第66話 治癒魔術への渇望
ラノベ聖女モノの定番四肢欠損をも治癒する規格外の聖女の治癒魔術ですが、うちのは一味違います。
「人心を惑わす悪魔の術だとか患者の評判が極めて悪いとも言われてるけど、本当にやるの?」
「ええ。当然です。そのために来たのですから。御大の前で言うべきことではありませんが、私の人生の半分は聖女猊下の治癒を受けるために費やしてきたのです。」
デニス・バロンは男爵家に生まれ、後継者候補となるため武功を上げるべく志願兵となり戦場で足を失った。その後は文官となるべくひたすら勉強した。というのも王宮仕えになれば、福利厚生として聖女の規格外な治癒魔術を受ける権利が得られ、聖女の治癒魔術というのは四肢の欠損すら綺麗に治すと言われていた。それを受けるために立身出世を目指し滅私奉公愛国忠君で仕えてきた。
しかし出世競争は理不尽だった。はじめからキャリアは決められてるかのごとく、人選からは何故か外れて、馬車馬のごとく働けど働けど暮らし楽にならず出世とも無縁だった。
「バビロンシステムに吊るされたニンジンを追ってたのね……」
「ええ。その認識にたどり着いたときにはもう人生も半ばを過ぎてましたよ。」
「ありもしない未来を想像して自分を奮い立たせたのね。でもその努力は目的に向かって一定の指針をあなたにもたらしたようね。」
「と、言いますと?」
「そのままよ。その時を境に戦場への協力はしていない。私が殺人だけはやめておけということを知りその言いつけを守った。」
見られているはずはないのに聖女さまはちゃんと見ておられると人々が言うことに疑問を持っていたデニスは、本当に見ておられるのかと驚きながらどうしてそれを知ってるのかを聞く。
「ど、どうしてそれを?」
「仮に行きたくても足がなければ行けないものねw」
「行きたいわけがありません。足を失った痛みこそこの状態で落ち着いて引いたものの、二度と御免です。そして他人にこれを強いるのも人道に反する罪です。」
「身を以て知ったのはあなたの財産よ。そして、もし治癒すると言うなら同じぐらいの苦痛をもう一セット味わうことになるわ。」
「大丈夫です。そのために生きてきたのですから。」
覚悟は出来てる様子ね。あとは付き添いの人に段取りを教えてそのうえで協力出来るかを確認した上でゴーサインが出れば、「人心を惑わす悪魔の術」とやらをやってやろうじゃないの。
ということで、付き添いの人に段取りを説明した。たぶん途中でやめたくなることも、そしてやめたら元の木阿弥なので最後までやれるかということも確認する。
付き添いの人は説明を聞きドン引きしていたが、邪魔せずに最後まで付き合うことを約束した。まったく同じ内容を患者さん本人に説明し、最後までやることを約束させた。
「治療の決断する前に、今3つの選択肢があるわ。今選んだら終わるまでコースは変えられない。どれでいく? ひとつめは激痛を伴う3カ月コース、もう一つは不快感を伴う20年コース、そしてもうひとつは、やっぱりやめるという選択肢よ」
確認するまでもないと堂々とデニスは答えた。
「三カ月コースでお願いします。」
言ったわね。もう後戻りはできないわよ。
冒頭の王太子に「人心を惑わす悪魔の術」だとか「患者の評判が極めて悪い」と言われていた背景が次の話でわかります。




