第36話 master of the ceremony
マリーがハッキリとわかるチート能力を使います。でも地味……。
専用の茶器で出し、はじめの一杯は大地に捧げる。黙ってこぼすのだと、ケンカ売ってるようにも見えるので、意味があることであることを示すため、祈りのポーズをして祝詞を上げてから、丁寧に大地に零す。
「ἔπειτα δὲ Γαῖα εὐρύστερνος, πάντων ἕδος ἀσφαλὲς αἰεί……」
マリーの詠唱が公堂に響き、さっきまでの殺気の混じった混沌の空気は一気に荘厳で張り詰め、揺るぎのない安定した空気と変わる。そこに居るものに、これから出されるコーヒーを断ると、大地との縁が切れてしまうのではないかと言わんばかりの無言のものすごい圧力。その力にボブは圧倒される。
「こ、これが聖女の力なのか……」
確かに強制されていない。断るという選択肢は確かにある。しかし断るには今まで生きてきた流れを全否定するのと同じだけの大決心が必要になるのではないかという程の圧が掛かっている。これを見てしまった今となってはエリーヌや女王の大げさな崇敬を笑えない。彼女らは過去にこれに当てられていたのだ。それも何回も何回も。
ボブは初めてマリーに畏怖の念を感じた。
かつて彼女から問われた事を思い出す。
――もし私が聖女だったとしても、今までと変わらずマリーとして付き合ってくださいますか?――と。
その時は、単なる過去の社会的身分で今はその仕事を辞めているんだろとくらいにしか思っていなかったので、そんなもの気にするものかと軽口をたたいていた。
しかし彼女はそんなものではなかった。元聖女ではなくて今も、聖なる力を発揮することができるという意味の聖女だった。
過去に人殺しでもしてない限り引くことはないと豪語したが、こんな異常な能力で場を支配下に置くなんて見たことも聞いたこともない。悪いことは何もしていないことは分かるのだが、正直引く。
そんなこんなで、異教徒たちは全員一人 の取りこぼしもなく、「歓迎」の杯を飲み干していた。クスリか集団催眠でも入ってなければ考えられない事が起きている。
なだれ込むように二煎目「友情」を勧める。
エキゾチックな衣装に身を包み笑顔で二杯目はいかが?と巡るマリーは眩しく、ボブは直視してられないと同時に目を離せない矛盾から自分の顔を手で覆いながらも目のところだけは指が開いてる。
この、霊的な場を作り出したのがマリーであることは完全に理解しているが、その場の主人たるマリーが、自ら作り出した場の求める所作、まるで妖精のようにちょこまかと奉仕して回ることで、彼女の身体は普段よりも小柄に見えた。
謎詠唱ですけど、これも何か神聖な祝詞だとくらいに思っていただければ十分です。これは普通のギリシア語なので普通の翻訳エンジンで解読できます。もちろんLLMさんのほうがおまけ情報が出てくるのでおすすめです。




