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20 聖女

刺傷事件が起きます



 ヴァイオレットとパトリシアと三人でソフィーは中庭にいた。一緒にお弁当を食べようと向かい合ったベンチに座っている。うちの料理人はここが凄いと自慢大会が始まったり、穏やかに時間が過ぎて行った。


 お弁当を食べ終わったころ、ソフィーのお弁当箱を包んでいたハンカチが風で飛ばされた。思ったより飛ばされたのでソフィーは慌てて拾いに行く。その姿を姉たちが微笑ましく見ていた。そんな時、こちらに向かってコリンが歩いてくる姿が見えた。


 ソフィーはコリンが苦手だった。

 なんとも言えない目つきでソフィーのことを見てくる。偶然出会う機会が多くて、ストーカーなんじゃないかと思ったこともある。デートに誘われそうで、会話もそれとなく別の方向に向けていた。


 そんなコリンが近付けてくる前に、デヴィッドがソフィーを探しに来た。


「ソフィー、ここにいたんだ」

「デヴィッド様、どうしたんですか?」

「いや、ソフィーが好きな……」

「ソフィー嬢、デヴィッド」


 コリンに声をかけられ、ソフィーのそばに来ようとしていたデヴィッドの歩みと言葉が途中で止まる。にこやかに近付いてくるコリンに違和感があった。


「コリン、どうしたんだ?」


 デヴィッドが聞くと、近くまで来ていたコリンが急にソフィーに向かって走り出した。


 手にナイフが握られている。ソフィーの脇腹に向かってくるナイフに、刺される!と思った瞬間、ソフィーはデヴィッドに抱きしめられていた。

 庇われたのがわかってソフィーの頭が一瞬真っ白になる。


「ヒナノちゃん! ヒナノちゃん!」


 ヴァイオレットが悲鳴を上げて立ち上がり、ソフィーの元に向かう。

 その隣にいたパトリシアは、普段と違い信じられないような俊敏な動きで近くにあった植木鉢を持つ。そして駆け寄ってコリンの腕を殴った。


「ヒナちゃんに何をするの!」


 普段出さない大声で、コリンがナイフを手放すように何度も殴りつけていた。武器を落としたコリンは周りにいた人たちに拘束される。


 ソフィーはデヴィッドを抱きしめた手が濡れていることに気付く。


「デヴィッド様? デヴィッド様?」


 デヴィッドは青白い顔で息を荒くしていた。名前を呼んでいるのに返事が出来ないようで、痛そうに顔を顰めている。

 このままではデヴィッドが死んでしまう。嫌だ嫌だ。どうすればいい?


 地面にデヴィッドをうつ伏せに横たえると制服を捲り上げる。何ヶ所か刺されたようで、傷から血が出て止まらない。


「デヴィッド様! しっかりして!」


 目を開けてと涙を流しながらソフィーはデヴィッドに声をかけ傷口を押さえる。姉たちがそばに来てソフィーと一緒に止血を手伝ってくれる。いつの間にかエドワードとブライアンが来ていたようで、医者を呼ぶように周りの人たちに指示を出していた。


「セリ姉、アズ姉、デヴィッド様が死んじゃう」


 泣きながらどうすれば良いか二人に声をかけると、パトリシアがソフィーの肩を抱きしめるように支えた。


「ヒナちゃんなら助けることが出来るかもしれない」

「ヒナノちゃん。ソフィーは、助けるんだと思いながら傷口に手をあててたよね」

「あっ」


 漫画の中のソフィーは聖女だった。


 あの時は王太子を助けるために癒しの力が発現していた。漫画と同じかはわからないけれど、可能性があるならと思う。デヴィッドを助ける方法があるかもしれないのだから。


 姉たちがそばにいてくれるので落ち着いてきた。デヴィッドの傷口に手をあて、絶対に助けるんだと心に強く願う。その途端ソフィーの手が光に包まれた。

強い光がソフィーとデヴィッドを包む。みるみる傷が塞がってきて、デヴィッドの顔色が良くなってきた。


 真剣な顔で寄り添ってくれる姉たちと違い、周りの人たちは驚きの表情で自分たちを見ている。そうして光が収まったとき、デヴィッドは目を開けて、ありがとうと呟いた。


 奇跡だ、とエドワードたちが話す声が聞こえた。




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