第十一話
ヨハンからの説明が終わり、準備も済むとレナとシルは屋敷への帰路についた。
日は傾き、あたりが橙色に染まっている。手をつないだ二人の影が地面につながってできている。
「しっかり作戦を理解しましたか?」
「はい、でも、僕本当に今別の顔をしているんですか?」
「ええ、もう別人ですよ。胸もありますし、顔も完全に女の子になってますよ。髪だけですね。同じなのは」
ヨハンが考えた策は以下の通りだった。
キリルがシルを拒む理由は単に彼女が男性を拒むから。逆に彼女は女性とは親しくかかわろうとする。それならば、シルの姿を魔法で女性のものに変えキリルとの友好をはかったころに、実はシルであることをばらせばよい。そうすれば、ただ男性というだけでシルを拒否することもできなくなる。
もちろん彼女は金欠を理由に反対の立場を取り続けるだろうが、そこはヨハンがシルのためにいくらか自腹を切ると申し出てくれた。レナが一度申し訳なさそうに断ったのだが、彼は「僕もシル君の役に立ちたいんだよ」と言ってきかなかった。その態度は彼の要望、性格からは考えられないほど強引に思えた。
「でも、やっぱり触ろうとするとダメですね。キリルとの接触には気を付けるようにしてくださいね」
ヨハンが開発したこの魔法は光を操作することで別の姿を相手に見せることを可能とする。そのため影を気にする必要はない。だが、その実体はないために触られればまず間違いなく違和感を与えてしまう。キリルが相好を崩すまではシルだとばれるわけにはいかないのだから触られてはならない。
可能な限り、見える姿とシルの姿の大きさを近づけブレをなくそうとはしているものの、やはり完ぺきとはいかない。シルだとばれてはいけない上に女性の容貌をしていなくてはいけないのだから、作り上げる姿は骨格がシルのものとずれ、細かいパーツにもずれがある。その最たるものが胸だ。
レナほど大きいわけではないが、キリルよりは大きい。女性らしさを十分表している。そのため魔法をかけられたときシルはついそこへ手を伸ばしてしまい、ヨハンとレナに笑われてしまった。
「うまくいくといいですね」
「大丈夫、きっと成功しますよ。それにもしだめでもシルのことは私が何をしても面倒を見ますから。安心してください」
そういって、レナは変わらぬシルの銀髪に手を置いた。再び2人の影法師がつながった。
ちなみにシルの髪の色だけが変わっていないのは彼が強くそれを拒んだからだ。ヨハンとレナが髪の色を変えたほうがばれにくいといくら勧めても彼はかたくなにそれを受け入れなかった。