16 王太子の執着
ヴァイオレットに親友が二人出来たようだ。
エドワードは仲良くお茶をしている三人を見つめる。
滅多にいない美少女たちが揃っているので、周りの男たちの熱い視線が集まっている。
あの口数が少ないパトリシアが自然に話しているので、婚約者のブライアンはその姿を初めて見た時驚いていた。きっとエドワードと同じような気持ちなのだろう。
――彼女の特別は自分だ、と。
例え女性でもヴァイオレットに特別親しい人間が出来るのは面白くない。
しかしあの三人を無理やり引き離すようなことや、パトリシアやソフィーに危害を加えるようなことをすると、ヴァイオレットの心は二度と自分の物にはならない気がする。
エドワードは自分の直感を信じている。
心が離れようが、ヴァイオレットを手放す気は絶対に無いけれど。それでも心からの笑顔が見れなくなるのは嫌だと思った。
「殿下、殿下はわたくしのことをどう思っていらっしゃいますか?」
ある日ヴァイオレットと二人で話をしていると、突然聞かれた。
どう思っているかを伝えるのは難しい。全てをありのままに伝えてヴァイオレットに拒否されても困る。
「何故そんなことを?」
優しく聞くと、ヴァイオレットは少し照れた顔で話し始めた。
「わたくし、殿下は幼馴染ですから、妹のように可愛がってくださっているのだと思っていたのです。小さい頃から知っているから気にかけてくださるのだと。少しは幼馴染以上にわたくしのことを好きでいてくださいますか?」
なるほど。
エドワードは自分の気持ちがほとんど伝わっていなかったことに少し驚いた。これははっきり伝えなければならない。
「ヴァイオレット、よく聞いて?」
「はい」
息を呑んでヴァイオレットがエドワードを見つめる。この目が好きだなと思いながら、エドワードは自分の両手でヴァイオレットの両手をつつんだ。
「君が好きだよ。多分君が想像しているよりずっと君が好きだ」
「で、殿下」
「私を見つめるヴァイオレットの瞳が好きだ。可愛い唇から目が離せない。この小さい手も細い肩も、守りたいと思わせてくれる」
ヴァイオレットは顔が真っ赤になって、視線を逸らす。恥ずかしくてどこを見てよいのかわからないのだろう。目が泳いでいる。
「何事も真面目に頑張る君が好きだ。わからないところを一生懸命理解しようとしている姿が好きだ。楽しそうに笑う君が好きだ。恥ずかしそうに目を逸らす姿も好きだ。君の好きなところなんていくらでも言えるよ」
もっと聞きたい?とエドワードはヴァイオレットの頬に口付ける。
「あ、あの! で、殿下! もう恥ずかしいですわ。じゅ、充分ですわ」
ヴァイオレットは涙目になりながら、恥ずかしさでパニックになっている。
「もっと伝えさせて? 君は私のことを全然理解していない。どれだけ君のことが好きかわかってる? 君の視線が他の男に向くのも許せない。ヴァイオレットに心奪われた男がどれだけいるかわかってる? 君を見つめる男は私だけでいいんだよ」
エドワードは色気のある微笑みをヴァイオレットに向ける。想像していたより重たい答えが返ってきたようで、ヴァイオレットは理解が追いつかないといった表情をしていた。
「ヴァイオレットがそばにいない人生なんて考えられない。早く結婚して誰よりも近くにきて欲しい。私がヴァイオレットがいないと駄目なように、君にも私がいないと駄目だと思って欲しい」
両手を離して頬に手をあてる。
「ヴァイオレット、愛しているよ」
そっと顔を近付けると、ヴァイオレットは目を閉じた。
柔らかな唇が触れ合う。
体を離して目を開けると、ヴァイオレットも目を開けて右手の指で唇を軽く押さえていた。
「で、殿下」
「うん?」
「わたくしも殿下をお慕いしております」
消えてしまいそうな小さな声でヴァイオレットが想いを告げる。
「もっともっと私のことを考えて。毎日頭の中を私でいっぱいにして。私がいないと生きていけないくらいになって」
そう言ってエドワードはヴァイオレットを抱きしめた。
エドワードの腕の中でヴァイオレットが微かに頷いたのがわかった。




