表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/23

1 公爵令嬢の目覚め



 ヴァイオレットが前世というものを思い出したのは8歳の時だった。

 風邪で熱を出しベッドで寝ていた時に夢を見たのだ。


 夢の中でヴァイオレットはセリナと呼ばれていて、妹たちと日本という国で暮らしていた。

 ひとつ下のアズサはのんびりとした性格で眠ることと食べることが大好きだった。みっつ下のヒナノは元気いっぱいで、いつも姉たちの後をついてまわっていた。

 セリナはそんな二人のことが可愛くて仕方なく大人になってもつい甘やかしてしまっていた気がする。


 ずっと仲良く暮らしていたのだと思うのだけれど、夢に見た思い出は二十代の頃までのものだった。何歳まで生きたのか結婚したのか妹たちはどうなったのか何もわからない。

 それでも多分ずっと幸せに生きて穏やかに亡くなったんじゃないかと思えた。目が覚めた時に幸せな気持ちが胸の中に残っていたからだ。


 そうして前世を思い出したヴァイオレットは後日鏡を見ていてふと思う。軽くウェーブのかかった豊かな黒髪に少し垂れ目の黒い瞳に泣きぼくろ。まだ8歳なのにほのかな色気がある。

 この姿どこかで見たことがある。しばらく考えた末に前世で好きだった漫画の登場人物に似ているのでは?と気付いた。


 このまま成長すればあの姿になるのでは? と言うことは私は悪役令嬢なのでは? 男爵令嬢をいじめて修道院送りになる公爵令嬢なのでは? 大好きな婚約者に婚約破棄されて後悔することになるのでは?


 顔色が悪くなっていき背中に嫌な汗が流れる。目の前が暗くなってヴァイオレットは意識を手放したのだった。


 ベッドで目を開けると、突然倒れたヴァイオレットを心配して家族が付き添っていた。父親と母親の安心した顔が見える。その後ろには兄が泣きそうな顔でこちらを見ていた。


「ヴァイオレット、気分はどう? どこかつらいところは無いかしら?」

「ご心配おかけいたしました。特に痛いところもつらいところもございません」


 それを聞いて母が手を撫でてくれる。

 心配したのよ、と言う母の気持ちが嬉しかった。ゆっくり休みなさい、と父が肩に手を置いた。前世でも今世でも私は家族に恵まれている。

 もう少し眠る為に目を閉じながら、絶対に悪役令嬢にはならないと心に決めた。


 たっぷり眠って頭がスッキリしたので今後のことについて考える。まずは漫画の内容を思い出すことにした。


 舞台は中世ヨーロッパ風の異世界の学園で、平民から男爵令嬢になった主人公が王太子と恋に落ちるというよくある話だ。その中でヴァイオレットは王太子の婚約者の公爵令嬢で、嫉妬のあまりヒロインをいじめる役割だった。


 友人の侯爵令嬢パトリシアと一緒にヒロインのソフィーをガンガンいじめるのだ。そしてテンプレ通りに断罪され修道院に送られ、慣れない生活が合わずにその後すぐに病気で儚くなってしまう。パトリシアも修道院送りとなるが、移動中の馬車が襲われて崖から転落し亡くなる。


 ソフィーは王太子であるエドワードと相思相愛になるのだが身分の問題もあり、別れる別れないで揉めて最終的に癒しの力が目覚めて聖女となり王太子妃として認められる。


 特に魔法の無い世界のはずなのに、物語後半から突然この世界には病気や怪我を治す力が存在し選ばれた人間、聖女にだけ使えるという設定が現れるのだ。

途中までどうやって決着つける気だ?と思いながら読んでいたのだが、強引な展開に姉妹でツッコミを入れたのは良い思い出だ。


 エドワードとヴァイオレットは10歳の時に出会い婚約者となる。


 ヴァイオレットは青みがかった黒い髪と濃い青の瞳を持つ王太子に一目惚れする。

 彼の隣で妻として生きる!と決意したまでは良いのだが、王太子の周りに女性が近付くのが許せない。仕方ないとわかっていてもパーティの席で王太子と話す他の令嬢の姿を見て、心の中にある黒い感情を表に出さないように必死で隠していた。


 そして17歳、学園に入って2年目の時に新入生としてソフィーが入学してきた。

 お約束通りに元平民で明るく元気なヒロインに王太子は心惹かれる。


 ピンク色の髪と瞳を持つソフィーはとても可愛らしく、頭も良いため新入生代表の挨拶もしていた。緊張しながらも一生懸命話す姿に多くの男子生徒が頬を赤らめている。王太子も目を奪われたようにソフィーを見つめ、その姿をヴァイオレットは内心憎々しげに見る。この女は敵だ必ず排除すると心に決めたのだった。


 漫画の内容を思い出しながら、ヴァイオレットは溜息をついた。2年もすれば王太子と婚約することになる。どうすれば良いのだろう。


 前世のヴァイオレット――セリナは漫画の中の王太子が大好きだった。姉妹3人で好きなキャラを教えあったのだが、セリナは王太子のエドワード、アズサは騎士団長の息子で騎士を目指しているブライアン、ヒナノは巻末のおまけ漫画に出てきたモブのデヴィッドを推していた。


 セリナ達がエドワードのクールな格好良さやブライアンの大型犬のような可愛さを語っていた中で、ヒナノだけがちょっと違う。

 彼女が言うにはエドワードもブライアンも自分が格好良いとわかっている人間なので興味が無い、デヴィッドの主人公達を少し離れたところで見ている主役達に入っていけない脇役にすらなれないモブっぷりが好きとのことらしい。


 デヴィッドはおまけ漫画の中で友達と3人で「今日もソフィー嬢は可愛いよなぁ」「殿下を見つめる笑顔が素敵だよな」「デヴィッド初恋だろ? 残念だったな」「……ほっとけよ」と話しているシーンが数コマあるだけのモブだ。

 ソフィーがモテると読者に伝えるために用意されたキャラだと思う。姉妹仲が良くても男の好みはだいぶ違うなと思った。


 懐かしいことを思い出してしまったが、本題は王太子との婚約だった。


 今のヴァイオレットも王太子のことは好きである。前世で好きだったキャラに会えると思うとワクワクする。しかし婚約者になっても将来はフラれると思う。


 例えソフィーをいじめなくても、なんだかんだ理由をつけて婚約破棄されそうな気がする。だってソフィーは聖女になるのだから。国としても絶対に逃したくないだろう。

 父もヴァイオレットのことは大切に思っているだろうが、国のために貴族として公爵として判断するなら聖女をとるんじゃないだろうか。


 癒しの力なんて、漫画の中で王太子と結婚するための設定としてソフィーに突然現れた力だ。多分ソフィー以外に現れることはないと思う。ヴァイオレットも今は王太子は好きだったキャラくらいで済んでいるけれど、婚約者となって側にいるようになれば本気で好きになるかもしれない。


 物語の強制力があるのかはわからないけれど、あったらもう自分にはどうしようもない。本気で好きになって婚約破棄になったら嫌だな。そう思うとまだ起こっていない出来事なのに悲しくなってくる。


 でも婚約を自分から断るとか出来ない。漫画の中でも偉い人達が話し合って決めたことだったから、ヴァイオレットの意思なんて関係なかった。ヴァイオレットが王太子に一目惚れしたのを見て両親がホッとしていた姿が描かれていたのは覚えている。


 いじめ絶対ダメ!を心に刻んで、真面目で小心者のヴァイオレットはとりあえず流れに乗ることに決めたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ