さようならの春
まだ、うすら寒い乾燥した風が頬を撫でる。
窓からは薄いピンクに色づいた梅の花弁が風に乗って流れる姿が目に映った。
「今日で、このクラスも最後になります」
くぐもった担任の声が、嗚咽と鼻をすする音が混じり合った教室に、シン、と響く。
その声に自分の目に張った水膜が零れて、頬を伝うのが分かる。
多分、私の目と鼻は一日中流した涙のせいで真っ赤になっているに違いない。
「これから皆、色々な人生を送ると思う。そこには沢山の壁があり、挫折があるはずだ。だけど、それらに負けないで欲しい、そして辛い時には思い出して欲しい。このクラスで過ごした幸せを」
あぁ、次の言葉を聞いたらすべてが終わってしまうのだろう。
独特のカラっとした寂しさが、胸を締め付ける。
ーそして、きっとこの想いも、終わりを告げる。
斜め前に座る黒髪を、そっと見据えた。
一際強い風が教室に流れ込み、花弁が飾りの無くなった教室を、彩る。
「このクラスは俺にとって最高だった!お疲れ様!みんな、卒業おめでとう!」
わぁ、と何処からか咽び泣く声が襲いかかって来て、それは伝染するようにクラス中に広がり、涙腺を崩壊させた。
終わった、終わってしまった。
それならば、涙と共に流してしまおう。
あの気持ちを。
長く、焦がれた時間を。
涙でグシャグシャになった顔で、精一杯の笑顔を、後ろ姿の彼に向けて。
ーーさようなら、私の片想い。




