三匹の鬼 18
色目 『三匹の鬼 18』
「・・・もう」
何なの、いったいどういうことよ。この状況。
「いいですか、君ヶ主さん。うちは出来る限りの治療を施しているのですよ?
それなのに病室から抜け出すとは何事ですか?」
「・・・・・・」
「聞いてますか?あなたご家族ですよね」
「・・・腹違いですけど」
「は?何か言いましたか」
「・・・いえ・・・」
むかつく。この女、マジ殺・・・
「いやー、本当に申し訳ないっす!俺たちがちょっと売店に行っていた隙に
お姉さん元気になりすぎちゃったみたいで。あはははは、
いやー・・・元気な人は本当に元気ですよね!!!
あはははっははは・・・は・・・」
「雲ちゃん、こんな奴に言い訳しなくていいから」
「でも・・・」
「なんですか、その口の利き方は!!!私はこの病院の婦長で」
「分かった」
「はぁ?」
「玄ちゃん?!」
「はいはいどうも、すいませんでした」
とりあえず頭を下げてみる。
私がそんなことするもんだから雲ちゃんたらあたふたしちゃって。
もう、見てらんないよ。
「まっっ・・・!!!本っっっ当、教育が出来ていない子って嫌だわ。
いくらこの町が異常だからって、目上の者に対する態度はしっかりと~~・・・」
はぁ。このオバサン本当にうるさい。もう聞きたくないから、お耳に耳栓IN&ババアの
声をOUT!
やったね、雲ちゃん。これでもう何も聞こえないよ?
「聞いてるんですか?ちょっと、君ヶ主さん?!」
「・・・」
「す、すいません。ちょっと玄ちゃん、緊張して疲れちゃったみたいなんでちょっと
外の空気吸ってきますね?あはは、さよなら!!!」
私が耳栓してボーっとしてたら、雲ちゃんがババアと話を付けたのか一方的に
逃げ出したのかは分からないけど、
いきなり腕を掴まれてそのまま病院の外へと走り出す私と雲ちゃん。
よくわかんないけど・・・ま、ババアから離れられるなら何でもOK!
さっすが雲ちゃん、私の未来のお婿さん。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・ここまでくれば大丈夫だろう」
病院の外へ出たのを確認して耳栓を外す。雲ちゃんは息を切らして
地面に座り込んでいた。
「大丈夫?雲ちゃん」
「はぁ・・・はぁ・・・っ・・・だ、大丈夫だよ・・・全然、もう全然大丈夫だから」
うん、全然ダメダメだね。仕方ないのでとりあえず私も地面に座り込んでみた。
ドーン!
「はっ・・・はっ・・・げ、玄ちゃん。尻が汚れちゃうよ」
「大丈夫。この服、別にブランド物じゃないし」
まあ、私が持っている服全てがそうなのだが・・・。ま、いいか。
「そういう問題じゃないよ・・・はっ・・・はぁ」
「だって雲ちゃんは私を助け出してくれた恩人さんだよ?
恩人の上から見下ろしちゃダメでしょ?」
「はっ・・はっ・・恩人だなんて・・・。そんな他人行儀みたいな言い方
しないでくれよ。俺は玄ちゃんの・・・」
「・・・?」
「・・・」
突然、雲ちゃんの口は閉まりそのまま黙り込んでしまった。・・・雲ちゃん・・・?
「どうしたの?なんで黙るの?」
「・・・いや・・・俺・・・」
「ん?」
「・・・・・・俺なんかが旦那になって、それで玄ちゃんは幸せに
なれるのかなって・・・」
「・・・はい?」
「だって俺の兄貴・・・一番上の兄貴があんなことして、
そんな奴の弟なんだぜ?俺」
「・・・・・・」
「やっぱ・・・玄ちゃんと結婚は・・・」
「出来ないの?」
雲ちゃんの目を見て確認する。私の言葉に雲ちゃんの目が泳ぐ。
「・・・それは・・・」
「私は出来るよ」
「玄ちゃん・・・」
「私は雲ちゃんのお嫁さんだから。だからもう玄ちゃんとか言うのやめてよ。
そっちのほうがよっぽど他人行儀だよ!」
珍しく感情が高ぶって、私は雲ちゃんに怒鳴ってしまう。うわー・・・
やだー!私の馬鹿!!
雲ちゃんに怒鳴るなんて、ないわー・・・。
「・・・・・・ごめん・・・・・・嫁さん」
「っ」
「・・・ごめん・・・ごめん・・・ごめんな、嫁さん」
「雲ちゃん・・・」
顔を両腕で覆いながら雲ちゃんは一人泣き始める。やっぱ私が怒鳴ったせい?
怖かったの?
「う・・・雲ちゃん、泣くの止めて。私が泣かせたみたいじゃない」
「ごっ・・・ごめっ・・・ごめん・・・うっ・・・」
「雲ちゃん・・・・・・ぅっ・・・」
「・・・っ・・・?!・・・嫁さん・・・?」
雲ちゃんが泣いてたら私も泣きたくなってきたよ・・・。泣いていいのかな?
泣いてもいいかな?雲ちゃん。
「うっ・・・うぅ・・・」
「よ・・・嫁さん、泣かないで!泣いちゃダメだ!君が泣く姿は見たくない!」
「じゃあ雲ちゃんも、もう泣かないでね?」
「え?」
一ミリだけ出た涙を引っ込ませて、私はいつもの笑顔を雲ちゃんに送った。
でもまだ茫然としてる雲ちゃん。もう・・・雲長、しっかりしなさい!
「いいね、約束だよ。破ったら婚約破棄だからね。分かった?!返事は?」
「・・・あ・・・は・・、はい・・・」
なんかいまいち納得していないみたいだけど、ここは強引に話を丸め込んで押し付けて、
終わらせれば大体の人はこれ以上話を蒸し返さないから、多分雲ちゃんもこれで大丈夫!
「うむ、ならば、よしだね!」
「う・・・うん」
とりあえずアフターケアを兼ねて雲ちゃんの身体にぎゅーっと抱きついてみる。
「ちょっ!嫁さん??!」
慌てふためいている雲ちゃんに更なる打撃を
「雲ちゃん、大好き」
ドーン!と一発かます。雲ちゃん、余裕でノックダウン!
「・・・・・・お・・・俺も・・・俺も大好きだよ、嫁さん」
雲ちゃんの腕が私の身体を抱きしめてくる。なんだかいつもよりそれが
恥ずかしくて、少しだけ興奮をしてしまう・・・。
「・・・雲ちゃん・・・キス・・・」
「・・・ん・・・」
「・・・」
「・・・」
「玄ちゃん・・・?」
マジで唇と唇が重なる5秒前、なんてタイミングの悪さなのよ・・・文ちゃん。
「・・・」
「・・・あ・・・、お姉さん・・・。ど、どうも・・・」
雲ちゃん、挨拶しなくていいから。
「あ・・・えっと、どうも」
文ちゃんも、アホみたいに挨拶を返すのは止めて!!
「・・・・・・あ、・・・あのこれは・・・」
「い、いいのよ?いいの。全然いいの。続けて貰っていいから、もう全然」
「・・・やめた」
「え?」
「え!!!」
私は雲ちゃんから離れ立ち上がるとお尻に付いた砂を手で軽く叩いて落とす。
そして少しだけ文ちゃんを睨んでから、ちょっとばかし愚痴を吐く。
「文ちゃん、一体どこへ行ってたの?文ちゃんが消えたから、
私がババ・・・看護婦長さんに怒られちゃったんだよ?すごく嫌な思いしちゃったよ?!」
「あっ・・・あうぅ・・・ごめんね、ごめんね、玄ちゃん」
「さっさと、婦長に謝って。病室戻って。点滴刺して寝てなさい!」
キビキビと指示を出すと、文ちゃんは軍人みたいに敬礼しながら「はい!」って
元気な声を出して病室へと走って戻っていった。病み上がりとは思えぬ足の速さに
驚きつつ、私はまだ地面に座ったままの雲ちゃんを上から見下ろす。
目が合うと、雲ちゃんは頭を掻きながら「あはははは」なんて乾いた笑い声を
出すもんだから、ちょっとばかしカチーンと来たので顔をぷいっと、してみる。
「よ・・・嫁さん!!!」
慌てて立ち上がり私を宥めだす雲ちゃん。
私はそこまで怒っていたわけじゃないけど、とりあえずまだ怒っているフリを
することにしてみた。
そしたらなんと、雲ちゃんは土下座なんかはじめてしまうではないか。
何それ?そんなに私を本気で怒らせたいの?!んもー・・・最悪。
雲ちゃんなんか・・・!!!!
雲ちゃんなんかぁぁぁぁ・・・・!!!!!
「・・・」
・・・・・・嫌いじゃ、ないんだからね・・・。
「ごめんよ、ごめんよ嫁さん。許して、お願い。嫌いにならないで」
「・・・むむ・・・」
「嫁さん・・・堪忍・・・堪忍やあぁぁ・・・」
「・・・・・・はぁ・・・」
馬鹿雲ちゃん。なれるわけないじゃん、嫌いになんてさ。
だって私は雲ちゃんのことが今、一番大好きなんだから。




