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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第六章 解放戦争編
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第六章 十四話 バニアの集落へ

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください。

バニア族の集会場はかなりの面積があった。

そのちょうど中央に十数人の長老が集まっていた。年配の男たちの中に一人、異彩を放つ女性が居た。

エステラ・リ・ウォス・バニア。

バニア解放戦線のリーダーであり、女王。現時点でのバニア族の最高指導者である。

銀の髪は長く光に満ちて顔立ちは整っていて鼻が高く、大昔に語られていた神話の女神のように威厳に満ちた顔をしていた。言葉を紡げば毅然とした言葉の中に名品の琴のような美を感じさせる。

美貌に関してはこの世の完璧に近かったが、性根は狂った武人そのものであった。弱肉強食の原理の狂信者で、弱いものは奪われるしかないとすら考えている。バニア族の中に静かな反乱や犯罪、自殺、そして『抜き取るもの』の影が差していても必要最低限の人身御供としか彼女は考えていなかった。事実、彼女が各部族の長老たちに話す言葉にその思想が滲み出ていた。

「さて、『例のもの』の生産状況は?」

「……何人かさらって契約させました。今日までで三名です」

「足りんな。一週間以内に六名に増やせ」

「は、……はい」

長老の一人がおずおずと頭を下げて自分の席に着いた。

「……次だ。この中に裏切り者がいる」

全員がギョッとしたようにエステラに顔を向けた。

エステラは長老たちを一人一人一瞥してから言葉を続けた。

「……我々バニアは力に満ちた民族だ。だからこそその力は正しいものが行使しなければならない。誤った道を歩んだものは弱者でなければならない。……弱者。そう、弱者は死だ。弱いということは死ななければならないと言うことだ。膿んだものは捨て去らなければならない。それがバニアの定めだ」

彼女はある男の前で足を止めた。やや太ったような体をしたバニアの老人であった。

「……え、ええ。分かっておりますともエステラ様……なにか?」

それが最後であった。彼の最期の言葉であった。

彼は凍り付いた。

見た目の上では異常はなかったが、エステラが片手をかざした瞬間、男の体は硬直した。男は仰ぐような体勢のまま、固まったようにごとりと横向きに倒れた。エステラは腰の剣で抜刀と同時に男を切った男の上半身が袈裟の様に切り込みが入り真っ赤な鮮血と共に斜めの肉塊となった。

それを見ていた長老たちから短い悲鳴が響く。

「この者は麻薬を広めていた。それはいい。麻薬は資金になるからな。だが、『自分たち』に広げる馬鹿は裁かなくてならない。麻薬は人間用の交易品だ。我らバニアの民にはそんな下賤なものは必要ない。武の道から遠ざかるからな」

「は、ははぁ!!」

近くの長老たちは大きな声で肯定の言葉を響かせた。

「よろしい。次の議題だ。……元親衛隊。帰ったのは三割だ。どういうことだ?」

沈黙。長老たちも困惑したような表情を浮かべた。

「……ロウ一家代表?忌々しいデュナには味方はいないはずだろう?これはどういうことだ?」

エステラは唇を舐めながらロウ長老を見下した。

「……エステラ様についていったリルは殺されたと聞いております。なんでも殺した相手は黒装束の男と聞いております」

「……ほう、そいつはどのような?」

「アズマの手裏剣に似た投擲武器を使います。それと近接戦においてはリルを捻り潰すほどの腕だと……」

「……弱気は死に。強きは残る。それだけのことだ敵を甘く見ていたリル・ロウ元親衛隊長に全責任がある」

「予備として差し向けた暗殺者も撃退された模様です。敵の戦力は我々の想定以上であります。……非常に有能な暗殺者のはずでしたが……」

「なるほど、だが黒装束とその一団だけでは我々を屈服させることは出来ない。中央政府側の戦力もそこまで脆弱ではない」

「では……放っておいても問題はないと?」

「……いや、油断は出来ん。おそらくヤツらはここに来るだろう」

「なぜ?」

「デュナと行動を共にする以上、ヤツらの次の狙いは明白だ」

「狙い……」

「おそらくはバニア族の反乱者たち煽動することだろうな。正義を唱える側に回るだろう」

「つ、つまり狙いは……エステラ様だとでも!?」

「流れによってはそれもあり得るが。いま行動を起こすことはないだろう。だが今度の午前試合になんらかの行動を起こすと見て間違いはないだろうな」

平然とした口調でエステラは確率の高い推測を口にしていた。動揺している長老たちとは対照的である。

「敵はこちらに取引を試みるだろう。そこが狙い目だ」

エステラの表情に禍々しいまでの笑みが浮かんだ。




バレッドナインのたどり着いた集落は『集落』という表現では言い表せないほど大型の町であった。建物の一つ一つに大木や岩壁ですら建物の柱の代わりにするほどに力強い設計思想が伺えた。どの住民も『うさ耳』のような器官の備えたものばかりで、子供ですら軽業師のように身体能力が高かった。現にバニア族の子供たちが屋根の上を軽々と飛び跳ねながら追いかけっこを楽しんでいる。

「凄いな。デュナここがお前の……」

シンがデュナに語りかけると不安そうな顔でデュナが答える。

「ああ、……ここが私の元いた故郷だ……だが、交渉なんて生温いことにエステラは応じない。……命を狙われるのが関の山だ」

「だが、中央政府がデュナをまともに取り合うとも思えんし、どうにかデュナを殺さないように対話をするしかあるまい」

「……正直エステラのことに関してはキャラバンのことで聞いているけど……マフィアともつるむこともあるそうね……」

「んん……これは困ったね」

ジャックとアディ、カズが思い思いに意見を述べるがどうにも今後の方針がまとまる気配はなかった。だがシンの表情は落ち着いていて、不安の色は欠片も見当たらなかった。

「ボス?これからどうしよう?」

ルイーザも困惑したような素振りを見せる。シンは淡々と返答を返した。

「……方法はシンプルだ」

「どんな?」

「さっきユキが『ヒューイ』と通信をとっていた。その時に最適な作戦プランを立案したよ」

「へえ?どんな?」

シンがそう言うとユキに一声呼びかけた。ユキは腕の一部をめくると義手のキーボード状の端末を操作し始めた。

「……あの壁面」

「へ?」

「ちょっと使っていいかしら」

「まあ、いいんじゃない」

「よし」

ユキは左腕を変形させると左腕部のキャノン型の装置から光が伸びた。映写機のような機能も備わっていた。その機能を用いて岩壁の一部、平べったい所をスクリーンにしてヒューイとの回線を繋がった。

「こちら、多目的戦略支援AIのヒューイです。応答を願います」

「こちらシャドウ。感度良好」

「アラクネ。そしてシャドウ。状況の報告を願います」

「……先のデータ通りだ。俺たちはアイビスタンの重要人物と思われる人物を保護。彼女を護衛しながら、バニア族の説得へと向かっている」

「……今回の状況、非常に不利な状況と言わざるを得ません」

「それは分かっている。だが、民族の重要人物が犯罪組織に売り渡される異常事態に直面した以上は無下には出来ない」

「……了解しました。今回の作戦プランは三通りに分けられます」

「三か。それはずいぶんと考えたな」

ジャックは素直に関心した素振りを見せた。

「大雑把な表現をすれば、大規模襲撃。隠密作戦。それと、スポーツ的アプローチの三つになります」

「……物騒だな。前の二つが」

「倫理性を重んじるなら作戦は一つになります」

「……それが最後の方法か?」

「はい。バニア族では血族や遠方の部族が威信をかけた部族間午前試合が年に二度行なわれます。これは政治的なアピールも面もありますが、バニア族間での友好と団結、それと他種族との交流も兼ねた武闘大会となります。ここで優勝した人物はバニア全体での名誉を得ることとなり、莫大な報賞と女王への謁見を許されることになります。部族の代理人として他種族の参加も認められていますので参加は十分に可能です。それに優勝をすればエステラ現王女との対話も対等なものとなるでしょうし、他のプランと比べ周囲への被害もありません」

「たしかに民間人らへの犠牲者は回避出来るな。なら決まりだ」

「そう言うと思いました……では、プラン3武闘大会参加をミッションとして認定します。あなた方の良い報告を期待しています」

「サンクス、ヒューイ。オーバー」

シンが通信を切るとデュナは明らかに目を白黒させていた。

「……本気で言ってるの?」

「合法的で世論への被害がない。すばらしいアプローチだ。リスクが少ないのも魅力だしな」

「……正真正銘の殺しあいなのよ。部族と奴隷階級の者や犯罪者がこの国での出世のために手を組むこともあるわ……強さのためだとか殺すために参加する者もいるのよ……」

「こっそり入った所で話を聞いてくれるものでもない。強硬策では関係ない者を巻き込む。ならこれが一番だ」

「でも……私なんかのために……」

「それはなしだ。そうだろ陛下?」

「え……」

「あんたはどういういきさつかは知らんが不名誉な立場に立たされている。その真実を知るためにはエステラと話をしなくてはならない。そうだろう?」

「……うん」

「なら、武闘大会もぎすぎすした会議もドンとこいね」

ルイーザが拳銃をくるくると右手で回転させながら、笑顔で答える。それに釣られてデュナも笑顔になった。

「ありがとう……わたしも手伝う」

「デュナ……でも」

「王女様。このラウなら参加資格を満たすことが出来ます。5人のチームに一人屈強なバニア族の者を一人。そう言う条件でしたね」

ロウの血族の部隊からラウが歩み寄った。ラウは身の丈より大きな斧を取り出し、地面に突き立てて意見を言った。

「女王様は倒れては行けないお人です。ここはバレッドナインと我々の手の者にお任せを」

結局はラウとシン、ジャック、ジョルジョ、イェーガーの五人が参加し、ユキとアディ、ルイーザとカズは後方で王女の世話と準備の側に回った。

「シンやイェーガーはともかく……どうしてジャック隊長が?」

ルイーザは疑問を口にしたのでシンがそれに答えた。

「アディは確かに強いが相手を殺しかねない。それに本来の彼女はこういうことは嫌いだったはずだ」

「そうなんですか?」

「それはまた今度話してやる。カズは荒事むきではないし、ユキが倒れたら不味い。だからこの人選で行くことにした。それに何かあればユキと通信を行なうことも出来るしな」

方針を固めた一行は人通りの多い所に足を運ぶことにした。ジャックが意外なものを見るような顔で指を指していた。そこにはシンもよく見知った顔があった。


ジェイムズ・ジョニー・スレイド。


酒好きのバトルマニア。ギャンブル狂いで、雇われの老兵。

ライコフ教授との戦い。その時一緒だった男とシンは意外な再会をした。

二章以降は、あまり出番のなかったジョニーと意外な形で再会することになりました。彼との再会はシンたちにどのような影響をもたらしてゆくのか。次回もよろしくお願いします。

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