第37話 ケーキはいかが?
もうここで、異教徒集団は完全にマリーのことを「ザイオンの乙女」として崇拝の対象にしてます。逆乗っ取り完了(笑)
二煎目を配り終えて、お菓子も出す。この日のために作ったヴィーガンケーキ。卵や牛乳といった動物性の食材は、豆乳とハーブ、そして重曹泉という直接的な大地の恵みで仕上げ、平安を象徴する樹の実から採った油でハーブを脱炭酸する。
はっきりと味は違うけど、これはこれで美味しくバッチリキマった。自信作。
さっきまで険悪なムードの異教徒たちは目を虚ろにしてまるで多幸感に酔いしれている様子で、ぜひ食べたいとマリーに群がる。
えー?まだ普通のコーヒーだけだよ?普通のコーヒーだけなのにこれだと三杯目の、薄さをカバーする調合ハーブ入りのなんか飲んだらどうなっちゃうの?
彼らの戒律に反しない。そして彼らが大地の恵みと崇める薬草――それはたまたま、私のケーキでよく使う薬草なんだけど――を練り込み、ハーブバターのかわりに植物性の平穏を象徴する木の実の油で脱炭酸して薬効成分を有効化したヴォーガンケーキをお茶うけにと一人一人目を合わせて食べ方の注意もしながら歓談しながら配る。配っているうちに、周りが騒がしくなってきた。
「見える、見えるぞ!ザイオンが目の前に!」
「ここがザイオンだ!」
「いや、ここはまだバビロンだ」
「天にまします神様がバビロンをなんとかしてくれるのを待ってるんじゃなくて、今ここを俺たち自身でザイオンにするんだよ!」
「そうと決まれば、他でもない俺たち自身のために立ち上がろうぜ!」
いけない。ストーンしてるときにいきなり立ち上がったら貧血で倒れるわ。落ち着いて。
「ゆっくりしていってね。ここは時間で締め出したりしないから。急ぐことはないからね」
3杯目の「祝福の杯」はもう帰ろうとする客の要請があってから出すのが作法で、客もその事を分かっており適当なタイミングで3杯目を求める阿吽の呼吸というものなのだが、これは遅くなりそうだ。
こちらから3杯目を勧めることは、「おぶぶでもどうですぇ?」と口に出していってしまうのと同じ、とても卑劣で下品なことで人間としてやってはいけないことなのだが、どこぞの地方都市ではバビロンにより乗っ取られて以来日常的に切り出されているという。
資本主義には待て暫しというものがなく即時即時をいくらでも要求する。そのうち到着した瞬間にお出迎えで「おぶぶでも、どうですぇ(今すぐ帰れ)」と言い出すだろう。私は違う。いくらでも待つ。
にしても、全員赤目でブリブリにキマってストーンしてる。こりゃ明日の朝まで掛かるかな。
マリーが異教徒たちのハートを掴んだというだけで、彼らが王都売店にたむろしてハーブで煙たいのは何も解消しません。




