三匹の鬼 10
3色目 『三匹の鬼 10』
鏡に映る私の姿。
妹たちが作ってくれたウェディングドレスと小さなブーケ。
首には大切な『幸せ』の印鑑が付いたネックレス。
大丈夫、もう、大丈夫だから・・・。
「・・・え」
式の20分前、我が家に珍しい客人が来た。
「本初・・・どうしたのよ?」
「うん、忙しいのにごめんね」
現れたのは制服姿の本初。学校帰りにしては遅いこんな時間に
どうしたのかしら。
「あ・・・、とりあえず入って」
「ごめん、ありうがとう」
とりあえず本初を家の中へ招く。しかし困った、今日はこれから式だから
リビングには案内できないし、とりあえず私の部屋にでも・・・。
「孟徳」
「なに?」
「実は私、あなたに用があるんじゃないの」
「は?」
じゃあ何しにこんな時間にうちへ?今日は式があるって伝えて・・・ないか?
なかったっけ?
「私・・・実は文台さんとお話があるの」
「文台と?」
「うん」
「・・・文台・・・と・・・」
「会えないかな」
「いや、そんなことはないけれど・・・」
けれど、あなたと文台って・・・何か接点あったっけ?
「我が主、どうされました?」
玄関で立ち尽くす私のところへ子考が近づいてきた。
あぁ・・・子考。もしかして私のことを案じてくれたの?
うふふふ・・・うれしい。
「我が主?」
「あ、あいやっ・・・何でもないの」
「そう・・・ですか?」
「えぇ、大丈夫よ」
今日の子考はスーツ姿でいつもの倍、私の心を刺激してくる。
こんな姿で人殺しをしたら最高に感じちゃう・・・。
「孟徳?」
「はっ!」
いけない、私としたことが。客人を目の前にして何やってるのよ!
「失礼、本・・・寵愛さん。姉なら二階の自室にいるから、案内するわ。
子考、セッティングの方は任せたわよ?」
「畏まりました、我が主」
(もう準備終わってるんだけどなー・・・)
私は早足で歩き本初を二階の姉が待機している部屋に案内する。
本当なら姉が出向かなければいけないのだけれど、なんせあの姉だ。
結婚式の当日にいつもの強烈なドジっ子モードを発揮して私たちが作った
ウェディングドレスを汚されたり、その姿で怪我されるのはお断りだった。
だから姉・文台にはウェディングドレスを着たら式の時間になるまで絶対に
部屋の外に出ないよう、部屋の中を歩き回らないよう強く言い聞かせておいたの
だが・・・本当に大丈夫だろうか。
準備に手間取っていて、服を着させてからかれこれ30分は経っているが、
姉は何か仕出かしていないだろうか・・・。
ドアの前、深呼吸をしてから2回ノックをする。
「お姉ちゃん、入っていい?」
「孟ちゃん?どうぞどうぞ」
出来れば本初の前で孟ちゃん呼びはしてもらいたくなかったが、
まあ仕方がない。
とりあえずドアノブを回して部屋の中に入る。
ドアをゆっくりと開けて部屋の中を確認。・・・ふむ、何も壊れてないし
荒れてない。
そして姉もまた・・・純白のウェディングドレスを身に纏い、
落ち着いた表情で椅子に座っていた。
あぁ・・・やっぱり綺麗よ、文台。
「どうしたの?」
「あっ」
しまった、また見とれていたから客人のことを一瞬忘れていた。
「えーあー・・・ごほんっ!」
「んん?」
「えっと、文台にお客さん」
「私に・・・?」
「そうよ」
「でもメンバーのみんなは今日は呼んで・・・」
ん?どうしたのかしら。
「無・・・い・・・けど」
「・・・?」
よく分からないけど、何故か文台の顔色が徐々に悪くなってきているような
気がするのだけれど・・・。まさかトイレ?!
「初めまして、君ヶ主 文台さん」
「・・・?」
そう言って私の背後から本初がずいと前に出てきた。
「初めまして、君ヶ主 文台さん」
「・・・」
そう言って私の背後から本初がずいと前に出てきた。
「式の前に、あなたにどうしてもお話がしたくて参りました」
「話・・・」
「あ、申し遅れました。私、寵愛 本初と申します」
「・・・」
名前を聞いた瞬間、明らかに動揺をする文台。声を掛けようとしたが先に本初が
話を進める。
「そして妹の名前は、寵愛 公路」
「っ・・・」
「私が今日ここに来たのは、あなたに真実を伝えるためです」
「・・・」
「あなたの恋人がいかに下衆野郎で・・・」
「・・・」
「・・・そして・・・そして私の幼い妹を・・・」
「・・・」
「暴行して・・・殺した・・・殺人犯だってことを!!!」
茫然とする私の瞳に映った文台の顔は先程とは違いどこか涼しくて・・・
凛としていた。




