9 王太子の一年目
新入生代表の挨拶は特に緊張することもなく終わった。途中でヴァイオレットと目が合ったけれど、彼女は尊敬の眼差しでエドワードを見つめていた。彼女の目が自分に向いていることを嬉しく思いながらも冷静に務めた。
夜は入学パーティーがある。
ヴァイオレットを自分の色で染めたい、そんな気持ちが大きすぎてあからさまなドレスやアクセサリーを送ってしまった。
ヴァイオレットは私の婚約者なのだとみんなに知らしめたい。自分以外の男が近付くことが許せないのだから仕方ないなと思う。
迎えに行った時に見たヴァイオレットの姿はとても美しかった。この姿をみんなに見せるのが嫌になったくらいだ。きっと彼女は無意識に他人を目で誘い心を捕らえる。
まだ16歳だというのに、これから大人になればどうなるのか不安だ。離れていかないようにしないと、よそ見させないようにしないと。ヴァイオレットが近くにいないとエドワードは自分が駄目になるような気がしていた。
「今夜もとても素敵だね。さぁ行こうか」
誰もが目を奪われる微笑みをヴァイオレットに向ける。彼女は赤くなった顔を隠すように俯いて、エドワード様も素敵で緊張しますと小さな声で言った。
君が好きだと思ってくれる顔に生まれて良かった。そう思いながらエドワードはヴァイオレットの手をとった。
会場を歩いていると、案の定ヴァイオレットに心を捕らえられた男がいた。彼女はよくわかっていないようだったので、声をかけて気を逸らす。他の男の想いになんて気付かなくていい。エドワードのことだけを見ていてくれたら良いのだから。
途中でパトリシア嬢を見てヴァイオレットは綺麗だと言う。エドワードにとって誰よりも美しいのはヴァイオレットだ。
「私はヴァイオレットが一番綺麗だと思うよ」
当たり前のことをちゃんと理解して欲しい。そう思って伝えると彼女は恥ずかしいのか顔を隠した。可愛い。愛らしい。いつまでも見ていたかった。
入学して一年目、ヴァイオレットは相変わらずコツコツと真面目に頑張っていた。一緒に過ごしたくて何かと声をかけたように思う。彼女と過ごす時間は全てが楽しかった。
エドワードはヴァイオレットを愛している。
「殿下」
ヴァイオレットの声が好きだ。
「どうされましたの?」
ヴァイオレットの目が好きだ。
「あら、頭に葉っぱがついていますわよ」
ヴァイオレットの手が好きだ。
「とれましたわ」
ヴァイオレットのクスクス笑う姿が好きだ。
ヴァイオレットの全てが愛おしい。
子供の頃の自分に嫌気がさす。婚約者に相応しい人間は他にもいるだろうにと思っていた自分が許せない。
ヴァイオレットは世界に一人だけだ。代わりはいない。彼女だけがエドワードの妻に相応しい人間だ。
誰にも渡さない。
絶対に。
ヴァイオレットをエドワードから取り上げようとする者は全て敵だ。
敵は排除する。
エドワードはそう心に決めたのだった。




