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さようならの春2




『やっぱ、気持ち伝えとけば良かったんじゃない?』


白地にライトブルーの水玉模様が描かれた布団の上で、淡いピンク色のクッションに顔をうずめて、うつ伏せに寝そべっていると、スマフォの奥でそう言われた。


「えー…澄果ちゃん何でそんな事いうの」

『だって陽菜、めっちゃ後悔してるじゃん』


電話の相手…宮間 澄果は電話口でそう言いながら、パリッと湿気った音をさせた。

お気に入りのスナック菓子を頬張ったようだ。


「うっ…でも良いの!!私の片想いはあの時に終わったんだから!」


ねぇ、と私は枕元に座らされたミルクティー色のテディベアに同意を求めた。

まぁ、当たり前だが返事は帰って来ないのでただの独り言になってしまったのだけど。




私、鈴川 陽菜が高校の卒業式を迎えたのは、つい1週間前の事だ。

高校生は学生時代のなかで一番楽しい時期だと言われるだけあって、本当に充実した3年間をおくれたと思っている。


ただ一つの、後悔を除いて。


ありきたりな話。

私には中学1年生から好意を向ける人がいた。

彼は背が高くて、運動神経がよくて、顔だっていい。

凡人の私が近づく事すら許されないような、高嶺の人。

だけど彼に少しでも近づくため、行きたい高校を我慢してランクを落として彼と同じ高校に進んだ。

幸運な事に3年間同じクラスでいられた。

勿論、彼の周りには彼を虜にしようと集る女子でいつも賑わっていて、声をかけることすらままならなかった。

結局、彼とは話しをするどころか、名前を覚えてもらえたのかすら怪しい状態で卒業に至ってしまったのだけど。


その時、私が決めた約束。


『最後のHRが終わるまでに告白をしなかったら、彼のことを諦める』


そして、私の片想いは終わりを告げたのだ。


『陽菜が良いならいいけどさ、私だったら絶対後悔すると思うけどなあ』

「…でも告白してたって彼は私のこと知らなかったと思うし…って、ごめん電話入った!!後で掛け直す!!」

『はいはーい、なるべく早めにね』

「うん、ごめんね」


ケラケラ笑う澄果に軽く謝って、通話を切ると新たに入った電話に切り替える。


「はい、鈴川です」

『…陽菜?』

「なんだ、桐也か。どうしたの?急に」


電話の相手は、幼馴染である福司 桐也だった。

普段は鬱陶しいくらいに明るい桐也であるが、電話口に聞こえる声は酷く暗い。


『っ、あ、のな』


言い出し辛そうに声をつまらせて、小刻みに息を漏らしている。

それだけでも、何かあった事を読み取るには十分だった。


「どうしたの…?」


嫌な予感が、背筋を氷が伝うように静かに流れた。





『 』




時が、止まったのではと錯覚する。

秒針の音がやけに大きく聞こえて、思考が働く事を休止した。

電話口では、桐也の押し殺した泣き声が聞こえる。


しかしそれは私の頭をめぐる事なく、すり抜けた。




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