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三匹の鬼 11

3色目        『三匹の鬼 11』


今日の朝食。


コンビニで買ってきた惣菜パンとサンドイッチ。あと野菜ジュース。


6時50分、かわいい息子にいつも通りの挨拶をしてからあの人がいる


道場へ向かう。


「さよなら、おばさま」


「またね、玄徳ちゃん」


いつものように憎いあの子を見送ってから夫と一緒に家へ戻る。


帰り道、何となく聞いてみた。


「・・・ねえ」


「何だい?」


「私のこと・・・まだ女として見てくれている?」


「見ているよ」


「じゃあ、息子たちが学校へ行った後・・・」


私のことを抱いてくれる?


そう聞ければどれだけ楽になれるだろうか。


その答えを聞けば私は毎日毎日疑心暗鬼になることも無く彼のことを


心から素直に愛していた昔の自分に戻ることが出来る?


そして今以上に息子たちに愛情を注ぐことが出来るのかな・・・。


「・・・」


無理。


多分それはもう出来ない。例え私自身が変われたとしても、きっとこの人の心は


もう戻ることは無いんだ・・・。


だって、だって私と話している時よりあの子と話をしている時の方がとても


楽しそうだから。


私がこうやって話している最中も彼は私の方に顔も向けずに、ずっと正面だけ見て


歩き続けているじゃないか。息子たちがまだいなかった頃、結婚をする前の彼なら


いつも私の歩幅に合わせて歩いてくれて、常に私の目を見てお話をしてくれた。


子供たちが出来ても、それは変わらなかったのに・・・。


なのに、あの三姉妹が道場に来てからあの人は少しずつ変わっていってしまった。


私より先に歩いて、目を合わしてお話をすることも無くなって、ここ最近は朝早くに


一人で道場へ行ってしまうから朝一番の「おはよう」も言えなくて、


それが一番寂しくて辛い。


でも今のあなたは私がどんなに苦しんでいても気付こうとはしないし、気付いても


手を差し伸べることは無いんだ。


だってあなたは今、もう違う子に、あの少女に手を差し伸べているから。


あの子さえ幸せにできるのなら、私達家族が幸せじゃなくてもいいんだ。


きっと、こいつはそう思っているに違いないんだ。


「どうしたんだい?何か僕に用でも・・・」


「え?」


我に返って顔を上げると久しぶりに彼と目が合い、


羞恥を覚え頬を赤く染めながら私は顔を逸らす。


「な・・・何でもないの」


「そう。なんだか今日は落ち着きがないみたいだけど、


何か心配事でもあるのかい?あるなら僕が・・・」


「無いよ!悩み事も、心配事も無いんだから!」


なに大声出しているんだろう、私。やだ・・・なんかすごく恥ずかしい・・・。


「・・・私、先に帰るから」


この場にいるのが耐え切れなくなり、今まで歩きながら引いていた自転車に跨ると、


私は夫をその場に放置して家へと走り出す。顔を冷やす風が冷たくてとても


気持ちが良く、少しだけ私の彼への想いが和らいでいく。



ちょっと閉鎖的に考え過ぎていたのかもしれない。


しっかりと目と目を見て話し合えば、きっと彼は私が納得できる説明をしてくれる。


その説明を聞けば、私は少しだけ、ほんの少しだけだけど彼女のことも寛容出来るかも


しれない。そう思っていた。この日、この時までは・・・。







今日の朝食。


炊き込みご飯と鮭としめじのホイル焼き、自家製のぬか漬けと豆腐のお味噌汁。


「あと、もう一品作ろうかなー・・・」


時計を見ると6時40分。あと10分はあるし、もう一品位は作れるだろうと思い


冷蔵庫を漁っていると、公覆がいつもより早い朝の挨拶をしてきた。


「・・・おはよう」


「あら、おはよう公覆。どうしたの?今日はいつもより早いね」


「・・・」


「・・・?」


どうしたんだろう、なんだか顔色が良くない。もしかして風邪でも引いたのだろうか。


「公覆、どうしたの?どこかおかしい所でも・・・」


私の問いに、息子は首を振る。


「どうしたのよ、顔色が良くないわよ?」


「・・・」


それでも何も言わない公覆の姿に、私は一抹の不安を覚えた。嫌な予感がする。


「・・・父さんが・・・」


「・・・」


「父さんが昨日・・・雲長と・・・話をしていて・・・」


「・・・雲長・・・」


三男の名前を聞いた瞬間、予感は悪寒へと変わり小刻みに震える上がる自分の身体を


落ち着かせようと思い、そっと両腕で抱きしめた。


「お父さん・・・玄徳ちゃんのことを・・・」


「・・・」


「・・・・・・愛してるって・・・・・・」










「・・・・・・そう」







分かってたよ。


分かっていたことなのに。


少しでも心に余裕を持たせてしまった私が馬鹿だったんだ。


夫を信じようなんて思った私が浅はかだった。


相容れることは一生無かったんだ。


あれも女なんだ。


私と同じ女。


だから男を欲した。


夫は自らの身体を捧げた。


私を置いてきぼりにして、家族も捨てて、あの女に身を投じた。


父親をやめて、あいつは男へ戻った。


男として、年の離れた少女を女として認識し、愛したんだ。


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