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三匹の鬼 8 昼

3色目        『三匹の鬼 8・昼』


「ねえ玄徳」


「なに?」


目の前に座る妹は人肉をしゃぶりながらこちらを見た。


「あんたさ・・・私のこと、嫌い?」


「好きだよ」


即答。少し恥ずかしい。


「・・・でもさ」


「?」


頬を赤めつつ、私はずっと胸に残っていた疑問を妹にぶつけた。


「あんた言ったじゃない。お姉ちゃんは私のことをいつも干渉してないって」


「・・・」


妹は首を傾げる。おいおい・・・


「ほら、玄徳がクラスメートを半殺しにした時」


「・・・そうだっけ」


「そうよ」


相変わらずぱっとしない妹の表情。


「・・・うん、・・・うん、・・・うん・・・」


人肉をしゃぶりながら何度も頷いて、如何にも理解してるような反応を


しているけど。


「あんた完全に忘れてるでしょ」


「うん、正直言って覚えてない」


ダメだこりゃ。


「・・・はぁ。あんたにこんなことを聞いた私が馬鹿ってことか」


アホらしい。昼食のリゾットが冷めちゃったじゃないのよ!


「・・・でもね」


「ん?」


ご飯を掬う手を止めて私は今一度、妹の方を見る。妹の顔は何処か


錆びそうだった。


「私、確かに昔、一度だけお姉ちゃんのこと、本気で嫌いになったこと、あるよ」


突然の告白。


「・・・そう・・・なんだ」


何事も無かったようにスプーンを口へ運んだものの、内心私は傷ついていた。


「うん、中学3年生の時。奉ちゃんが、冤罪で捕まった日の夜」


「中学3年生の時・・・」


リゾットを味わいながら過去の記憶を辿る。




中学3年生のその時、私と妹に何かあっただろうか・・・。




















「はい」


外路のいる病院から戻ってきた私に差し出されたのは『夕飯』である


どこの誰だか分からない人間の身体。今日は太ももが一本、皿に乗っている。


「・・・」


「どうしたのよ、食べないの?」


姉が急かす。


確かにもう夜の8時だ、いつもだったら6時には夕飯を食べているから


姉たちの使った食器はもう片付いているだろうし、そうなると私が早く


この肉を食べて皿を空けなければいけなくて、姉もそれを望んでいた。



でも・・・


「・・・いらない」


私は食べたくなかった。今日は何故か、本当にこれを口に付けたくはなかった。


「あっそ」


愛想の無い声でそう言って机の上に乗った皿を下げる姉は、わざとらしく


溜息をつきながら私に対して嫌味を言う。


「はぁ・・・。あんたが食べないならこの人、殺すことなかったわね」


「・・・」


そうだね。


でもお姉ちゃんは人が殺せただけで満足なんだし、そこまでいう事は


無いんじゃない?


「あーあ、無駄な体力使っちゃったかなー。ねぇ玄徳、人肉って


冷蔵庫に入れておけば明日の朝までもつんだっけ?」


「・・・」


だから、そんな意地悪な質問するのは止めてよ・・・。


「・・・?ねぇ、玄と」


「・・・そんなこと・・・知らないよ」


腹の底から声を出したつもりだったのに、私の声はとても小さくて


お姉ちゃんの耳にはきっと届いていない。


「は?」


姉の顔が近づき私の顔を覗き込んで来た。


・・・止めてよ・・・いい加減にしてよ・・・。


私・・・私今日は本当にイライラしているの・・・。イライラしてるのに・・・


なんで私に話しかけてくるのよ。黙ってよ。


「ちょっと、あんた聞いてんの?」


・・・うるさい



・・・うるさいよ・・・。




うるさいしウザいよ・・・!!!!!




「そんなこと言われたって知らないって言ってるの!!」


叫んだ。


叫んで私は姉の手から皿を奪い取り、それを地面に叩き付けた。


「あ!!」


姉は驚いていたが、直ぐにしゃがんで割れた皿の破片の回収を始める。


「このっ・・・馬鹿!人が折角狩ってきたのに、何よその態度」


ブツブツ文句を言いながら1枚1枚破片を拾うお姉ちゃん。


今はその姿が凄く自分に対する当てつけのようで、私の気持は更に高まっていく。


「・・・私だって・・・」


「もう。これじゃ汚くて食べ物にならないじゃないのよ」


全ての破片を拾い集めて最後に人肉のほうへ手を伸ばす姉。


落ちた人肉が瞳に映る。私が毎日、ずっと食べ続けている同じ人間の身体。


誰の物とも知らずに食べている同族の・・・肉。


肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉・・・



「私だって、好き好んでこんなもの食べてる訳じゃない!!」


手が届く前に落ちた肉を蹴りつけて壁の方へ投げ飛ばす。姉はそれを黙って


見ていた。


「・・・」


「でも生まれつきだから・・・。生まれてからずっと・・・それしか


美味しいって感じられないから・・・だから・・・」



「・・・だから?」



だから・・・私はいつも同じ人間の肉を食べて生きて行かなければいけない。



呪いの様に、



永遠に。


「・・・私は」


「人間の肉を食べる人間の気持なんて、私が分かる訳ないでしょ」


姉から出た無慈悲な言葉は、私の胸を締め付ける。


「・・・」




「だって私は、普通の人間だから」




「・・・っ」



息が出来ない位に苦しかった。


でもここで泣くのだけは、これ以上姉に弱い所を見られるのは嫌だったから、


だから私は部屋を出て行った。


「・・・うっ・・・」


姉の横を通り過ぎても、姉が私にそれ以上言葉を掛けることも無く、


自室を覗きに来ることも無く、一人ベッドの上で泣き崩れながら私は心の中で


思ってしまった。




『姉は、私のことなんかどうでもいいんだ。


私がどんな食生活を送っても、何をしても、干渉する気は毛頭ないんだ』


と・・・。











「うーん・・・。あんまり思い出せないんだけど」


ヤバイ。本当に思い出せない!!


「うん、思い出さなくていいよ。私も、あの頃はまだ、未熟者だったし」


でも私が気になって寝れないんだけれど・・・。


そんなことを言いたかったけど既に妹の意識は昼食の方に移動してしまった


ようなので、これ以上はもうやめておくか。


「まあ、あんたがいいならそれでいいけど」


「うん、このお話はもう御終いで」


まあ、当人がそう言うなら、いいとしますか。


「あ・・・」


「何?」


話を閉めようとしたのに、私の記憶の中からひょっこり顔を出した


BADエピソード。


「・・・いや、ちょっと嫌な記憶がよぎってねー・・・」


「嫌な記憶?もしかして子考くんとの初Hでフェ」


「違う!!」


なんでそんな恥ずかしいことを例えにだすのよ!!それはそれで


私にとってはHAPPYエピソードなんだから。



あー・・・だからー・・・。



「・・・そうじゃないわよ。子考じゃなくて、あんた絡みの話」


「私?」


「えぇ。ちょいと昔、私と子考がまだ恋仲になる前」


「えっと・・・じゃあ中学時代?」


「ううん、もっと前」


「じゃあ小学生時代?」


「そう。まだ私たち3姉妹と子考たち3兄弟が他人だった頃・・・」







    弟塚のおじさまとおばさまが生きていた、あの頃。

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