀でた実働部隊員であった。

室内ではシン・アラカワを初めとしたバレッドナインの人員の姿があった。彼らはレオハルトと会話しながら何かと話していた。

それは軍用の戦術支援AIに匹敵する高性能AIだった。それはヒューイと彼らから呼ばれていて、SIA側の動きと連動して戦術を練ることがアンジェラに聞き取れた。

彼らとの会話が終わると同時に、作戦に関わる人間の役割が説明される。

まず、サイトウ・コウジ中尉、ジョルジョ・ジョアッキーノ中尉、そしてスチェイことスチュワート・メイスン大尉。

彼らはAF三個小隊を率いて、モリとハヤタを抑え込む役割に回る。

キャリー・カリスト特務中尉、レイチェル・リード曹長、そしてアンジェラ・ヘラ曹長はキャリーやアンジェラが乗る特殊なAFとレイチェルが率いる爆撃機部隊を中心とした少数の別働隊を用いて後方の敵艦隊とハインド・アーチャーの無力化を担当することになった。

イェーガーは正規軍と同行して、地上のナタラ・オアシスの両グループの鎮圧に乗り出す。

これが作戦の大まかな概要であった。

「……アイビスタンの中央政府はバレッドナインの入手したデータをねつ造だと主張している。そんなものは方便だが、みんなが知っているようにタイミングが非常に悪かった。ユダとバレッドナインの仲の悪さはマリン・スノー抹殺未遂事件の件で皆も知っているだろうが、いかんせんハヤタとシンの関係が険悪すぎる。今回の件はそれをつけ込まれた形となった。ユダはバレッドナインが秩序を乱すテロリストと決めつけ鎮圧する意向を示している。我々が何とか説得を試みるが、正直彼らと戦闘を行なう可能性が高い。そこで可能な限り、主要な戦力を削ぎ、敵の戦意低下を狙う。作戦は二段構えで行く。メイスン大尉のAF部隊を中心にラインアークを狙い、それが駄目ならマサタカの率いるユダの艦隊と護衛のハインド・アーチャーを叩く。どちらかが落ちれば敵は撤退をせざるを得ないはずだ。……アイビスタン本星では正規軍の犯罪組織撲滅作戦とバレッドナインと多民族連合の革命作戦が展開される。くれぐれもラインアークやブルーフィアーを地上に到達させないようにしてくれ。以上だ。各員配置についてくれ」

それを合図にAF部隊と潜宙艦『アーネスト・ジュニア』がアイビスタン本星の大気圏外で迎撃態勢をとるべく出発の準備を整え始める。

それとあわせて、アスガルド本国から来た正規軍が入れ替わるようにして地上での犯罪組織撲滅へと乗り出した。

アンジェラもまたAFの起動シークエンスのため格納庫へと再度向かった。

レイチェルやキャリーも自分の搭乗機体の調整のためにアンジェラの後についていった。更衣室でまずパイロットスーツを着用後、移動中の通路で三人は会話をした。

「アンジー。いい機体をもらったってね。今回の作戦シクヨロ」

「うん。対艦攻撃は私も出来るけど、メインはレイチェルだからね」

「そうそう、でも実際には何がある超わかんない感じだし、二人ともシクヨロね!」

「うん、がんばるわ」

キャリーが控え目ながらも確かに頷いた。

「わかった。……そういえば上官はこの中だとキャリーになるのかな」

「そうね。じゃあシクヨロ、キャリー」

「うん、がんばる」

「どういえばキャリーもAFに乗るんだよね。どんなやつ?」

「うん、試作機、近接戦特化の機体」

「へぇぇッ意外?私は遠くから戦うタイプ機体だから気をつけないと……」

「そう言えばいつから訓練を?」

「軍に来た時から」

「そうなると私よりも操縦してるんだ!いいなぁ私は途中からだからなぁ…………」

そんな会話を交わしていると、三人は二機のAFと改造された一機の戦闘挺に搭乗した。

アンジェラが機体のハッチを開け胴体部に体を滑り込ませる。

アンジェラは訓練通りの手順に従ってAF内のOSを起動する。

OS起動中……起動、電力供給正常値で作動。

アサルト・フレーム『バロール』、起動シークエンス。

搭乗者認証……アンジェラ・ヘラ曹長を確認。

エネルギージェネレーター駆動開始。

頭部カメラ駆動診断開始……正常に稼働。

エナジー補助装甲、作動中……出力正常。

全武装および火器の試運転開始……正常に駆動。安全装置解除。

各種推進制御およびアフターバーナー……正常な作動を確認。

搭乗者のメタアクト保持を確認……武装とのリンク接続確認。正常。

『バロール』全機能……正常に起動。

通信回線を開いて、アンジェラは二人を確認した。隅っこの小型モニターに二人の様子が見える。

「二人ともどう?」

「オールオッケー!」

「……異常なし」

「ありがとう、じゃ、作戦頑張ろうね」

「オッケー!」

「うん」

アンジェラは自身の不安を押し殺しながら出撃を待った。狭いコックピットの中で彼女自身の吐息と機器の駆動音が響いていた。

次回はイェーガー視点での描写を予定しております。次回もよろしくお願いします。

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