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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第五章 偶像救助編
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第五章 第16話 船上の戦い その一

この物語は残酷な表現を含むときがあります。ご注意ください。

レオハルトはイェーガーの報告を聞いて、頷く。

街の被害を減らすために洋上に敵を誘導し、さらに船員の被害を減らすために船員の少ない自動洋上貨物船の甲板を場所に選ぶ事をシンは考えていた。その事を知ったレオハルトは上等な豆のコーヒーを口に含んだ後、イェーガーの意見を聞いた。

「彼は無用な人死にを忌み嫌う男です。経歴から考えてもなかなか珍しい思考だと考えております。……どうせ、話し合いは建前でサワダを殺すつもりなのでしょうが……」

「うむ、だがもっと気がかりなのはヤツが『レイヴン』を引っ張りだす事だ。アレは元々は我々の兵器だ。まさか、アレをヤツが持っているとはな」

「レイヴンを引っ張りだすことに対してはジャックもいくらか反対しておりました。ですが、サワダの保有する人型兵器の性能とサワダの凶悪な人格、そして、マリンに対する予測不能の殺意。これらの危険性を考え、ジャック以外のメンバーは短期決戦を行なうことに賛成しました。彼もそれに折れたようです」

「……そうだな。私でも賛成はするだろう。私ならジョニーとタカオまで呼んでも良いとすら考えるな。なにせサワダは経歴不詳の殺人魔だ。動機も過去も分からない。分かっている事は戦争に幼い頃から従事していて、弱肉強食に魅了されている事だ……彼らだけでそんな危険人物に対処するつもりか?」

コーヒーに口をつけながらレオハルトは思案の表情を浮かべた。眉間にわずかなしわが寄る。

「いいえ、私も戦力に含んでいるようです」

「やはりな。相手はこっちの意図を読んできている」

「そうですね。ですが、殺すのは本意ではないでしょう」

「そうだな。サワダは真実の側にいる男だ。可能な限り確保したい。……ユダに対する交渉の手札も必要だからな」

「ええ、ヤツらはきな臭い。マリンの件以外にも隠している事がある。彼らの敵の事とかな」

「そうですね。ですがレオハルト様、あなたならもう予測がついているのでは?」

「エクセレント。相変わらず鋭いねイェーガー」

「感の良さもスナイパーの素質ですよ」

「そうだったな。……この資料を見てくれ」

「……なんですこの珍妙な一味は?」

レオハルトの見せた写真には奇妙な一団が写っていた。

それは同じ顔の男だった。

すべて八人いた。八つ子の兄弟とは考えづらかった。なぜなら、彼らはとんでもない人物によく似ていた。

何百年も前のアスガルド共和国大統領の顔をしていた。

「……リセットソサエティの集まりを調査していた時、スチェイがその場に居合わせて驚いていたよ」

「このエイブラムス大統領もどきはいったいなんなんです?」

「さあな……スチェイの情報によれば、警告をしていたようだ」

「警告?」

「サワダに対する警告らしい。ヤツが好き放題暴れることは好ましくないと言っていたそうだ」

「……無関係ではなさそうですね。今回の件と」

「ああ、それとこうも言っていたそうだ。いつまで『偽物のダークヒーロー』を演じている気だとも」

「…………ふむ」

「なかなか意味深だな。イェーガー」

「……本物と偽物の境目ってなんでしょうね?」

「哲学的だな。まあ……強いて言うなら心の差だな」

「……ふむ」

イェーガーは思案しながら下見に向かおうとした。

「援軍は必要か?いまならジョルジュかサイトウの手が空いている」

「まだ、待機で。そのかわり合図があれば二人ともこちらに寄越してください。AF付きで」

「承知した。無理をするなよ。サワダは二重の意味で危険な男だ」

「了解、善処します」

イェーガーは音もなくその場を後にした。




貨物船の側に人影があった。それは男のものであった。男は背丈が高く百八十センチ以上はあった。図体の大きさだけでなく身体自体も鍛え抜かれており猛獣のような雰囲気を周囲にはなっていた。彼は物陰から辺りを伺いながら、指定の場所へと向かった。

「バカなヤツだぜ。話せば分かると思いやがってさ……まあ、いい。予定通りマリンとかいうアイドル崩れをこの手で殺せるからな」

にやりと悪意のこもった笑みをサワダ浮かべた直後、彼の背後から声が響いた。男の声だ。黒ずくめの男がそこにいた。覆面には白く鴉の紋章が描かれている。

「……さすがにそこまでバカじゃないさ」

「……ち、テメエは……」

「この街の守護者だ。んで、女の子一人を殺すのにずいぶん熱心じゃないか?ええ?」

シャドウは猛禽の目でサワダを睨みつける。

「ところでお前一つ聞きたい事があるんだが、バルザックって名前に聞き覚えはあるか?」

「……さあな?殺したヤツのことなんさ、いちいち覚えているかよ」

「しらを切るんじゃねえ。さすがにグリーフ使いと戦った事まで忘れたのかよ」

「……てめえ、何者だ?」

「何って?お前の恐怖そのものさ」

「あァ?答えになってねえよ」

「事実だ。話を戻すが、なぜマリンを付けねらう?報奨金でも出るのか?」

「……」

「どうせ、マリンを妬んだアイドルかプロデューサー崩れのクズに依頼を受けたんだろう?」

「はァ、ちげえな。ただ気に食わなかったんだよ。偽善者が」

「……そういえば、お前、いろんなところに火をつけて回っているな。小国の内戦とか、過激派のテロとか、……それもずいぶんあくどい手で人の悪意を煽るのが好きみたいだな?サワダ・タクヤ」

「……おい、俺の名前をどこで知った?」

「言っただろう?俺はお前が作り出した恐怖そのものだってな」

「ふざけるなよ?カラス野郎」

「ジョークだと思ったか?事実だ。お前はマリンを殺す事に失敗するしな」

「あ?」

「お前がどういうヤツかは察しがつく。マリンが認められる事に飢えてヒーローまがいな事をしていることが気に食わないだろう?彼女が被害者であろうとなかろうとお前はお構いなしだ」

「だからなんだ。世間の正義ってヤツは都合がいいもんさ。みんな善人面して、結局は誰かを犠牲にしているんだ。正義の名の下にな。ミッシェルっグリーフ使いのガキがいてよ。あいつバカだった。逃げた親友なんて友達埋葬して葬儀したら、忘れて生きてんだろうによ。あんな子供の仲良しごっこに命をかけやがってさ」

「……ミッシェルとの友情はまだ時効じゃねぇ」

「あ?」

「この顔に見覚えは?」

シャドウはマスクを取払い、一瞬だけその素顔を見せた。シンの顔を。

「!?……てめえ!?」

「お前の潔癖性は相変わらずみたいだな?殴りにきてやったぜ?」

「……だからか?俺の計画をとことん邪魔したのは」

「ほとんど偶然みたいなものだがな。結果的に引き受けてよかったよ。女の子の命も助けられるしな」

「……世界一イカれた自警主義者の正体があのときのガキだったとはな」

「さて、お前の偽善者狩りはこれにて店じまいだ。大人しくするなら丁重にしてやる。特別サービスだ。……抵抗すればわかるな?」

「…………は」

「……」

「ふははははははは」

サワダは狂ったように嗤う。それはシャドウの悪に対する冷笑とは違う。どす黒い嘲笑であった。

「おい、カラス野郎。いい事教えてやる。手を差し伸べる事が救いになる訳じゃねえ。それを知ってて誰かを救おうとするテメエは、所詮自分が気持ちよくなりたいだけの偽善野郎だってことだ。マリンとかいう嘘つき共々、最期にそれが分かっただけでもありがたいと思え」

「ありがたいと思え?お前のありがた迷惑なんざ今日で店じまいだって言ってんだろうが」

「何度も言わせるな。俺がリセットソサエティとかいう宗教みてえな組織に加担しているのはな。ミッシェル・バルザックみたいな偽善者をぶっ殺すためだ。……あの世で親友に会ってこいよ!?シン・アラカワァアアッ!」

「……!」

シンがサワダの背後を見て目を見開く。

ハヤタのラインアークと対になるような黒の鉄巨人が海の上に現れていた。

物音も気配もなく、その闇と鉄の具現化のような存在はまぎれもなくそこにいた。その機体は下手なビルよりも高くそびえ立っていた。

「ここで死んでおけや。カラス野郎がッ!」

サワダはいつのまにか機体へと乗り込んでいた。

収束したエネルギーの刃がシンに迫るがそれは届く事はなかった。

「……とことんバカだな、お前は……。俺が何の準備も無しにお前を誘い込むとでも?……シャドウよりヒューイへ、レイヴン、スタンバイ」

黒い機体が水面スレスレを高速で飛行し、サワダの機体に一目散に突撃する。

そして、ロストアークが吹っ飛ばされる。蹴っ飛ばしたゴミ箱よりも豪快に水上を転がっていた。

「……な、この機体は!?」

サワダの声色に明らかな焦りが見える。ロストアークはうまく体勢を立て直すが、敵の猛攻を許す事になった。

無人機の挙動であった。殺人的な速度で繰り出された黒い機体の切断機構はロスとアークの装甲に少なくない損傷を残していった。ロスとアークを吹っ飛ばした黒い機体は甲板のすぐ上を浮遊する。止まったかのように。

「レイヴン。可変型AFの傑作だ。しかも、近接戦に特化した特注品だ。機動力も銀河最高。エンジンスペックもバケモノ並み。お前の高い鼻をへし折るのにうってつけの機体だ。そうだな?ヒューイ?」

シンは機体のAIに向かって語りかける。戦術AIの方もまた余裕の語り口でサワダを挑発する。

「会話パターン分析完了。……殺人の言い訳に、揚げ足取りに、自己弁護。クズ発言のフルコースであると断定。当人物サワダ・タクヤの思想に追従するメリット一切なし。マスター、さっさと刑務所かあの世に送る事を当AIは強く推奨する」

「模範解答だ、ヒューイ。パーフェクトだよ」

シンはヒューイの言葉にゆったりとした拍手を送った

「……て、てめぇ」

サワダの顔に少なくない動揺の色が吹き出る。

それを見て、シンは嗤った。

悪を嗤い、卑劣に仇をなす。シャドウの笑みは極地の氷河よりも冷たかった。

「いい顔だな?サワダ。お前はダークヒーローヅラより、そっちの怖じ気ついた顔の方が似合うぜ?最ッ高にお似合いだ!」

「殺してやる……殺してやるぞ!アラカワァァァァァァッ!」

シンの乗り込んだレイヴンにロストアークの実体剣が迫る。刀を象った片刃の凶器がシンを切り裂こうと迫っていた。

刃は届かない。

レイヴンの機体に装備されたナイフ型の近接格闘機構によって阻まれる。

鴉と黒い鎧。

優勢なのは鴉の方であった。

乗り主に似て軽業のような軽快な軌道を描く機体であった。水上と空中を交互に飛び回りながらロストアークにヒットアンドアウェイを繰り返した。踊るようにしてロストアークを翻弄する。

時にエナジー機銃を浴びせ、時に誘導弾を至近距離から食らわせる。

挑発を交えた狡猾な戦術と洗練された技術に裏打ちされたシンの戦法にサワダはただ翻弄されるしかなかった。

機械の鳥が海と蒼穹を舞う。サワダの罪を裁くために。

今回から決戦です。サワダとの対決に流れ込みました。これからどんどん戦闘が激しさを増します。ユキやSIAがどう立ち回るかも含めて描く事を予定しております。

次回もよろしくお願いします。

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