チ
「・・・。」
私、簑河垂水は久々に自我を取り戻した。
先程までいた【ヒオウギ】とか名乗っていた女はどこかへ去っていったが、何者なのか分からず仕舞いだった。
さて、病院から出よう・・・。
・・・力が入らない。脚や腕だけでなく、全身。
私は、事故に巻き込まれた後、自らが植物状態に陥っている事に気がついていなかったのだ。
・・・動け!動け!私の言うことを訊け!!
例え頭がいかに鞭打とうと、身体が動く事はなかった。
植物状態とは、いわば『頭脳を持つ人形』だ・・・と、どこぞの医学博士の論文で見た事がある。
もちろん私はそんな風には思えないし、思いたくもない。なぜなら私はこうして生きているのだから。生を持つ者に対して、そんな事を言うのは非道な人種、いや、そんな奴こそ人でなし、獣だ。
が、いざ陥るとその『人形』呼ばわりも、私個人としては受け入れざるを得ないのかも知れない、と思ってしまうのである。
結局、自分自身の力では歩くのはおろか、話すこともままならないのだ。これでは、確かに自力でうごけない『人形』と同じかも知れない。
だが、やはりそれは心のどこかが拒絶した。
貴女は人形じゃない、れっきとした人間じゃないの、と。
外の空気が吸いたくなったのだが、ナースコールさえも、身体が動かないので押せない。
誰か、こういうときに意思を伝えられる人間がいたなら、とても楽なんだろうに・・・。
・・・人、創れたりするわけないよね・・・。
目の前がチカリと光る。
前にもあったこの感覚。私は覚えていた。
・・・これがなければ、私はこうして病院にいることもなかったはずだ。
私がこの感覚を味わい、それがきっかけで気絶。
病院に搬送され、パニックを起こしたのだろうか?私は病院を脱走し、そこでトラックに轢かれたのだった。
・・・嫌だ。これ以上、苦しみたくない・・・。
目眩が収まったとき、私は既に異変に気付いた。
・・・ああ、もう私は私ではないらしい。
とどのつまり、私の感覚的に、私の心と身体がリンクしていないというか、バラバラというか、そんな感じなのだ。
もう、戻れない・・・・・・。