15 侯爵令嬢の勇気
三人でたくさん話をした時に、これからは三人だけの時も前世の名前で呼ばない、ちゃんと今まで通り令嬢らしく話そうと決めた。
普段うっかり前世の口調が出てしまわないように。今の自分たちを、今を大切にして生きていこうと考えたからだ。
「ブライアン様、少しお話があるのですがよろしいでしょうか」
ブライアンと二人で会った時にパトリシアは勇気を出して話しかける。
「パトリシア、どうしたんだ?」
普段と違うパトリシアの様子にブライアンは不思議そうな顔をしていた。
「あの、ずっと伝えたかったんです」
続きを待つようにブライアンはパトリシアを見つめている。
「私はブライアン様のことが好きです。婚約者になりたかったし、将来ブライアン様と結婚したいと思いました。今まで緊張して話せなくてごめんなさい。これからはもっと仲良くなりたいです」
一気に言って恥ずかしくて俯く。頭の上からフフッとブライアンの笑い声が聞こえた。
「知ってるよ」
なんで? なんでよ! パトリシアはパニックだ。アワアワしてるとブライアンに抱きしめられた。
「パトリシアは本当に可愛いね」
「ど、どうして……」
「前にね、温室で昼寝をしてる君が寝ぼけて告白してくれたよ」
嘘でしょ! そして気付く。ブライアンの態度が急に変わった理由はこれだったんだと。
「すごく可愛かった。普段表情が変わらないパトリシアが少し微笑んでた。大好きと言われて嬉しかった」
ブライアンが甘い声で囁くように話す。
大きな手がパトリシアの頭を髪を撫でている。
「正直それまではパトリシアのことよくわからなかったけど、その時嬉しいなって思った」
よくわからないと思われてたんだ……。確かに無表情で話もしなくて謎だっただろうなと思う。
「それからは、君が俺のこと大好きなんだと思うとドキドキした。見つめられると落ち着かないし、もっと君のことが知りたくなった」
そうしてブライアンは抱きしめる腕に力を込める。
「俺、今はパトリシアのことが好きだよ。君の気持ちが嬉しい。ありがとう」
パトリシアは幸せすぎて気を失いそうな気分だ。
「ブライアン様、大好きです」
ブライアンの背中に手を回して抱きしめ返す。そうして二人はしばらくそのままでいた。
いつまでもこうしている訳にはいかない。パトリシアがブライアンから離れると、ブライアンは少し寂しそうな顔をした。その顔は反則だ。
「あ、パトリシア、少しほっぺたが赤くなってる? 可愛い」
親指で頬を撫でられて固まる。急なスキンシップは緊張してしまうからやめて欲しい。
「あ、あの、ブライアン様。恥ずかしいです……」
「ごめんね。可愛くてつい」
ブライアンは謝りながらも一切反省していないようだ。嬉しそうにニコニコとパトリシアを見ている。
「そろそろ帰るお時間でしょう?」
「そうだね。名残惜しいけど、そろそろ帰るよ」
頑張って強気な口調で言うと、ブライアンはパトリシアの手をとって手の甲に口付けた。
「またね」
絶対勝てない。今後も負け続けると気付いたパトリシアは、ヴァイオレットとソフィーに相談しようと心に決めたのだった。




