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三匹の鬼 10-7

3色目        『三匹の鬼 10―7』



長い眠りから目覚めると、横に居たのは意外な人物だった。


「・・・え、寵愛さん?」


私が眠るベッドの横で彼女は椅子に座った状態で首を不安定に


揺らしながれ寝ていた。


改めて部屋の中を見渡すと、ここが私が良く入院していた病院の


病室だという事に気付く。


「・・・孟ちゃん・・・玄ちゃん・・・」


あれから何日経ったのだろう。妹たちは、特にあの日動揺をしていた孟ちゃんは


立ち直っているだろうか。


弟くんたちは事件の話をどこまで聞かされたのだろう。


そしてもし全てを知ってしまったのなら、あの子たちは公覆のことを軽蔑して


しまうのだろうか・・・。


「んっ・・・」


そんなことを考えていたら寵愛さんが目を覚ましたようだ。


・・・どうしよう、一応言っておくべき?


「あ、おはよう・・・」


「はっ」


私の声に驚く寵愛さん。


一瞬顔を引きつっていたけど、すぐに緩やかな表情になり親切にお辞儀をしながら


挨拶を交わしてくれた。


「おはようございます、文台さん」


「おはよう、寵愛さん。えっと、ちなみになんで寵愛さんがここに居たり


するのかな?」


単刀直入に聞いてみると寵愛さんの顔が少しだけ曇ってしまう。


あちゃー、いきなり聞いちゃいけなかったかな・・・。


「えっと・・・。まずあなたが倒れた後、弟塚 公覆さんの飛び降りの直後から


説明を始めさせて貰おうかと思いますが、気持ちの整理は出来ていますか?」


「うん、大丈夫」


本当は大丈夫じゃないんだけど・・・、でもいずれ知ることだし・・・。


「・・・分かりました。ではまず弟塚 公覆さんについてですが、


3日経った今も尚、


意識は回復することなく危険な状態が続いています」


「・・・」


公覆・・・。


「孟徳はあの日から精神的に落ち込んでしまい、ずっと部屋に閉じこもって


いるそうです」


「あの子は結構強気なフリをしているだけの子だから。特に身内の問題が起きると


いつもそうやって一人で抱え込んで一人で消化しようとする、


不器用な子なのよね・・・」


「そうですね。でも、毎日弟塚君・・・あ、子考くんがお家に行っては部屋の前で


声を掛けているそうで、食事も置いておけば気が付くと食べてくれているとかで。


少し楽しそうでした」


「ふふふ、そう。なら今回はいつもより早く回復できるかな」


「そうなることを私も祈っています」


「玄ちゃんと雲長くんは?」


「えっと、その二人はずっと家と病院を行き来しています。


今日も廊下の椅子に二人で座っているのを見ました」


「・・・そう・・・」


玄ちゃん、しっかり雲長くんのことを支えてあげるんだよ。


「それで?」


「え?」


「それでみんなは事件のことをどこまで聞いたの?」


「・・・」


今までハキハキと喋っていた寵愛さんの口が閉まり、視線が泳ぐ。


「それは・・・その」


「はっきり答えて」


私の声に肩を揺らしながらも彼女は思い口を開いた。


「・・・みんな、全部」


「そう」


やっぱり、そうなるよね。そう・・・なっちゃうんだよね。




「・・・・・・私・・・」




「え?」


「・・・私がやったことを・・・私は今でも後悔はしていません!」


語尾を強めてそう言い放つと、緊張していた気持ちが解けたのか涙を流す


寵愛さん。


ここで私は何を言うべきか。その答えを私は未だに見出すことが


出来なかったから、とりあえず今言える最大級の言葉を発しておく。



「あなたがそれでいいなら、これでよかったんじゃない」




「・・・ぶ・・・文台・・・さんっ・・・」


「いずれ・・・、そう、いずれはみんなが知ることだったのよ。


公覆がしたことを、


私がそれを知りながら彼を愛していたからずっと黙っていたことを。


・・・もういいよ。もう、どうにもならないんだもの。もう、いいんだよ」





だから、後はもう結末を迎えるだけなんだ。



被害を最小限に抑えて、全てを私の手で終わらせてしまえばいい。







それがみんなへの私たちからの贖罪だ。



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