17 騎士団長令息の執着
「お二人とも、今王都で人気の菓子店をご存知ですか? とても美味しいチーズケーキがありますのよ。今度三人でご一緒しません?」
パトリシアの声が聞こえてきて、ブライアンは声の聞こえた方に目を向けた。
パトリシアはいつも通り冷ややかな表情ではあったけれど、いつもと違い口数多くヴァイオレットとソフィーに話しかけている。
あの三人が仲良くなったのはつい最近のはずなのに、なにかと三人が一緒にいるところを見かけることが多い。美少女が三人で仲良くしているのでとても目立つ。
「まぁ、パトリシア様のお墨付きのチーズケーキですの? 是非いただきたいですわね」
「えぇ、ヴァイオレット様にもソフィー様にもきっと気に入っていただけますわ」
「パトリシア様のオススメなら絶対に美味しいはずですよね! 楽しみにしていますね」
楽しそうに話す三人を見て、ブライアンは複雑な気分になった。仲の良い友達がいることは悪いことじゃないのにモヤモヤがおさまらない。
パトリシアがあんなにたくさん話すなんて。
想いが通じあってから、ブライアン達はたくさん話すようになった。お互いのことを知っていくのが楽しかった。
パトリシアはブライアン以外にはあまり話しかけないし、話しかけられても大抵一言で終わる。あの冷たい顔で返事をされると会話が長続きしない。
それなのにあの三人はいつも話が尽きないかのように過ごしている。
自分だけに懐いていたのに。そう思うとどんどんモヤモヤが大きくなってきた。
「パトリシア楽しそうだね。何話してるんだい?」
なんとなく邪魔したくなってそばに行くと、パトリシアはほんの少しだけ口角を上げた。
「あ、ブライアン様、今話題のお店のケーキの話をしていましたの」
「あぁ、あの美味しかったチーズケーキの話?」
もう自分たちは一緒に食べたんだと二人の仲を見せつけたくなった。パトリシアは二人に、ブライアン様もお好きですのよと伝えている。
「お二人はとても仲がよろしいのね」
「本当に。パトリシア様が幸せそうで私も嬉しいです」
ヴァイオレットが言うとソフィーが同意する。二人がパトリシアのことを大切に思っているんだと伝わってきた。
それでもパトリシアの一番はブライアンのはずだ。パトリシアのことを一番想っているのもブライアンのはずだ。それだけは譲れない。
「パトリシア、仲が良い友達が出来たんだね」
あの後すぐ三人は解散したので、ブライアンとパトリシアは一緒に馬車に向かう。少し遅くなったので人はまばらだ。
「えぇ、お二人ともとても素敵な方です。仲良くしていただいて嬉しいです」
「ふーん……」
「ブライアン様? どうかされました?」
不思議そうにブライアンを見つめるパトリシアを、ブライアンは抱きしめる。
「ブライアン様、近いです! 人がいます!」
「気にしなくていいよ」
ブライアンの肩を叩いてパトリシアは焦ったように言うが、小さい手でパシパシ叩かれても痛くないどころか可愛すぎて抱きしめる腕に力が入りそうだ。
「パトリシアの一番好きな人は俺だよね?」
「はい?」
「家族も友達も大事かもしれないけど、俺が一番だよね」
「え、えぇ。まぁ、そうですわね」
「ねぇ、はっきり言ってよ。俺のことどう思ってる?」
パトリシアの頬がうっすらと赤くなる。こんな風に照れる姿を見られるのは極一部の人間だけだろう。
あの二人も見てそうだけど、とブライアンは不満に思う。
「ブライアン様のことが大好きです」
「ほんとに?」
「えぇ、いつまでも大好きです。私と一緒に居てくださって、私をそばに置いてくださってありがとうございます」
「嘘じゃない?」
「疑り深いんですのね」
パトリシアは背中に回した手でブライアンの背中をさすった。暖かくて気持ち良くて心が落ち着く。
「私、ブライアン様が思うよりもずっと長くあなたのことが好きなんですよ」
「うん」
「ブライアン様は私の特別です。これからもずっと一緒にいましょうね」
パトリシアの言葉が素直に入ってくる。
ブライアンが嬉しくなってパトリシアの頬にキスをすると、パトリシアはそのまま気を失ってしまった。
焦ったブライアンはパトリシアを抱きかかえて保健室へと走るのだった。




