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8 侯爵令嬢の一年目



 入学式後のパーティは、もちろんブライアンと一緒に行く。特にブライアンの色という訳でもないドレスを贈られたが、ドレスをいただいたというだけで嬉しいので何も問題はない。着てみるとパトリシアにとても似合っている物だったので大満足だった。


 迎えに来てくれたブライアンがパトリシアに手を差し出す。男の人の手だなぁと少し照れてしまった。

 しかしパトリシアの顔は何故か表情筋があまり仕事をしないので、周りからは多分無表情に見えていることだろう。


「パトリシアは元が良いから、綺麗にするのは似合うな」


 ブライアンが普通に褒めてくれた。

 嬉しい! もうブライアンが好きすぎる!


 学園に入るまでの期間中、たまに会った時ブライアンは自由に過ごしていた。

 パトリシアがいてもお構いなしで走ったり鍛錬したり。そんなブライアンの姿を見るのが大好きだったので、毎回大喜びで会いに行っていた。


 チーズケーキが好きと伝えたら色んなお店のチーズケーキを用意してくれた。黄色い花が好きと伝えたら、誕生日には黄色だらけの大きな花束をくれた。


 ブライアンに話かけられるとパトリシアは緊張してしまって声が出ない。あまり話せないのでお互いの知っていることは少ないと思う。

 ちなみに手紙も何回も書き直して出せないことが多いので、あまり送ったことがない。


 それでも話した事を覚えていてくれるのが嬉しい。婚約してからパトリシアは毎日とても幸せだった。


 会場に入ると、見られているなと思った。パトリシアに話しかける人はいないけれど、頬を赤く染めて見ている人たちがいるのはわかる。パトリシアとブライアンどちらも人気があるのだろう。ブライアンが友人に話しかけられていた。


「パトリシア、少しみんなと話してきていいか?」


 笑顔で聞いてくるブライアンが可愛くて、うんと頷く。壁の近くで待っていることにしてその場を離れた。


 会場を見渡しているとエドワードとヴァイオレットの姿が見えた。

 漫画の中のパトリシアの特別な人。でも今は特に何も思わない。それでもあまり近付かない方がいいよねと思い二人から目を逸らした。


 ブライアンが友人と話している姿が目に映る。楽しそうにしている姿を見て胸がときめく。何を話してるんだろう? 想像するだけで楽しかった。その日のパーティはパトリシアにとって素敵な思い出として心に残った。


 それから特に何もなくパトリシアにとってはブライアンを毎日見かける幸せな日が過ぎていったのだけど、夏の終わり頃に突然ブライアンの様子がおかしくなった。

 いつものように目をじっと見ていると逸らされる。耳が赤いような気がする。パトリシアのそばでは挙動不審になる。


「ブライアン様、どうかしましたか?」

「なんでもない! 気にしなくていいから!」


 不思議に思って聞いてみると慌てて去って行った。気になるんですけど。


 でも嫌われている訳ではなさそうだしいいかと思っていたある日、ブライアンに今日カフェに行かないか?と誘われた。

 嬉しくてすぐに頷くと、彼は満足そうにパトリシアの頭を撫でた。撫でた。嘘でしょ!


「ありがとうございます」


 思わずお礼を言ったパトリシアを見てブライアンが笑った。


 カフェに着いて二人でチーズケーキを食べる。今ではブライアンもチーズケーキにはまり、今回も評論家のように感想を言いながら食べていた。


「ブライアン様、ケーキ美味しいです。お誘い嬉しかったです。ありがとうございます」


 珍しく長く話したパトリシアにブライアンは驚いたようだが、そんなに喜んでもらえて嬉しいよと微笑んだ。その後もたまにカフェに行ったり一緒に出かけたり。


 二年生になる前には、婚約者らしくなってきたとお互いの両親に言われるようになった。




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