ご主人様、お金を入れて下さい――自宅にヤバいメイドがやって来たんだが、俺はどうしたら良かったんだ?
「ご主人様、お金を入れて下さい」
メイド服のリボンをほどき、胸元を僅かにはだけさせ、ハニーブロンドのおさげ髪をした少女がじっと見上げて懇願してくる。
アメジストのようなパッチリとした瞳はとても綺麗で、ずっと見ていたくなるほどだ。
「いや、あの、その、ムリ! 俺には、ムリだ!!」
「ですが、ご主人様。今はまだテスト稼働中とはいえ、本日中にお金を頂かないと私は動けなくなってしまいます」
「いや、だからそれ、どういう原理だよ!!」
一人暮らしである俺の元に、突然やって来たメイド服の少女。インターホンを押して普通に現れたのだから、訳が分からない。
アパートの前でご主人様などと呼んでくるのだから、人の目を気にして慌てた俺はとりあえず家の中へと招き入れたのだ。
「申し訳ございません。原理と仰られても、アンドロイドですとしか、私の知識では表現が出来ません。ご主人様は懸賞に当選なさったのです。覚えておられませんか?」
「いや、SNSの懸賞は面白ければネタとしてポチっと押すだけだから、一つ一つ何をしたかなんて覚えてな……」
頬に手を当てて申し訳なさそうに少女は言って、床にちょこんと正座している。
彼女は俺の言葉に、眉を下げて目をうるうるとさせて悲しげな表情を浮かべた。
――なにこれ。俺が悪いのか? なんだこれ、なんの罪悪感だよ!?
玄関先で意味不明なやり取りが始まったので、これは不味いと部屋へと場所を移した。それが更なる悪手だと気づいたのは、ついさっきだ。
「仕方ありません。では、お金を下さい。ご主人様」
口をつぐんだ俺を見て、少女は両手を広げて目の前に差し出してきた。俺がそれにもぐぬぬと唸っていると、少女はこてんと首を傾げるだけで、手を引っ込める気はないらしい。そのはだけた胸元が、実に目のやり場に困る。
「……五百円で、良いんだよな」
「はい。一日五百円いただければ、燃料として動くことが出来ます」
直接入れるよりはマシかと心が折れた俺は、薄い財布から五百円玉を取り出した。
渡そうと手を伸ばすと、少女は俺の手を掴んでぐいっと胸元に近づけた。少しひんやりとした指はシリコン製なのか、ふにっと柔らかかった。
「なぁ!? ちょっ――!」
少女の胸元、正確には――谷間の先にある穴、そこへチャリンと五百円玉を入れさせてきた。
穴に硬貨が吸い込まれたのを確認して、少女はパッと俺の手を解放する。
「失礼いたしました、ご主人様。ですが、不正を防ぐ為に、私ではお金を入れることが出来ないのです」
「いや、なん――」
あまりのことに言葉を失う俺に対し、少女は細く長い指でシャツのボタンを閉め、リボンを結ぶとメイド服をキチッと整えていた。
――なんで、こんなことに。キャッシュレスの時代に、貴重な俺の現金も……。
直視するのは躊躇われて、チラチラと横目に少女を観察してしまう。見た目はどう見ても人間なのに、これでアンドロイドだと言うのだ。
胸元にある貯金箱のような小銭の入り口に、「お金を入れて下さい、五百円」というパワーワードがなければ信じられないだろう。
「なぁ、その五百円、どこに消えるんだ? というか仕組みって……」
燃料が現金、赤面した火照りを冷やすべく俺は身なりを整えた少女に色気のない話題で訊ねると、彼女は居ずまいを正して丁寧に、俺に笑顔を向けてきた。
「現金ですので、お腹に貯まります。ご主人様に外出の許可を頂きまして、定期的に会社の方へ入金いたします。ご覧になりますか?」
「いや、良いです! ――というか、そう! 名前、名前を! なんて呼べば良い!?」
腹部へと手をやる少女に、俺はその先を想像してしまう。再び、顔がボッと火がつくように熱くなるのを感じた。即座に否定して、必死に話題を反らす。
「ご主人様のメイドですから、お好きに呼んでくださって大丈夫です」
「いや、俺は――」
プーンという羽音が聞こえ、耳の横を何かが過った。今は蒸し暑い季節だ。ありふれた生活音の一つでしかない。
気にもとめない俺に対し、そこへジュッと追加で音がして、焦げた匂いが鼻先を掠める。
「は――?」
目の前の少女の人差し指が、白煙をあげている。その指は、まっすぐ俺のすぐ横に向けられていた。
「お言葉を遮ってしまい申し訳ございません。ですが、害虫がご主人様を害そうといたしましたので、メイドとして安全確保を優先させて頂きました」
「いや、普通に蚊だし……。え、メイド、とは……?」
ペコリと頭を下げてそう謝罪する少女に、俺の困惑はさらに増した。
俺の中のメイドの概念が、ものすごく揺らいでいる。
「身辺警護を含め、ご主人様の身の回りのお世話をさせていただきます。心もとないかも知れませんが、左手にはショットガンを搭載、ちなみに弾は前腕に格納しています。また、上腕にはバズーカの準備もございます。
改めまして私、メイド型アンドロイド試作八号です。こちら仕様書になります。よろしくお願いいたします、ご主人様」
「え、ショットガンに、……バズーカ? ってか、君みたいなのが、まだ後七人もいる!?」
「はい。お姉様方はそれぞれ、ご主人様の元で仕えております。また妹も増える予定です」
新たにもたらされた情報に、俺の脳はそろそろキャパオーバーを迎えそうだった。
お姉様と呼ぶ時の少女の蕩けるような笑みは、どう見ても人間にしか見えないのだ。
――これで、アンドロイド?
「なお、入金を確認した時点で本契約となり、クーリングオフなどは出来ませんので。ご主人様、次は私の名前を頂きたいです」
さらりと爆弾を追加投入してきたが、俺はもう思考を放棄しつつあった。
「……あぁ、分かった。とりあえずご主人様呼びは止めてくれ。俺の名前は多田 陸だ。せめてリクって呼んで。君は……、とりあえずセロシアと呼ぶから」
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。リク様」
両手を胸の前で合わせ、花が綻ぶようにセロシアは笑う。こうして、俺の元にメイドとして強すぎ、さらに謎すぎるアンドロイドが、新たな同居人として決定してしまった。
「あ、リク様。一日五百円、お金を入れて下さい。よろしくお願いしますね」
「ぐっ……。とりあえず、両替? いや、キャッシュレス決済を可能に、してくれないか?」
「申し訳ございません。私の知識では現状不可能ですとしか、表現出来ません」
「なんでだよ! そのスペックで、次の優先度はそこだろ! そしたら毎日あんな、――あんな、入金方法せずにかざすだけで済むじゃないかぁ!!」
真面目な顔をして答えるセロシアに、俺の頭は完全にショートした。
「まぁ、リク様ったら、機械を胸に直接当てるだなんて……」
「それより難易度高いこと要求してて、なに言ってやがるんだよぉぉお!!」
ポッと頬を赤らめて照れるセロシアに、俺は叫び返した。アパートに響いたその声は、他の住人にも聞こえ、後日心配をされることになるのだった。
参加しているオープンチャットから
・メイド
・ショットガン
・お金を入れて下さい
の三つのタグを、或鬼ながら(あるきながら)さん
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から頂きまして書きました!
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