第六話
「まったく、なにしてるんですか!」
レナの叱責が飛ぶ。
「だって、女の子だと思ってたから。それなのにあいつ自分が男だってぎりぎりまで言わなかったんだよ! それに最後は、その、たっ……」
キリルは答える。言い訳を口にはするがあまり悪びれた様子はない。むしろいっそ堂々としているようにすら感じられる。だが、さすがにシルの興奮の象徴について言及しようとするも恥ずかしさが勝り、口にできなかった。
「はぁ、まあ確かにそう思うのは仕方ないのかもしれませんが、それでも有無を言わさずに投げ飛ばすことはないでしょう。せっかく起きたと思ったのに……」
「まあ、いいじゃないですか師匠。それより、あいつ屋敷に置くんですか? 私は、断固反対します。男なんてうちに置くべきじゃありません」
シルに対する態度が一変するキリル。はっきりと自身の意見を述べる様子は彼女の態度が一過性のものではないことを示している。ただ怒りに身を任せシルを拒絶しているわけではないようだ。
「しょうがないでしょう。シルは、まだ魔法も使えないようですし、それに記憶も失っているようですから。シルに行く当てなんてないでしょうし」
「いやです! 男なんてこの屋敷に置くべきじゃありません!」
キリルは声を荒げる。だが、レナがそれを叱ることはなかった。本当は注意すべきだとわかっていながら、彼女にはそれができなかった。キリルがそうなってしまった責任の一端が自分にあるとレナは考えているからだ。
「あなたの気持ちも分かりますが、それでも捨て置けないですよ」
「どっかの、魔法塾に弟子入りさせればいいじゃないですか。どうせ、男なんだからすぐに受け入れてもらえますよ」
「それはそうだけど、記憶のない子に急に連続して環境を変えさせたくないですよ。それに……」
「でも、師匠。内に今、人を一人養う余裕なんてあるんですか?」
「うっ……」
痛いところを突かれ、レナは言葉に詰まる。
「ほら、やっぱりあいつをうちに置く余裕はありませんよ。さっきの支援団体だって断りに来たんでしょう?」
「……うぅ」
レナは自身の力不足を悔やみ、うつむきか細い声で言った。
「……わかりました。明日にでも知り合いの経営する魔法塾に相談してきます」
「はい!」
落ち込む師匠のまえで、キリルは嬉しそうに返事をしたのだった。