正直者
-1-
「朝だよ!おきな、陽太」
まだ部屋のデジタル時計が7時を示している。
起き上がり重い腰を上げ一階にあるリビングに向かう。
「早く食べなさい!遅刻するよ!」
どこの家庭でもありそうな会話。
テーブルの上に並んだ食パンと目玉焼きとベーコン。
頭の中でジブリか。。と独り言をぼやきながら口に運ぶ。
顔を洗い髪を整え制服に着替え家を出る。
高校は歩いて10分くらい。近い方だと思う。
「陽ーおはよー!」
後ろから小走りで駆け寄ってくる透。
「おはよー。」
「なんだよー陽、今日も元気ねーなー。」
「今日もって、いつもみたいにいうなよ。まぁ、いつもか。」
なんて同じクラスの透と話しながら歩く通学路。
透は中学校からの同級生で、クラスの人気者。
うちの中学は1学年2クラスという超小さい中学。
もちろん生徒も少ないから透とはずっと同じクラスだった。
高校も仲がよかった透と一緒に進学した。
「陽君、透、おはよ〜眠いね〜。」
「晴香もいつもそれ!なんか毎日おんなじ生活になりそうで嫌だ〜。」
「透も毎日そのセリフ言ってるよ〜。」
「そりゃもうなんか。。ルーティン?的な?もうこれじゃないと1日が始まらない感じするじゃん」
この子は晴香。
高校で友達になった女友達。
通学路が一緒だからいつも一緒に登校する。
この子もまた、透と同じでクラスでは人気者。
普段はだるそうにしているが勉強、スポーツ何をとっても1番。
みんなはそれを妬むことなく尊敬している。
と、思う。
晴香は俺から見ても気はきくし、優しいしいい女だと思う。
実際とてもモテる。
でも彼氏は作らない。
なんでも、
「彼氏がいたらこの登校がなくなりそうで怖い〜」
とか言ってた。
透は作れ作れ〜などと仰ぐがきっと本心はそう思ってない。
透はこの毎日の登校をとても楽しみにしている気がする。
俺はめんどくさいといいつつ本当は楽しみ。
そうして学校に着く。
「陽太〜おはよ!」
「陽君おはよ!」
みんな挨拶してくれる。
「おはよ〜」
言われたらちゃんと返す。
人間としての礼儀だと思う。
「あっ!陽君!おはよっ。。!」
「おう、美咲。おはよ。」
「今日お弁当作って来たんだ。食べない?」
「え、まじ?母ちゃんから弁当貰っちゃった。わり。また今度な。」
「そっか。。仕方ないね!また作るね!」
この子は美咲。
俺のことを好いてか、頻繁に声をかけてくれる。
正直嬉しい。でも。。
「陽!また美咲ちゃんの弁当断ったの!?もう4回目だよ!食ってやんなよ!」
「でもさ、透。俺ちゃんと、弁当作るなら前日に連絡欲しいって言ったんだよ。母ちゃんの弁当食わなかったら母ちゃん悲しむだろ?」
「じゃあ美咲ちゃんの弁当はいいのかよ!」
「いや、、よくないな。。」
「だろ!?次からはちゃんと食えよ!ったく。。」
透は本当に人が良くて、頼りにもなる。
ただ、人間として熱すぎて度を超える時もあるけど基本的にはいいやつ。
晴香は一連の流れを下駄箱の近くで友達と話しながら見てる。
終わったのを察して近づいて来た。
その後、俺と透と晴香は教室にいつものように向かった。
僕の紹介がまだだった。
僕は湊陽太。
公立高校に通う高校2年生。
頭はぼちぼちスポーツはできる。
顔も良く、モテる。
別にナルシストなわけではなくみんなに言われる。
最初は嬉し恥ずかしみたいな感じだったがまんざらでもなくなっている自分がいる。
スポーツに関しては、空手を幼い頃からやっていて今は高校の部活でサッカーをしている。
サッカーをやっていて、顔がいい。
なんとなく世間が決めたモテロードを走っている。
でも別に僕はそうなりたくてなったわけじゃないと思ってる。
【神様は不平等】
なんてよく言ったものだなと思う。
僕にとって神様は利益を与えてくれた。
女の子にも困らない。
スポーツもできる。
勉強もそこそこ。
これまで、それといった苦労もなく生きてきた。
実際生きていて楽しい。
透もいる。
晴香もいる。
周りには友達もいる。
家も裕福とは言わないが父が公務員で母が保育士をしているのでそこそこだ。
でも、楽しいだけなんだ。
僕は苦労することを避けて通るタイプだ。
世間では面倒臭がりと言われるタイプの。
後回しにして苦労するタイプ。
わかっててもやらないタイプ。
大人になれば変わるだろうと思って生きてきたタイプ。
でももう17にもなろうとしてる自分は自我を持ち始めてからこれまでおんなじだ。
変われるかな?と思うだけで何もしない。
でもまだ学生だし。
この一言で済ましてしまう。
スポーツに至っても、元々の力があったのか特に皆と違う練習をしてるわけではないができるのだ。
恋愛に至っても不自由なく過ごしてきた。
中学1年の時に初めてできた彼女。
年上だった。
初めてのSEX。
なんだこんなものか。
その程度の感想しか抱かなかった。
でも、周りからは羨ましがられた。
そうか、俺は周りと違うのか。。
そう思い出したのはそれくらいの頃。
【神様は不平等】
言い換えれば神様は与える力を持っていて、たまたまそれが俺だった。
それだけの話だと思っている。
神様には感謝してる。
でも俺はこんなに早く神様は不平等と思わざるを得ない経験を強く思うことになるとは思っていなかった。
-2-
いつもとおんなじクラスの雰囲気。
朝のホームルームが始まる前の騒がしい感じ。
各々楽しそうに話してたら、本を読んだりと自分の自由な時間を過ごしている。
僕は特にやることがなかったので携帯でtwitterを開く。
「なに陽、またtwitter〜?根暗だね君は〜」
「うるせよ博。関係ねーだろ。」
明るく気さくに話しかけてきたのは博。
高校2年生のクラス替えで友達になった博。
名前の通り頭が良くクラス委員長。
ただ、クセが強く好き嫌いが分かれるタイプ。
僕は特に害があるわけではないので好きでも嫌いでもない。
強いて言うなら好きな方。
ガラッ。
「おーいチャイムなってんぞ〜」
みんなが席に着く。これもいつもの風景。
「え〜突然ですが、転校生を、紹介します。」
え!なになに!なんだよ急に!
クラスがざわめく。
僕は心の中でマンガみたいだな。
くらいの感想しか出てこなかった。
「風波〜入れ〜」
担任がかすれ声で転校生を呼ぶ。
『えっ』
俺は衝撃を受けた。
俺だけじゃない。
クラスの全員が衝撃を受けている。
心臓が高鳴る。
手に汗が滲む。
初めての感覚。
「風波綾です!父の転勤の都合で引っ越して、転校して来ました。よろしくお願いします。」
クラス中が騒めく。
それもそうだ。
その子は明るめの茶色の髪の毛、バッチリした目、すらっとした高い鼻。
夏服はこの子のために作られたんじゃないかと思わせるくらい綺麗な手足。
正直モデルにいても不思議じゃない。
「風波は何もわからないだろうから席は博の隣な〜」
『え〜〜〜〜』
またクラスがざわつく。
博はドヤ顔だ。
「博君?よろしくね♪」
音符が目に見えるような感じで話す転校生。
「は、はいっ!よ、よろしくおねがいっ。。ます!」
クラスみんなが緊張している博を笑っている。
風波さんも笑ってる。
照れている博。
「あーいじゃあホームルーム終わりな〜。1限の準備しとけよ〜。」
担任がかすれた声でだるそうに教室を後にする。
休み時間はみんな風波さんの周りに集まって質問タイム。
「風波さんどこからきたの!?」
よくみるありきたりな質問。
「綾って呼んでもいい?」
女子も仲良くするの大変なんだな。。
「風波さんて彼氏いるの!?」
おいおい、いきなり踏み込み過ぎだろ。。
だが、正直俺も気になる。
「いるよ♪」
女子はキャーキャー言う。
男子はあからさまに落ち込む。
俺も少し落ち込む。
俺は落ち込んでるのを見られないようにトイレに向かった。
その時後ろから視線を感じた。
振り向くと風波さんがこっちを見ているような感じがした。
俺はそのまま気にすることなくトイレに向かった。
風波さんはその日一日中質問責めされていたが特に嫌な顔1つすることなく質問に丁寧に応えていた。
うちのクラスはとても仲がよく派閥とか、いじめなどからは程遠いクラス。
俺はそんなクラスが好きだしとても居心地もよかった。
クラスのみんなも風波さんを早く仲間に入れたいという気持ちからそうしたんだと思う。
実際放課後になるまでには風波さんはクラスになじんでいる感じがした。
下校時刻。
月曜日は野球部がグラウンドを使うのでサッカー部は休み。
透と毎週月曜日は一緒に帰るのが日課。
いつものように透を下駄箱の近くで待つ。
「あ、陽君!」
美咲だ。
「これから帰るところ?」
「うん、透待ってる。あと、美咲今日弁当ごめんな。次は絶対食べるから。。」
「あ、ううん。大丈夫だよ!次からはちゃんと連絡するね!」
透のやつ気を利かせていったのか。。
「おう。じゃあ、またな。」
「うん、また明日ね陽君っ」
透のやつ余計なことを。。
「陽〜お待たせ〜!」
「透〜お前美咲に。。」
言葉が詰まった。
「陽〜お待たせ〜♪」
なんで風波さんが。。
しかも陽って。。
しかも音符。。
「なんか綾ちゃんが教室で一人でいたから帰り誘ったんだよ〜帰り道駅の方だしいいよな?」
「いいよな?」
風波さんノリノリだし。。
「別にいいよ。それより透!美咲に余計なこと言っただろ!」
「いいえ〜?余計なことなんて言ってません〜」
「バレバレだわ!」
隣で風波さんが笑っている。
「陽君と透君ってすごい仲いいんだね〜」
透が自慢そうな顔して言う。
「まぁね〜」
「普通だし。。」
透がふざけたようにじゃれてくる。
それを見て風波さんがまた笑う。
「二人とも面白いね〜!ねぇ!透と陽って呼んでいい?」
満面の笑みを向けられて二人は恥ずかしそうに頷くしかなかった。
女子を目の前に照れたのなんて小学校の時に、お風呂に入ろうと着替えている時に母親に見られて以来だ。
初めてのSEXの時にも感じなかった感情だ。。
とてもモヤモヤした気持ちを抱き俺たちは学校を後にした。
「へーじゃあ二人は中学の時から仲いいんだね!」
「まぁね〜俺がいじめられっ子にいじめられてる時に助けてやってから俺の後ついてくるようになったんどよね〜」
そんなわけないだろ。。
「透の方がいじめられてそうなのにー!」
風波さんはそう言って透を指差して笑う。
そのやりとりを見ながら俺は笑う。
「陽なに笑ってんだよ!ウケ狙っただけだろ!」
ハイハイという感じで俺は透の肩をトントンと叩く。
「そういえば綾ちゃんって彼氏いるって言ってたけどどんな人なの?」
ナイス透!
心の中の僕が透を褒める。
実際とても気になっていた。
「んー?彼氏?いないよ!」
へ?
二人とも唖然とした顔をした。
「私結構モテそうでしょ?」
なんて正直な子なんだ。。
ただ、否定出来ないから透と頷く。
「だから男の人が寄ってくるの!面倒くさくて。。ごめんね自慢話みたいで。。」
いや、それはもう自慢話だよ。。
心の声が漏れそうになるのをぐっと我慢した。
ただ俺は。。
「わかる。。気がする。。」
思わず口走っていた。
「俺も。。風波さんほどじゃないけど、少しだけモテてる気がする。。」
透がもう目をバチっと広げて俺たち2人を見ている。
「今日も美咲にお弁当もらいかけたし、彼女とかに困ったことない。」
こんなこと言ったことなかったのに。
なにを思ったか、口走っていた。
「たしかに陽かっこいいもんね〜私も最初見た時このクラスのNo.1は陽だと思った。」
右の口角をあげてニヤッとする風波さん。
「あの〜自慢話はもうここら辺にしませんかー?」
透が気まずそうな顔をして割って入る。
そこからは他愛もない話を和気藹々と話しながらそれぞれの帰路についた。
僕は感じたことのない気持ちを抱いて、寝た。