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 スマートフォンが鳴り響き、表示された恋人の名前に意気揚々と出たところへ食らわされる別れ話は致命傷以外の何物でもない。あのね神近かみちかくん、私達もう別れよう。たったそれだけで終わらせようとする彼女の口調は引くくらい感情が欠けている。

「なっ、なんでなん? 急過ぎるし意味わからへんもうちょっと理由とか言うてや」

 焦って早口になったのがいけなかったのか、電話はすぐに切られてしまう。かけ直してみるけど三回目くらいで着信拒否、その無情さは死人が出るぞと俺は夜道の真ん中でつい怒る。住宅街のど真ん中でもあり、近所迷惑だが許して欲しい。

 振られたのはもう三人目だ。自分がこんなにモテない……いや、こんなに続かないとは思わなかった。女の人とあれこれする才能を我ながらまったく感じない。

 溜め息がつい無意識に出た。二歩、三歩と歩き、街灯の近くで立ち止まって今度は意識して大きく大きく溜め息を吐く。目を閉じ、別れたばかりの彼女の顔を思い出し、あーくそ、と声に出したところで冷たいものが項に当たる。ぱらぱらと軽い音が不規則に鳴り出して、顔を上げたところで梅雨だったなと不意に思う。雨は容赦がないけど平等だ。嫌いじゃない。

「はー……、諦めて次行くしかあらへんかー……」

 降り続ける雨に後押しされながら歩き出す。恋人のことは、まあもう、仕方ない。駄目だったなら次にいけばいいし、いっそアプローチを変えてみるとか根本的なところを見直したほうがいいかもしれない。いやほんまにそうやな、そうしてみるか。今なら失恋の傷心という理由付けで上手く事が運ぶかもしれない。

 曲がり角に差し掛かる。縦に刺すよう降っている雨の形が、強い光に晒されてくっきり見えた。夜の雨は視界が悪くなる。徒歩より自転車、自転車よりもバイクと、どんどんと見通しが悪くなるだろう。俺にもわかる。そしてこれは言い訳と懺悔と邂逅だ。

 強い衝撃音が耳に届いた。痛みは後からついてきて、あー失敗したなと俺は思って、針金みたいな雨の隙間から、光を生み出す相手を見た。何か模様の描いてあるフルフェイスヘルメット。白くて眩しいヘッドライト。分厚い前輪は地面に横たわる俺から見ると、ギロチンのように凶暴だった。

 自分の腕が勝手に伸びた。光を遮った掌が部分的な暗さを作り出すけど、それだけだった。濡れたアスファルトの臭いを感じた後に、意識も腕も呆気なく落ちた。

 曲がり角でバイクと接触したってことは、ちゃんと理解していた。

 目覚めた時には病室にいて、全治半年で、枕元には知らない男が立っていた。肩にかかる程度の髪を後ろで縛り、作業着らしいツナギを着ている、やけに無表情な奴だった。

 目覚めたばかりの俺は入院費やらなんやら、金のことばかり考えていた。

 そしてこの男、遠城冬司えんじょうとうじと関わってしまったのがずいぶん幸福な過ちだとは、少しも思いはしなかった。



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