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ポットの紅茶

作者: クロウト



昔々 日本が文明開化し、江戸から明治になり西欧文化が序々になじんできた頃、


新しくできたばかりの西洋のものばかり扱う店に1つのポットと茶器一式が売っていました。


白く純白で高級感のある光沢をを輝かせるポットでしたが、当時は中々紅茶を飲むような人は1部の華族や軍人や政治家、もしくは財閥などの金持ちだけであった。


しかし、ある日、そのポットと茶器一式を1人の青年が買っていきました。


その青年はとても平民には手が出せない高価そうな三つ揃えのスーツを羽織り、ぺこぺこと頭を下げる店の店主を後にし、ついでに偶然売っていた紅茶の茶葉を買い、店を後にした。


青年は外に止まっていた馬車に乗り家へと向かう。


しかし、着いたのは遠くからでもわかるような大きな洋館でした。


大きな門をくぐり、青年は馬車を降り洋館へと入る。


すると青年は階段を上がり自分の部屋へと入った。


青年の部屋は執務室のような大きな机とその前にある対面式のソファーがある部屋に入ると先ほど買ったばかりのポットについでに買った紅茶の茶葉とお湯をいれ、紅茶を楽しんだ。


飲み終わると青年はポットと茶器一式を机の後ろにある出窓に置いた。


その窓からは町が一望できた。


大きな声で客を呼び込みをしている八百屋の男や、まだ導入されて間もない路面電車に驚く人たち、遠くからは全員一糸乱れず行進する兵隊や訓練の銃声が聞こえてくる。


青年はというと棚からキャンパスと鉛筆を取り出し、ポットをデッサンし始めた。


よく見ると壁には青年が書いたのであろう絵画が飾られていた。どうやら青年は絵を描くことが趣味なようだ。


デッサンに夢中になっている青年の部屋にノックとともに1人の男性が入ってきた。


青年よりは年をとっているようだが口髭を生やし、服は胸には勲章の付いた軍服を着て腰には刀を提げていた。


すこし威圧的ではあるが威厳があり紳士的な人物だった。この男性はどうやら青年の父親らしい。


すると父親が部屋に入って来たのに気づいた青年はデッサンをやめ、片付ける。


青年は先ほど入れた紅茶を父親に出し、二人で話をはじめた。


小一時間ほど話をし、二人とも会話が弾んだのか、何杯も紅茶をお代りをした。


どうやら父親もこの紅茶を気に入ったようだ。



・・・・・・・・・・・・・・・



それから毎日のように青年はポットで紅茶を飲みながら英語や音楽、洋式マナーなどの勉強、空いた時間には屋敷で働く女中や執事、お手伝いさんなどを部屋に呼び絵のモデルになってもらって大好きな絵を描き、お礼にあのポットで入れた紅茶を振舞った。


その紅茶を飲んだ女中が言うには、あのポットで入れた紅茶は同じ茶葉でも味がぜんぜん違うのだとか、

おいしくないという意味ではなく、味は最高にだとみんな口を揃えてそう答える。


またある日、青年と同じ位の歳の友人が尋ねにきた。


その友人たちも華族然り軍人、政治家の息子だったりする。


そういう青年の父親も肥前出身であり戊辰戦争時に武勲を挙げ現在の地位にいる。


青年もいずれは軍人や政治官僚、国会議員などこの国を背負う職種に就くのだと悟っている。


しかし、青年は決して父親を軽蔑しているわけではなく、相手にまっすぐ正論をぶつけ決して妥協しない人物だが決して強行な思考だけでなく柔軟的な考えもする。そんな父をむしろ尊敬していた。


久々に訪れた友人にもあのポットで入れた紅茶を振舞い、懐かしい思いで話や最近の自分近辺の話などに花を咲かせた。


友人が帰った後、青年は父親に呼び出され父の部屋に向かった。


しばらくして青年が自室へと帰ってきた。なんだかいつも違い、少し落ち着かない様子でした。すると青年はポットから紅茶を酌み一気に飲み干すとそのままベットへと向かい、寝てしまった。


次の日、青年は起きた時からなんだかそわそわして、何時もより念入りに身だしなみを整え、ソファーにに座っていた。


しばらくすると女中がドアをノックし、一人の女性を案内した。


入ってきた女性は少し薄化粧にほんのり頬を赤らめ、きれいな柄の着物を着た女性に青年は一瞬気を取られていた。


青年はすこし緊張しながら自己紹介をはじめ、すると女性も自己紹介をし青年に軽く微笑んだ。


自己紹介が終わると互いの趣味や過去の思い出話など互いに話し合いました。


青年ははっと思い、ポットでいつもの紅茶を彼女に注ぎました。女性はありがとうとお礼を言って紅茶を一口飲みました。すると女性もこの紅茶が気に入ったようです。


好印象だった青年は、棚からキャンパスと筆とパレットを取り出し、女性にモデルを頼んだ。最初は少し驚いたようだが女性も快く承諾してくれた。


青年はいつも以上に集中してキャンパスに筆を走らせ、見事に女性を描き上げた。彼女も少し恥ずかしそうな感じで今描きあげたばかりの絵を見ていた。


その様子を見た青年は女性にその絵を贈るといった。すると女性は青年に感謝し絵を受け取った。


二人はそれからも何度も交際を重ねた後に互いの両親や友人、親類に祝福される中、契りを交わした。






それから幾年もの年月がたった。


出窓にずっと置いてあるポットは変わり行く街の姿をずっと見てきた。


近代化していく街、人が増え、国旗を振り兵隊を見送る人、漆黒の夜に火の海となる街、明るくなって火の海から瓦礫となった街、ラジオを聴き泣き崩れる人、皇居に向かって敬礼や跪く人、この国ではない国旗の書いた車が道を通る。瓦礫の中でも必死に生きている人、徐々に復興していく街、昔の道ががわからなくなるほど入り組んだ道路、当たり前のように走る車、和服を着ている方が珍しい街・・・


これほどの時の流れのうちに青年は大人に、そして老いて老人に、そして召される。


残った家族や愛する人を残して旅だった彼だが、死んでも彼がはじめて買ったポットはまだあの時の味は未だに変わらない。


一人の青年の人生を見てきたポットだが、これからも街を一望できるあの部屋から見続ける。



・・・・・・・・・完・・・・・・・

最後まで呼んでいただきありがとうございました。

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