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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 十九話 閃光と闇

この物語は暴力的な描写が含まれている事があります。ご注意ください

両者の間に火花が飛び散った。

蒼い閃光、あるいは、残滓。粒子の集まりが衝突し、まとまりと殺傷力を無くして飛散するのが、シンの眼に捉えられた。

ユキとタカオの間にあるのは、無慈悲なまでの弾丸の応酬であった。遮蔽物のないゼロ距離で放たれる光と光の弾雨同士がけたたましい音を奏でながら殴り合う。暴力的なまでの弾雨同士による熾烈な応酬は沈黙と共に終わる。

タカオが優勢であった。

ユキは所々にかすり傷を負っていたが、タカオはあれだけのやり取りをして無傷で立っていた。

「…………くぅッ」

ユキの表情に焦りが見える。義腕のエネルギー残量は少なく、手傷を負っている。ユキは素手、タカオは弾切れの銃と黒い短剣を持っていた。タカオの表情や足さばきに一切の躊躇や不安は見られない。タカオは既に相手の技量と体力を見切っていた。

「なかなか楽しませてもらった……が、ここまでだ」

「ぐ……」

タカオが近づくたびにユキは一歩後ろに下がった。トラウマに苛まれて行動不能になっていないのは、シンを除いて二人いた。

「おいおい。俺忘れんなよ。タカオ殿」

「SIAのエージェントはグリーフへの耐久訓練を受ける。……用意したナノマシンも起動しているようだ」

「……」

イェーガーとジョルジョがパニックに陥ったバレッドナインのメンバーを下がらせ、タカオに向けて戦闘態勢をとった。パワードスーツに守られたジョルジュと生体ナノマシンで適応したイェーガー、二人はグリーフのモヤの中でも正常な思考を保てていた。

「……SIAの艦載機乗りと……イェーガーか」

「俺は!?エースですけどッ!?名前ッ!?」

「歯ごたえはある。だが、まだまだだ」

「のぉぉ!無視すんなこの……」

「やめろ」

イェーガーがジョルジョを窘める。

「……アルベルト・イェーガー少尉……。久しぶりだ。いつ以来だ」

「そうですね。第三次銀河大戦以来でしょうか?あの時はいろいろと未熟だったものです」

「いや、レオハルトの片腕にふさわしい面構えになっている。……お前はなぜシンの味方を?」

「仕事で」

「お前は軍人だろ?いつからバレッドナインの社員になった?」

「利害の一致です。シンは我々にとって都合の良い人物を保護していますから」

「……なんだと?」

「我々は、ユダを全面的に支持するつもりはありません。……彼らのやり方は……いずれ破綻する。あなただってそう考えてはいませんか?」

「……否定はしない。だが、『鉄鬼のハヤタ』の力は強大でユダの支持者は多い。何せ、レオハルトのSIAに匹敵するほどの功績を成しているからな」

「……あなたは分かっているでしょう?彼らは『目先の正義』にしか注目していないと、そんな組織がどのような末路を迎えるか……我が主、レオハルト様があなたをいつも褒めていました。先見の明があり、だれよりも『先を見通す』と」

「親友が?……俺はそんな大層な人物じゃない。……だが、……いずれ危険なことになるとは思っている。大なり小なり……な」

「ならどうして彼らに?」

「彼らと今、衝突するのは危険だと考えたからだ。弟を悪党に仕立てられて殺される結末なんて……耐えられない」

「……なるほど。兄弟のことを思って……とのことですね」

「……」

二人の間にイェーガーが割って入った。

「……でもよ!デュナを見殺しにすんのか!?俺は嫌だからな!相手があのタカオ・アラカワ……ん!?もしかしてシンの兄って?アレェ!?」

「……気づいていなかったのですか?」

「女の子の名前は覚えるが、野郎の名前は……特に外国人の名前はどうもな……」

「……やれやれです」

「あははは、こいつは女好きかぁ?あははは」

タカオがその場で大笑いする。豪快なまでに。素のタカオがおおらかで人付き合いの良い人物である。その事をバレッドナイン一行は十分すぎるほど察する事が出来た。

「……ええ、とんでもない色ボケで」

「おい、イェーガァァ!色ボケとは何だッ!?色ボケって!」

イェーガーの体をジョルジョのパワードスーツが上下に揺らした。パワードスーツの無駄遣いであった。

「なぁーはっはっは、アイツの部下は個性的とは聞いたがここまでとはな!」

「すみません。あとでしばいておきます」

「勘弁して!後生だから!」

いつの間にか戦闘の緊張感が抜け、双方は警戒を解いていた。

「……シン。アレは何?」

「俺たちには救えぬものだ」

シンとユキはジョルジョの方をチラチラと見ながらジョルジョの様子を唖然として眺めていた。

「さ、さて。タカオはどうするんだ。俺たちとケンカをするってことはレオハルトと」

「分かっている。親友と事を交えるつもりは無い。ただ……」

「ただ?」

「シンと話をしたい」

「……」

シンとタカオは互いに顔を向き合わせた。先ほどの銃撃の時とはまた違った緊張感が両者を支配する。シンの表情はどこまでも毅然としたものであった。顔の下半分が覆面で隠れていたが、眼で意志は示されていた。

「…………」

「……久しぶりだな。シン」

「……兄貴」

「……俺はお前をもう失いたくないだけだ。野蛮人同士の争いごとからは手を引いてくれ」

「……野蛮な国かもしれんな。ここは……でも、見殺しは嫌なんだよ」

「……ミッシェルだったか、……過去の事は忘れろ。忘れる事で人は生きられる。さも無ければお前は過去に……」

「……無理だ。ミッシェルの事やお母さんのこと。忘れるなんて出来ない」

「……殺されるぞ。過去に」

「……見殺しにしたら誰かが死ぬ。それは母やミッシェルの意思に反する事だ。それに……兄貴だって人の事は言えないだろうに」

「だから……探しているのか……サワダを……『リセット・ソサエティ』を」

「……」

「母を殺してお前をテロ組織に売り払ったのは『ワンチョウの野蛮人』どものせいだ。お前を傷つけたのは過去にとらわれていつまでも祖国を目の敵にする劣等人種どものせいだ。……あいつらが……あいつらさえいなければ」

「悪い癖だ。兄貴」

「……ああ」

「……ミッシェルはどうしてあの組織に?……調べても調べても分からない。雲を掴むみたいだ」

「……バルザックの人間と接触したみたいだな」

「ああ、前な。ろくでもないヤツだった」

「……お前が言うミッシェルって子、友達だったか?」

「ああ、親友だった」

「どんなヤツだ」

「何があっても庇ってくれたし。遊んでくれた。知らない事も言葉も教えてくれたし、一緒にいると充実感があった……親友だった」

「……そうか。あの時は……おまえが連れ去られた時は辛かったな」

「……でも、楽しかった。不思議なんだけど、ミッシェルのいる時だけは楽しかった」

「……そうか」

「……家族と一緒にいるみたいな充足感があった」

「そうか……でもどうしてだ」

「?」

「どうして、カールについていった?……武装した不良グループやマフィアが怖かったのか……?」

「……違う」

「どう違う?」

「知りたかった」

「何を?」

「真実」

「真実?」

「ミッシェルは捨て駒同然に扱われた。おかしいと思った。ミッシェルはバルザック家の宗家の生まれなのに。だから知りたいと思った。……カールは軍人の世界と闇の世界を知り尽くした人間だった。あの人の冷徹な一面には大きな理由があると思った。だからついていった。……ユキの事もあるしな」

「……フランクの連中の事は分からんな。どうして、家族を捨て駒にしたのだろうな?」

「それに」

「それに?」

「ミッシェルみたいな人間が多いって思った。『独りぼっちで理不尽に苦しむ者』が」

「……現実は小説やマンガみたいにはいかない。コレが現実だよシン。他人は何もしてやれない」

「デュナにはその『他人』が必要だ。だから、カールからいろいろと教わった。高校に行って学業と人並みの教養と武術を習って外人部隊に入って……もういろいろありすぎて……な」

「カールはどうしてお前に武術を?」

「備えるため。そう言っていた」

「……カールはこう言ってなかったか?『抜き取るもの』に備えると」

「……ああ。レオハルトも言っていた。全ての知的生命体の敵だと」

「……やはり」

「……兄貴。何が『やはり』なんだ?」

「……この国は全てが死に絶える。320年前のアスガルドみたいに」

「!?」

シンは思わぬ言葉に目を見開いた。

あまりにも残酷で、あまりにも劇的な予言。

その先を細部まで見通した『宣言』はグリーフのモヤの中で正気を保った者たちの脳を、その常識を否応無く揺さぶってゆく。

アスガルド人の二人もまた動揺した素振りを隠せなかった。

「……ビンゴかよ」

「……でしょうね。予想はしてはいましたが……」

ジョルジョは露骨に驚いていたが、イェーガーのほうはかろうじて冷静さを保っていた。

その様子をちらと見た後、タカオは言葉を続けた。

「直近の例だと、ジーマ人たちのこととも被るな。……そうだろう?」

「…………そうね」

ユキが俯いたような素振りを見せながら、抑揚の無い言葉を発した。その表情は暗かった。暗黒の中からおぞましいものを見てしまったかのような強張った表情が一瞬シンに見えていた。

「……ユキ?」

シンの語りかけるのを無視して彼女は逃走したジャックたちの方へと向かっていった。

怪訝な顔をしたシンに対してタカオが一言言った。

「……シン。ユキの背負っているものは想像以上のものだ。とてつもない闇と言っていい」

「……何となく分かるよ。相棒だから」

シンはそう言って踵を返す。一時的とは言えグリーフに侵された仲間の状態を案じたシンは仲間の所に大急ぎで戻っていった。




駆けつけたバニアの兵士には些細なトラブルによる仲裁であると話した。死人がいない事もあり、アイビスタンの治安の悪化という事情もあいまって、かろうじてB9一行は当事者同士の解決に持ち込む事が出来た。

シンは仲間にひとりずつ声をかけた。彼らは皆、どうにかではあるが回復をしていた。アディを除いて。

「アディ、しっかりしろ」

「……こないで……こないで……」

青ざめた顔でアディは自分の肩を抑えていた。

「まずいな。……たまに出る発作が」

ジャックがアディの頭を優しく撫でる。冷や汗をかいた彼の表情は険しい。が、声色をどうにか優しくしようと努力していることが伺える。だが、古傷を抉られたアディを救うのは容易ではない。ジャックでも知らない闇を彼女は抱え込んでいた。

シンは語りかけるが、彼女はうわごとのように恐怖を訴え続けた。

「……いや……いや……だれか……たすけて……」

泣いていた。アディは泣いていた。

一行の中で最も大人びているはずのアディが泣いていた。

少女のように泣いていた。彼女の眼鏡ごしに涙が流れ落ちる。

シンは何度も声をかける。

「苦しめる者は……もういない。味方が……お前を想う味方がそばにいる。何人もだ。……だから……」

シンとジャックの語りかけによってどうにか泣き止んでいた。だが、少女のように怯え続けるのはどうしようもなかった。

アディの心の闇は深い。

思わぬ乱入者と共に事件は混迷を極めております。タカオの存在によって、どう転ぶか。アディはどうなるか。アイビスタンに渦巻く不穏な気配が次回から徐々に強まる事でしょう。

ユキの素性や能力もまだ多くは語られていません。その事も含め次回もよろしくお願いします。

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