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第25話 美味しいコーヒーの作り方

マリーもホレスもその道を極めた者という設定でして、そういう人って結構寛容なんですよね。私もかつて神様と呼ばれた技術者のもとで修行したのですが、その噂からくる厳しいイメージとは正反対の優しいおじいちゃんでした。

 聖女の排除せずの教えに従いメンバーだけと言うわけにいかず、希望者全員が等しくボブのブラウニーを味わうことになり、かなり好評だった。


 自分が作った食べ物が人を笑顔にすることがこんなに自分にとっても嬉しい事というのを初めて知った。その笑顔の中にはやんごとなき人も含まれているが、食べて喜んでくれている人と言う意味では同じ一人の女性に過ぎなかった。



 とは言え彼女がそこにいることに気が付いてしまうのはやはり、俗世にいた間に染み付いた癖のようなものだろうか。マリーなら全体でひとつとして捉え、その構成ひとりひとりを認識してもそのうちのひとりが女王だということは歯牙にもかけないだろう。


 そして、ホレスが教えてくれたコーヒーの栽培から焙煎、熟成、挽き方、淹れ方までの事細かな手順。聖女のハーブブラウニーのように手順ごとの確認ポイントや間違えたときのリカバリまで詳細に渡り、対象に対する本当に深い造詣や真の叡智というのはこういうものなのだなと感心するばかりだ。


 正解がひとつでそれ以外はすべて排除の手順ではなく、その対象の持つ世界を理解しその世界の中を自由に歩き回るかのような、まるで対象の中に一つの世界があるかのように捉えているのはマリーの薬草ブラウニーのレシピにもホレスの美味しいコーヒーの作り方にも共通していた。


 とりあえずその分岐点となる判断ポイントだけを書き起こし、今度マリーに提案しよう。メモをのぞき込んだホレスも、個別具体ノウハウが完全欠落したメモをみて顔を顰めるが、その理さえわかっていれば同じ結果にたどり着くだろうと容認してる感じだ。


 そして種がなければ始まらないだろうと発芽能力の残ってる豆をくれる。発芽から実がなるまで育つには最低でも8年ほどかかるからしばらくは無理だろう。しかし発芽段階から理想を追求するにはここから、あるいはさらにその先に花が咲いて環境に適した交配が行われるのを待つ必要すらある。


 それとは別に、今手に入る豆の個性を見て理想の一杯に仕上げる判断と分岐点も伝授を受けたので、しばらくは豆は外部調達ということになるだろう。


 ある程度見込みをつけて、コーヒーを提供する算段を立てる。当面は外部調達となるので通貨での価格が割高になりがちで異教徒たちには難しいが、時々なら無理ということもない価格設定とする。軽金属貨420枚、大銀貨1枚で青銅貨8枚のおつりが出せるくらいか。


 そうと決まれば、売店休業日にマリーと相談だ。幸いにも明日は定休日。看板をCLOSEDにして食器類をキッチンにしまい鍵をかける。


 なお、涙目になりながら山のような食器類の洗浄して、食器の拭き上げを済ませたキッチンペーパーで涙を拭い鼻をかんで丸めて捨てたのはエリーヌにも女王にももちろんマリーにも秘密だ。

一流の人って全てをお見通しで一本筋を示すのではなく、対象の構造を把握し、現在位置を知る方法を知り、見て歩くようにゴールに連れて行ってくれます。そういう人に自分もなりたいですが、対象の構造を完全把握したものはたった一つもないです。

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