ト
「・・・。」
無言。彼女、簑河垂水は植物状態なのだ、それはごくごく当たり前なのである。
しかし、私なら、この日扇夜月ならば・・・。
「・・・貴女の声、訊かせて頂戴っ☆」
どくん、と垂水の身体が跳ね上がる。
ガクガクと痙攣し、その眼が見開かれる。
「・・・ックハッ・・・。」
瞳孔の奥底には、事故直前の絶望が映っていた。
「・・・ンフフフッ☆みせてよ、もっと・・・、貴女の・・・・・・ね・・・?」
「・・・。」
やはり、返答はない。
だが一つ、その瞳がこちらを向いていたことだけは違った。それは明らか、反抗の意思を湛えた眼だった。
「・・・嫌?」
「・・・ん・・・。」
初めての声。どことなく聞いたことのあるような、しかし初めて聞いた声だった。
いまだかつて私が、きいたことのない種類の声。
「・・・い・・・・・・や。」
可愛いとも格好良いとも言える、理想的な声。
そんな良い声で否定されては、何とも言えない。
「わ・・た・・・・しは、・・・する・・・。」
何を?と訊こうとしたが、その前に誰かの気配が。
「仕方ないなぁ。・・・とりあえずはサヨナラ・・・かなっ☆」
私はやむなく、病室を去ることにした。