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三匹の鬼 4

3色目        『三匹の鬼 4』


「おはよう、孟徳」


我が主から姉君様の御結婚についてのお話を伺っていた丁度その時、


彼女から声を掛けられた。彼女というのは寵愛 本初氏。


今日は自慢の髪の毛が全く盛られておらず遠目から見ると「誰?」と


聞いてしまいそうな位、それ位に雰囲気が違っている。


「・・・どうしたのよ本初、顔色が悪いわよ?」


珍しく氏のことを名前で呼ぶ我が主。今日はお二人とも毒素ゼロの


素顔モードといったところか・・・。


「うん、ちょっとね。新規メンバー募集のために接待とか呼び込みとか


忙しくてさ・・・少しだけ疲れちゃって」


席に着くなり顔を机に埋める寵愛氏。かなりお疲れの様子だが・・・


「・・・あの・・・寵愛氏?」


「何?」


寵愛氏は顔を埋めたまま返事をしてきたので、俺はとりあえず話を続ける。


「失礼な質問かもしれないのだが、正直町内限定アイドルと言ってもCDを


出すでもなく写真集を出すでも無い。ただ寵愛氏と我が主お二人の中だけで


自称されているアイドル活動にそこまで身体を使う必要が無いのでは?


それに親衛隊と言っても所詮アルバイトの集まりなんだし接待なんて・・・」


久しぶりに饒舌になった報いとして、我が主から鳩尾目掛けて力強いパンチが


繰り出された。


ごちそうさまです、我が主。


俺は床の上で泡を吹きながら意識を失う。







床に倒れた子考の口から泡が出ているようだけど・・・


まぁ、お仕置きとして少しだけ放置しましょ。


私は立ち上がりうつ伏せのまま顔を上げようとしない本初の席へと向かう。


きっと顔を上げてはくれないだろうから、本初の頭部に話しかける。


「ごめんね」


「・・・謝らないでよ、孟徳」


「・・・」


本初の声は優しかった。だから余計に私は心配になってしまう。


「無理をしてはダメよ」


だって、あなたはいつも無理なことばっかりするのだから。


「ありがとう」


やっと顔を上げてくれた本初。


優しい微笑みは昔のまま。それでもその奥に秘められたこの子の決意は


揺らぐことは無いだろう。


いつだってたった一人で、あなたは頑張り過ぎているのよ本初。


「地図はいつ貰えるのかしら?」


私の質問に本初は少し考えてから返事を返す。


「そうね・・・あと1週間位は掛るかも」


「じゃあ地図が出来たらすぐ連絡頂戴ね。地図貰いに行くから」


「分かった」


再び微笑む本初の顔は、さっきの笑顔とは違った。


この笑顔は『盛り』バージョンだ。


「それまではそこの倒れている彼の世話をよろしくね?君ヶ主さん」


ならば私も『巻き』モードで返事をしなくてはダメよね。


「ふふふっ、そうね。主に下のお世話を頑張るわ、寵愛さん」


「うん、頑張って」


「・・・」


三度微笑む本初。


この笑顔は・・・まあどっちでもいいか。




「本初」


「なに?」


「髪の毛セットしてあげる」


「え?いいよ。どうせ誰も見てないし、気に掛けることも無いんだし」


両手で髪を押さえて首を振る本初を押し切り、私は鞄の中から取り出した


ヘアアイロンとブラシを許可なく机の上に広げると、美しい漆黒の髪を優しく


撫でてあげる


「いいの。私があんたの髪の毛を弄りたいの」


「もう・・・勝手にして!」


嫌そうな態度を取りながら髪から手を離す素直で可愛い本初を愛でながら、


教室のコンセントを無断で拝借させていただいた。






あ、そうだ。セットが終わったら、早く子考を介抱してあげなきゃ。

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