プロローグ的な何か
『読書、読書、読書。何をおいても、先週の末に晴れて成人した私という人間にはそれしかなかった。
何ともいえない印刷の香り、ひたすらに執筆した作者の魂がこもったあらゆる字の羅列、それぞれ考え抜かれた世界観・・・。
いつしか、紙だったそれは廃れ、電子機器へと形を変えて。
いつしか、それが当たり前となって、紙だったそれは忘れ去られた。
時代の急速な変遷についていけなかった私は、世の中の慈悲の無さというか、世界に深く失望した。
だから私は、忘れ去られた紙の様に。
誰にも見られなくなった彼らの様に、彼らの居る場所へ、皆より四、五十年ほど早く旅立ちたいと思います。
もしこれを見る人がいたら、この紙も幸せだと思うから。
だから、この紙が幸せなら私も幸せだった。
サヨナラ。私は紙の幸せを祈ります。』
と書き記し、およそ八メートルの高さに存在しているマンションの自室、その窓の縁に手を掛ける。
ぐっと身を乗り出すと、外の世界が目の前に広がる。
どうせなら、紙になってしまいたい。その方が幸せだ。
なぜなら彼らは、見てくれる人が少なからずいたから。
だが私には、それがいなかった。
脚に力を込める。
重力が私を引き寄せていく。
強い衝撃と共に、私の目の前は真っ暗になった。
桜が舞っている。一面が桜吹雪、それはあたかも極楽の様な・・・。
極楽?自殺志願者ならば冥土へ行くと聴いたのだが・・・。
「一体、どこなんだよここは・・・。」
「ここはキミが終わる場所だよ?」
誰だ!?と思わず身構えたが、その直後見た声の主は、私の腰を粉々に砕いた。
見るからに死神。その一言に尽きる姿だったのである。
黒いフードにドクロ頭、そして幾度も命を食んだであろう大鎌。
だが、見掛けによらず声は中々可愛い感じの女声だった。
「私が、終わる場所・・・?」
私が素朴に疑問に思った第一声をそのままおうむ返し。
「そう。キミ、ここで終わるの。」
「どういうこと?」
「キミという存在、もうここで終わるの。だから、キミが終わる場所は、ここ。」
どういうことなのか分からないが、少なくともまずいことだけは分かった。
「・・・ああ、分かんない?分かりやすくするなら・・・、キミはもうすぐ、死ぬ。」
え・・・。
頭が再びまっ白になる。
死ぬ?私が?もう死んだのではなかったのか。
まだ、生きていたのか・・・・・・。
「でも大丈夫だよ?キミはまたあっちで楽しくやっていけるからさ?」
その【あっち】が嫌で自殺未遂したというのに、なんとみっともない。
「それじゃね、【簑河 垂水】」
・・み・・・、た・み・・・!
「たるみちゃん!!」
ん・・・。
私は、夢でも視ていたのだろうか?よく思い出せないが、まだ目覚めきらない頭で、私が誰かに呼ばれている事は理解できた。
「何・・・?」
「あのね、私、言わなきゃいけない事があるの!!」
「何?」
私は何となくだが、嫌な予感がした。
こういう状況というのは、あまり良い展開が望めないのが私個人の経験上の意見である。
「・・・あのね。」
「うん?」
「実は、もう・・・。」
「はっきり言って?」
「実はもう、小説のこの話は終わりなの!!」
「メメタァ」