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今回は少し鬱かも?
私に声をかけてきたのは、お見舞いを欠かさずに来てくれた、部活の後輩だった。
読書が趣味の私ではあったが、入ったのは美術部で、思いの外、私の描いた絵は先生や先輩方には好評だった。
同級生の視線はどうしようもなく突き刺さってきたものの、その頃はまだ良かったと思える。
そして、その後輩は私を「突き刺した」側の人間だった。
同級生にありもしない噂を並べ立て、私を孤立させるきっかけを作った張本人である。
そんな輩が毎日毎日、意識のない私に会いに来ていたと思うとぞっとしたが、彼女は私にその「突き刺した」事実を隠している。
顔に極力それが出ない様に、堪える。
病棟のアルコール臭で、ちょっと不安を酔わせた私は、思いきって彼女に声をかけた。
「那須ちゃん?」
「何?たるみちゃん。」
相変わらずの呼びすて。私を先輩として見ていない事の証明だ。
「私、お腹減った・・・」
「そこにフルーツありますよ。」
そしてやはり、話を遮って応えてくる。これもまた、彼女が私に対し良い印象がないことの証明。
おもむろにミカンを取って、皮を剥く。
柑橘の芳香が鼻を包む。
ああ、瑞々しくもない、季節外れのミカン。
生々しく、ぬるい身を噛んで、とても美味しいとは言えないそれを飲み込む。
まるで作業のように軽食を終えて、それを那須さんは微笑んで視ていた。
全部コイツが用意したのだ。
この不味いフルーツも私の孤独も、ましてやこの気持ちさえも・・・。
「美味しかったですか?」
わざとらしいのに、腹が立つのに、どうしても嘘で塗り固めた、「いつもの」顔をせずにいられない。
「・・・うん。美味しかったよ。」
私というのは、本当の弱虫だ。
心のどこかで「なにくそ」と思うのに、周りに流され、徐々に引っこみ、いつの間にかそれは「自信喪失」に繋がってしまうのだから。
強くなりたい・・・。誰よりも、強く・・・!!