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第30話 名のない約束

 瞼の裏に蘇るのは、赤い瞳の少女。


 彼女は、自分が"崩壊の中心"に立つと悟っていた。


 逃げれば世界が壊れる。

 戦えば、自分が壊れる。


 ――傍に立つ者を巻き込むのは、避けられない。


 その夜、彼女は月のない空の下で告げた。


『もし、私が私でなくなる時がきたら』


『そのときは……"私を嫌って"』


 彼はただ、困惑した。

 怒りも悲しみもない、ただ理解できないという顔で。


 彼女は小さく笑った。


『愛されていたら……私は止まれない。あの力は、私自身の"願い"で動くから』


 ――彼女は"願わないため"に、嫌われることを選ぼうとしている。


「そんなこと……できるわけがない」


『……私が誰を護りたがるか、知ってるでしょ?』


 沈黙。

 彼は、拒めなかった。


 拒めば、彼女が"もっと悲しい道"を選ぶと分かってしまったから。


『私が壊れたら……あの人を頼む。あの人は、誰よりも未来を望んでいるから』


 その言葉に、名前はなかった。

 名は要らなかった。


 わかっていたから。 


 彼は、胸の奥が裂けるような痛みを抱えたまま頷いた。


 愛されていたのは自分ではない。

 愛されていたのは、あいつの方。

 そんなこと、とうに知っていた。


『次はひとりで歩けるように、見守ってくれる?』


 次など語るな。

 その声は喉まで出かけて、飲み込まれた。


「……ひとりで、行くな」


 絞り出せたのは、それだけだった。


『愛して、愛されてしまったら、選べなくなる。心を殺さないと、躊躇う』


『だから、ひとりでなければならないの』


 ならばせめて――


 傍にいる。


 愛されなかった者に与えられる、唯一の役目。

 それが"傍にいること"なら、彼はそれでよかった。



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