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10 騎士団長令息の一年目



 学園入学の夜、ブライアンは特に何も考えずパトリシアを迎えに行った。ドレスも母親に相談して似合うだろうと思って贈った。


 ドレスアップをしたパトリシアを見て、やっぱり元が良いから何着ても似合うなと思った。


 この口数が少ない無表情の婚約者の顔はとても綺麗だと思う。しかし未だにパトリシアのことはよくわからない。エスコートで触れた手が小さくて柔らかいなとは思った。


 会場に入るとパトリシアに視線が集中した。見惚れている男が何人もいる。

 まぁパトリシアが注目を浴びるのはいつものことだと思って歩いていたら、友人に声をかけられた。少し話してくると言って別行動になる。パトリシアは壁の近くで会場を見ながら立っていた。


「ブライアン、お前あんなとんでもない美人が婚約者で羨ましいよ」

「そうか?」


 友人がニヤニヤしながら言う。周りから見たら羨ましいのか? 疑問に思った。


「そりゃそうだろ。あんな美人捕まえて、なんでそんなに冷静なんだよ」

「そりゃあ顔は美人だと思うけど、他はよくわからない」


 別の友人にも聞かれたので正直に言うと二人は驚いたようにブライアンを見た。


「よくわからないって、仲良くないの?」

「仲良くないと言うか、あまり話したことがない」

「えっ? 普段会った時何してんの?」

「俺が勝手に鍛錬してるのを彼女が見学してる。他はケーキ一緒に食べて美味しいなって言うくらい」

「マジか……」


 そうだよな。やっぱり婚約者っぽくないよな。友人と話し終わった後、特に問題なくパーティが終わりパトリシアを送り家に帰った。


 婚約者との交流で決められた日にパトリシアの家に会いに行く。侍女にパトリシア様は温室におられますと言われたので向かうと、温室の片隅で彼女は寝ていた。


 何故令嬢がこんなところで寝ているのか。疑問に思ったけれど、まぁ幸せそうに寝ているので起こさずに隣に座ることにした。ブライアンが隣に座るとパトリシアの瞼が動いた。


 起こしたかな?と思っていると、寝ぼけているようでぼんやりとした目でこちらを見てくる。

 パトリシアの口が開く。


「……ブライアン様、大好きです」


 ん? 聞き間違いかと思っていたら続きが聞こえる。


「ブライアン様と婚約出来て嬉しいです。いつも緊張してしまって話せなくてごめんなさい。でも大好きです。これからもずっと大好きです」


 そう言ってパトリシアはほんの少しだけ微笑んで、また眠ってしまった。こんなに長く話すパトリシアを見たことがない。パトリシアの笑顔も初めて見た。一瞬、笑えるんだと思ってしまった。


 そしてその内容がブライアンへの告白だと思うと、一気に顔に熱が集まる。

 我ながらなんて単純。ブライアンはモテるので今まで何度も告白をされたことがある。しかしこんなに鼓動が速くなったことはない。パトリシアのことが初めて可愛く思えた。婚約者なんだと理解出来た気がした。


 それからパトリシアに会うと、どうも落ち着かない。いつものことなのに目が合うとソワソワする。この子俺のこと大好きなんだと思って緊張する。いや、こんなに綺麗で可愛い子が婚約者って。どうしていいかわからない。


 とりあえずパトリシアに喜んでもらえることを考えるけれど、ブライアンに思い浮かぶのはチーズケーキと黄色い花だけだ。


 よし、カフェに誘おう。

 今までよりもっと会う機会を作ったら、パトリシアもブライアンに慣れてくれるんじゃないか。たくさん話してお互いのことをたくさん知り合おう。そう考えて悩みながらブライアンは一歩踏み出すのだった。




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