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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 二十八話 地獄への道

この物語は残酷な表現が含まれております。ご注意ください

カズの顔が怒りで歪む。

巧妙に隠されていたPCの画面内の、ネットワークに隠された卑劣なやり取りに顔をしかめないわけにはいかなかった。

「……なんてことだ」

「……フォルテ?なんて書いてある?」

シンの疑問にアディが答える。

「……ひどいことが書かれている」

「ひどいこと?」

ユキがそう聞くと、カズが電子メールの一つを読み上げ始めた。







TO:『ノブ』

CC:

件名:エクストラクターとの取引と『D』の引き渡し

拝啓

いつもお世話になります。ええ、中央政府の交渉役を務めております、ノブでございます。

さて、件のエクストラクターとの取引の件ですが、国王側やエステラ派の一部からの了承を得ております。魔装使いとなりうる少女の選定も終わりましたので、後ほど確認をよろしくお願い致します。

なにとぞ至急

あと注意事項ですが、外国の勢力が嗅ぎ回っておりますので、オアシスグループ一同、特にトップであるドン・カルーゾ様にはより一層の警戒を推奨します。

特にSIAのレオハルト。彼は厄介です。ご承知おきください。

なにとぞ至急。

追記

さて、件の案件ですが。

『D』は好きにしていただいて結構です。美人なので残念ではありますが。まあ、いいでしょう。生きていたなら、いずれ『D』を相手に遊ぶ事にします。

なにとぞ至急







「…………『なにとぞ』か」

「……下衆が」

アディがあからさまに不快感を露にする。

コンピューター内に残された文章の『癖』からノブである事には間違いは無かった。そして、この文章がアイビスタンとオアシスグループとの繋がりが示された証拠である事もシンたちに確認出来た。

「……選定って……人間を……作物か何かみたいに……!」

カズも怒り狂っていた。眉毛、目、口、肌。全ての顔の動きがその様相を示していた。

「怒るのは後だ」

「だけど!!」

「気持ちは分かる。だが、その気持ちは後にとっておけ。いずれは殺すのだからな」

シンは言った。あまりにもあっさりと。

「……!!」

カズは逆に混乱していた。淡々としたシンとは対照的に『その真っ黒な意味合いの言葉』に驚愕の表情を浮かべていた。

「……カズ。心配するな。『ゴミ掃除』はお前の仕事じゃない。お前は生き残る事だけ考えていればいい。全てが終わったらアレックにも会わせてやる」

「…………」

複雑な表情を浮かべるカズを後目にシンはユキとアディの方を向いた。

「……アディ。そっちはどうだ」

アディは様々な論文や資料と向き合っていた。かなり時間をかけて読みふけっている。

「魔装使い化の現象についてすごく研究している。不完全ではあるけど、細胞からコアの一部までどこかに保存してあるみたい」

「…………コアの一部だと?」

「……体細胞を元にしながらも表面は硬質な宝玉のようなものに変化していると記載されていたわ。主成分は……炭素で出来ていると……」

「…………」

「……えっと、ちょっと待って……どうして人の細胞が炭素?理系じゃない僕にも教えて」

シンは深呼吸してから一言言った。

「……ダイアモンド。有機物は炭素で出来ている」

一同が驚愕する。

「ああ……でも凄い技術だよね……」

「凄いとかそんなレベルではない。これはもはやファンタジー映画やアニメーションの魔術そのものだ。どの国の技術でも、設備も何も無い空間から精密に炭素をダイアモンドの配列に組み立てる技術なんて確立されていない。どこかに装置かそれ命令した端末があるはずだろうが……」

「しかも空気中ではなく人の体内でしょ?あり得ないわ」

「……それが我々の敵……そういうことだ」

イェーガーが口を開いた。

「端末ならある。それは……俺たちSIAが『エクストラクターと呼んでいる存在』だ」

「……なるほど」

ユキが頷いた。

「敵は高次元にアクセス出来る能力を持ち、空間を自在にコントロール出来る存在ってわけね」

「……ほう、ユキはそこまで知っているか。……不純物の多い体内でダイアモンドの生成なんて芸当は不可能だ。不純物の混じる事の無い空間がいる。それを微小なものとは言え、わざわざ作り出してそこでコアを生成する……ヤツらは自分たちの技術の誇示とも言えるな」

「……そんな手品じみた事をするメリットは?」

ジャックが疑問を口にした。シンはジャックの方を見て答える。

「……心理的な障害を取り払うためだろうな。被害者はこう考えただろうな……見知らぬ魔法生物が素敵な魔術の力を備えてくれたと……微細な空間の生成ならエネルギーはそれほど必要ない」

「……マジで言ってる?空間だぞ?空間。椅子やテーブルをDIYするのとは違うぞ?そんな莫大なエネルギーどこから……」

「因果律」

「…………は?」

「…………へ?」

「…………え?」

「…………は?」

ジャック、カズ、ルイーザ、アディの四人が目を白黒させていた。

「…………イェーガー、そりゃそうだ。俺だってカールに言われた時には『こいつ、頭イカれたか』って思ったんだからな」

「だが事実だろう?人の存在を歪めて莫大なエネルギーを得るのがヤツらの目的だからな」

「……ちんぷんかんぷん……なんだが」

「……僕も」

「……皆聞け、ヤツら表向きなんて言ってる?」

「……あー、表向きは『宇宙の環境保全』って言っているな」

「もっというと……宇宙は滅ぶから宇宙全体にエネルギーを加えて保全しましょうって言ってるね」

「…………そっちのほうがチンプンカンプンよ」

ルイーザがそう言うと同時に、アディは呆れたような仕草をとった。

「…………『宇宙の熱的死』?いつの時代の仮説よ、それ?」

「えっと……アディ部長?それってどういう……」

「要するに胡散臭いインチキ終末論よ」

「…………詐欺師のやり口ね」

アディとともにルイーザも肩をすくめた。ご丁寧に両手も広げている。

「だが、ヤツらはそれが真実だと言ってはばからない。何人犠牲にしてでもエネルギーを得ようと動く。それがエクストラクターどもの悪質なところだ」

「……レオハルトが嫌う訳だ。俺も怒り心頭だよ」

「ああ……今となってはもう分からない事だが、350年ほど前のアスガルドの前身の国が滅んだ直接の原因がヤツらの仕業だったって説もある。しかもAGUやフランクの研究者も同様の結論にたどり着いているからかなり有力だ」

「なるほど……うんざりするね」

「それも気になるが……このアイビスタンの事件とどう関係が?」

「……かつて、王女だった頃のデュナは保守的な行政を行なっていた。それはレオハルトからの情報から裏付けがある。アイビスタンは小国な上に治安は最悪、売春と薬物の売買に明け暮れるマフィアや殺人集団、中央政府の威厳を借る狐ども、……人間が信じられなくなる訳だ。そんな連中から自分の民を守る矢先、エステラはデュナに『草案』を持ちかけた」

「それがこの人体実験か」

「エネルギー技術は軍事的価値に直結するからな。エステラとか言ったか。あの女はどうも好戦的な心理的傾向があるからな……軍事利用を呼びかけただろうな」

「……だが、保守的で人間的にも穏健なデュナは反対しただろうな。……そうだろう?イェーガー」

「ああ、基地でそのことはレオハルト様が直接、デュナ元王女に聞いている…………なぜかその『実験の一つの責任者』とされたことも……な」

「!?」

シンとユキを除く、他の面々はまたも驚愕していた。

「……もう……なにがなにやら」

ルイーザの混乱にユキが答えた。

「嵌められた。裏社会なら、よくあることでしょ」

そう言って彼らは大雨の邸宅を後にした。邸宅の中には紙切れが散乱していた。







「……ああ、そういうことだ。デュナ王女は話してくれたよ。いつのまにか実験の失敗の責任を押し付けられてバニア族そのものから追い出されたとな。何人もの未来ある少女が犠牲になってしまった。……彼女は三重の意味で辛かっただろうな……為政者としても不名誉な終焉を迎え、同胞たる民から責立てられて、その挙げ句……女としての尊厳も不本意に奪われて……」

レオハルトは苦々しげな顔でデュナに同情した。

アスガルド軍の仮説陣地の建物の一つ。B9一同はその中で集めた情報を整理する。

「……エリックもノブを名乗る男も虚像だったのが残念だ。しかも『ドン・カルーゾ』を抑えられていない」

「だが情報を得た。これだけは収穫だな」

「敵の能力は全貌がわかっていない。虚像だったのにどうしてメタアクト能力が使えたの?」

「厳密にはグリーフ・フォースだ」

「似たようなものだ」

「ジャック、そうでもないわ」

「どの辺が」

「メタアクトは具体的な事象として他の人間でも見える。炎を出したり、体の組織を他の動物や岩石などの違う物質に変えたり……でもグリーフは違う」

「……?」

「目に見えないエネルギーを操る」

「テレキネシスみたいなもの?」

「もっと具体的なエネルギー。細胞が発する防御反応ね」

「免疫みたいなものか」

「ある意味そういうこと。体に青い光を放つ物質を入れるの。そうして使える。親子なら遺伝的に使える」

「でも、それならシンは、どうして使えないの?アラカワの家系ならそういう力が皆使えるって聞いた事あるわ」

ルイーザの疑問にシンが答える。

「一応、見えはする。だが、能力の行使には補助的な機器が必要だ」

「どうして?」

「分からない。先天性のものらしい。ごくまれに起きる事がある。…………俺のような症例は『絶縁体質』とアラカワ六家ではそう呼ばれている」

「……アラカワ六家ねぇ……」

「……アラカワ家、キラ家、トウジョウ家、サイジョウ家、ミカワ家、シナガワ家の六つの家ね」

「……キラとアラカワ、二つの家が全ての始まり……要は俺のルーツだ」

「……ずいぶんと脱線したが、つまりは……敵はメタアクト能力越しにグリーフを使えた訳なんだろう?」

ジャックの発言にシンが頷く。

「もっと言えば、敵は味方の頭数を増やした訳だ」

「……というと?」

「ノブはエリックをもう一人作った……正確にはグリーフが使える男を再現したということだ」

一通りまとまった所で一同は解散した。シンはシャドウのマスクを脱ぐ。腕の端末をいじり、プロテクターやスーツの色彩を緑の迷彩に切り替える。軍服のような出で立ちとなったシンはまっすぐデュナの方へ向かった。

「ありがとうよ、ユキ」

「エランさんにも感謝ね」

ユキの服装もいつの間にか軍服のように『擬態』していた。二人はゆったりとした足取りで建物の外へ出た。

さて、シャドウのスーツに新機能がつきました。数話前からの黒衣を着用前にアスガルド軍と同行していたエラン氏によって機能拡張が行なわれております。ジャングル等にも対応できるカモフラージュおよび服装の擬態機能でした。


次回もよろしくお願いします。

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