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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 二十三話 死合い

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

ユキが違和感を感じた箇所は二カ所存在した。

外敵への対処。

そして、アイビスタン軍の戦闘員の巡回。

アイビスタン軍と思しき軍人や軍用車両の存在は無く、無人機や偵察ドローンの存在すら確認出来なかった。

そして、一際目を引くのは『外敵』の二文字。

ユキとシンはこの違和感にメスを入れる必要性を感じていた。

「…………エステラ殿」

「どうかしたか?」

「……我々はアイビスタン軍らしき人物や監視の様子は一切見られません。これは……?」

「心配は無い。この惑星では定期的に高高度から監視されておるからな」

「……高高度?」

「人工衛星、それも監視用の衛星だ。それと月に一度の無人機」

「なるほど、有事があれば軍が出向くと?」

「まあな……あくまでバックアップに過ぎぬが後ろ盾があった方がよいだろうな。……質問は以上か?」

「……『外敵』というのは?」

「……ああ、いい所に気がついたな。カラスの」

「……」

「この外敵。これこそがデュナの罠だ。実在しない仮想敵に目を向けさせ、アイビスタン中央政府から資金を騙しとろうとしたのだ。そのせいで我々バニアの誇りと信用は失われ。中央政府からの攻撃を受ける羽目になった。我々の民族の名誉を地に落としたデュナはごろつきどもの慰みものとなるのがお似合いだ。我ら誇り高い民族を辱めたのだからな」

「違う!!」

不意にデュナが声を荒げた。

「ヤツらはいる!ヤツらはこの星の若い女を資源にするために刻一刻と乗っ取っている!どうにかしなければ!」

「黙れ」

氷塊よりも冷たい女の声色がデュナを一喝した。

デュナは震えながら顔を俯く。

「デュナ『元』王女殿。あなたのような嘘吐きの言葉など信じるに値しないのです。嘘吐きにして裏切り者。自分の利益のための汚い雌狐。死にたくなければ口を――」

「デュナ。ヤツらとは誰だ」

シンの一言でその場の空気が凍結した。シンは気にせず質問を続ける。

「貴様……聞いてなかったのか?その女の言葉は嘘だと――」

「エステラ殿。私めはデュナの言い分も聞いてから判断するつもりです」

「は!……貴様はその女の言葉を信じるつもりか」

「そうするかどうかは。彼女次第です」

「…………」

「デュナ。もう一度聞くぞ。『ヤツら』って誰だ」

「……」

「デュナ!誰なんだ!」

「…………エクビー」

「!?」

「……抜き取るもの……よ」

抜き取るもの。その言葉にシンたちはたしかに聞き覚えがあった。エクビーという愛称にも。それはまぎれも無くSIAのレオハルトが長く追っている宿敵の名前であった。

おそらくは種族。

されど、その意思は画一化されている。

自分たちを最も賢く効率的な民族であると位置づけ、それ以外の種族を犠牲にすることに何の呵責も感じない。

それでいて、自らの行ないは宇宙のためと自己弁護する悪辣な種。

レオハルトやその父カールからシンはたびたび聞かされていた。武術と軍事知識の師の一人であるカールが死んだ理由。それはエクビーこと『抜き取るもの』の所業が発端であると。

都市伝説とすら囁かれてきた外宇宙の心なき知的種族。

その名前は確かに実在していた。

「……デュナ」

「……」

「どうしてもっと早く言ってくれなかった?」

「え?」

未だ多くの国は、その存在に懐疑的だ。少なくとも表向きは。

だが、シンとユキは知っていた。

闇社会で、戦場で、古巣で、正義だったものの側で。

彼らの悪行と噂は確かに実在するものとして理解していた。

そしてこの事実はイェーガーとジョルジュにとっては何よりも待ち望んでいたものであった。

「……こんなにも……」

「あからさまに聞くとはな」

「録音は?」

「した」

「こっちも」

二人は踵を返そうとした。

だが、それは阻まれた。

何十人もの兵が槍や旧式銃を構え、二人に突きつける。

それはシンたちも同じであった。

「…………」

「なるほどな。これが真相か」

「……残念だよ。カラスの客人。お前の噂は耳にしていた。部下を殺した事を水に流してでも手駒にしたかったが残念だ。この世界は一流の戦略家(ストラテジスト)をまた一人失う事になる。……自身の直感の鋭さを恨むのだな」

エステラは号令を下す。

B9一行の命は露に消えるはずだった。

閃光。

否、蒼い旋風。

兵たちの手から槍が消える。

否、消滅したのではない。手から高速で抜き取られていた。

人一人の質量の伴った高速移動物体が蒼い軌跡を纏いながら兵たちの武装をあっさりと解いてしまっていた。

「……二人ともよくやってくれた」

シンのそばに確かに『彼』は立っていた。

レオハルト・フォン・シュタウフェンベルグ。

軍刀は既に抜いてあった。

刃が刃と交わっていた。

玉座にいたはずのエステラがレオハルトと剣を交えていた。

「…………知られたか」

「部下も優秀だと分かっていただけて幸いです。元部下もよくやってくれました」

険しい顔のエステラ。それとは対照的にレオハルトは満足げな笑みを浮かべていた。普段と変わらない笑顔と共にレオハルトは高速で斬撃を繰り出してゆく、エステラはどういう訳かその斬撃に追いついている。

イェーガーは加勢しようとするが、手足が動かなかった。指一つですら動かす事が出来なかった。

口一つ。

言葉一つ。

動かせなかった。エステラの能力に阻まれていた。

二人を除き――。

斬撃と斬撃が交差する。

――全てが止まっていた。

加速と停止。

対となる能力の発動によって、二人分の音を既に置き去りにしていた。

そして弾き飛ばされる。

二人の能力は拮抗。

技量の勝負であった。

一見するとレオハルトが優勢であった。実際には、双方の肉体的なダメージはほぼ互角であった。軽傷。かすり傷であった。

「……ほう、久しぶりに楽しめたぞ」

「ほー、先ほどは焦った様子でしたね?」

「確かに……計画が早まって、損失は確実に出ることは考えた。だが、貴殿の登場は良くも悪くも予想外であったぞ?」

「……良くも?」

「私と対等に戦える相手!これほど嬉しいことは無いぞ!」

エステラが両刃の剣を構え、レオハルトへと突進した。レオハルトは八双の構えで迎え撃つ。既に居合は避けられていた。

二三度の斬撃。エステラの斬撃には白い冷気が纏っていた。だが、レオハルト側の神速の斬撃がことごとくを迎撃し、冷気を無力化する。

レオハルトの持つシュタウフェンベルグの片刃刀がエステラの剣に肉薄する。鍔迫り合い。互いに押し合う形となる。

金属同士が接触する高音が不気味に響く。

「すこし本気を出したらどうです?エステラ殿」

「その必要は無い」

レオハルトの揺さぶりにエステラは自信ありげに答えた。

その様子を一瞬、レオハルトは不審に思った。

そして気づく。

「…………まさか」

「時間は稼げた」

不敵な笑みからレオハルトはすべてを悟った。

「シン!外へ出ろ!魔装使いを――」

次の瞬間、極彩色の亜空間にエステラとレオハルト以外の全てが飲み込まれた。






シンが目を開けると奇怪な空間が眼前に広がっていた。

メルヘンとシュルレアリズム、そして子供の想像の世界を無理矢理まとめて煮詰めたような小世界がそこに存在した。ユキたちも徐々に意識を取り戻し注意の奇怪な極彩色の世界に気づき始める。

「……何これ」

ルイーザが目を白黒しながら辺りを見回した。手には既に回転式拳銃が握られている。アローたちも警戒態勢に入っていた。彼らも口々に『ナニコレ』を繰り返している。

他の反応も同様だった。ジャックに至っては素っ頓狂な声をあげている。

ユキは冷静だった。既に見た事あるかのように振る舞っている。

「えーと?なにこれ?僕たちは不思議の国にでも来ちゃったの?」

カズが目を白黒しながら言った。

「…………ああ、もっとタチの悪い場所だ」

「地獄って言った方がいいか?」

イェーガーが険しい顔で返答する。ジョルジョの顔にもいつもの軽薄な笑みがない。二人の顔からビリビリとした殺気が発せられる。

「クソが。クソが。また、名前も分からない女の子が犠牲になっちまった!クソがぁ!」

ジョルジョがその場にある奇怪なオブジェを乱暴に蹴っ飛ばす。補助機械筋肉で強化された蹴りでオブジェが粉砕される。

「落ち着けよ」

「ああ!?これが落ち着けってのかッ!?ああ?死んでんだぞ。死んでんだぞ、人として!ああ?」

ジョルジョが火のついたかのように怒り狂っていた。カズが怯え、ルイーザとジャックが目を白黒させていた。

「ジョルジョ」

シンが一言呼びかけた。

「ああ?」

「……お前が女の子を大事にしてんのは知ってる。だったら、……こんなところで道草している場合じゃねえ。……そうだろうが」

シンの言葉にジョルジョが冷静さを取り戻す。

「…………そうだな……救えねえなら……せめて、葬ってやらなきゃな……」

「…………ああ」

「…………ジョルジョ。レオハルトが止めようとした理由はそういうことか?お前が女にゲロ甘なのも」

「…………そうだよ。こんなことは起きちゃならなかった……けど、起きちまった。……魔獣化現象……抜き取るものの悪行だ……」

「…………噂には聞いてた。抜き取るものの資源採掘は人道にも関わるってな。……もっとも俺はアスガルド共和国の出じゃないからな。小学校の教育方針も全然違う。アスガルドが抜き取るものに関する授業を行なうのは『こんなこと』を『国内で』起こさないためだったのだろうな」

「ああ……。いいか。一度しか言わないからよく聞いてろ。この先には亜空間を作った張本人……魔獣と。その眷属の……『使い魔』っていうべきか?とにかく雑魚がうじゃうじゃと湧く。雑魚に構わず。魔獣をできるかぎり安楽死させろ。脳天……いや、コアだったものに一発だ」

「……安楽死……か」

ユキとシンは納得していたが、カズは首をかしげていた。

「……まってまって。安楽死ってどういう?」

「そりゃあ……よ。出来る限り苦しめるなってことだろう」

「ジャック。なぜ安楽死させるかが分からないんだ」

「……相手は元人間だ」

シンがジョルジョの言いたかった事を代弁する。

「しかも、……その犠牲者はジョルジョの反応を見る限り。『若い女』だろうな」

カズ、ジャック、ルイーザ。

三者の顔に驚愕が広がった。

次回は重めの展開となる可能性があります。ご注意ください。

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