三匹の鬼 1
3色目 『三匹の鬼 1』
今日の朝食。
厚焼き玉子と、切り干し大根の煮つけ、冷凍食品1品とご飯とお味噌汁。
お味噌汁の具は昨日作って余った分の餃子。餃子と味噌汁って合わないと
思っているでしょ。でもね、これ美味しいんだから。本当よ?
お味噌汁を煮たてながら、私は時計を見る。
時間は6時50分、そろそろあの子がやってくるころだ。
「おはよう、お母さん」
「おはよう公覆。今日もお父さんの次に早起きさんね」
「まぁ・・・長男だし」
「偉いね」
私が褒めてあげると、公覆はいつも笑ってくれる。
毎日同じことを繰り返しているだけなのに、それでも毎日笑って
くれる公覆がお母さんは1番大好きよ。
「じゃあ、お鍋だけいいかしら?」
「分かった」
「ごめんね。じゃあ行ってくるね」
「任せてよ」
公覆が起きてきたので息子に台所を任せて私は家を出た。
向かった先は家から自転車で10分ほどの場所に立つ道場。
夫の親戚に当る方が師範を務めていて、夫はそこで働いている。
そのため夫は毎日道場へ朝一番に行き掃除や準備をしているので、
朝はいつも家に居ない。
だからこうして毎朝、朝食の準備が出来た頃に声を掛けに行って
いるのだ。
携帯電話も持っているし、電話だけでいいのにって彼は言うけど・・・
でも、私は嫌だった。
私は、この目で確かめたい。毎日、毎朝、この目で、私の目で確認したかった。
自転車を止めて道場に続く階段を上がる。空気が澄んでいて雑音が一切なく、
鳥の囀りが澄んで聞こえるこの場所が私は大好き。
だから階段を1段1段上がりながら、私自身の心を清めていくの。私は清く正しく
生きていかなければいけない。妻として母として、女として恥じぬ生き方を
しなければいけないのだ。それは誰のためでもない、自分のために。
「・・・」
階段を登りきると目の前には門が立っている。
すでに夫が来ているから門は左右に開き、目の前には道場が見えた。
音を立て無いようにゆっくりと歩き気配を消しながら道場の左側にある窓枠の
方へ近づく。
私は確かめないといけない。
毎日、毎朝、この目で、私の目で、夫の姿を。そっと窓枠から道場の中を
覗きこむ。
夫は今日もここに居た。
そしてあの少女もまた、今日もここに居た。




