第12話 辣腕繁盛記
マリーはケーキ作りは好きなんですけど、接客は嫌いで結界で縁あるものしか近寄れない店舗。じゃあ店やるなよって言っても頼れる流通経路もない。テイクアウトメニューを開発します。
少し時間が戻って、ボブが去ったあとの森の家のコーヒーショップのお話。
交通不便な立地のせいか、マリーの森の家のコーヒーショップの常連はひとり。週1回くらいの頻度でランチタイムにひょっこり現れてあんぱんとスパゲッティを注文して黙々と食事して特にこちらに関わろうともしない、はじめに来たお客さんだ。もう既に注文は「いつもの」で通じる。
来続けてるくれているということは気に入ってくれてるのだろうけど、気に入ってるとしたら週1くらいしか来ない事情も気になるけれども、向こうから語ろうとしない限り余計な詮索はしないつもりだった。
ある日お会計のとき、ボソッと話を切り出してくれた。
「ここ、お土産とかにテイクアウトメニューないかな?」
そもそも、自分の居場所として始めたコーヒーショップ「森の家」は、それでペイすることを考えてないし、ましてや忙しくなったら本末転倒だ。
低コスト体質の経営とは言え実際週一の来客では流石にペイしない。貯金が底をつく前に定職は持っておきたいが出稼ぎで店を空けるのはもっとありえない。
その点ここで好きなだけケーキを作り続けつつ、売れるかもしれないテイクアウトとお取り寄せへの卸というのは魅力的な提案だ。しかし、難点もある。
「持ち出して時間が経過した時の品質を保証できないんです。でも、維持できるようなメニューも考えておきますね。」
ケーキは乳脂肪や水分をガッツリ含む生物だ。聖女の象徴学では、水は生命の源、いや生命そのものを意味する。そして生命には腐敗を起こす雑菌や悪い虫も例外ではない。つまり水分を含むケーキは生物というより生物のコロニーとして捉えられる。
ケーキは形作られると同時にありとあらゆる生物により分解が始まるが、ケーキを形作る作用はオーブンで焼いたあとマリーが飾り付けを行ったことをもって完了しており、そこから分解が始まる。もちろん焼くことによりその過酷な環境を生き延びられる種はほとんどいないが空気中にも生物の種は漂っており、それが付着すると同時に分解による栄養取得と増殖による分解加速が始まる。
先々代の聖女の頃から、この食物を分解する生物などについて悪魔であるという非常に雑な理解をして、それが国教の正式な教義になっていたんだけど、先々代聖女というのが本当に全ての堕落の発端で、以前の失われたいにしえの教えを復元するのに苦労したわ。
だから、当面は水分が少ないスイーツ。クッキーとかの開発をしましょう。あとは別の人体に有益な生成物しか出さない生物で飽和させて他の生物の入り込む余地をなくすとかいろいろ方法はあるわ。
あとテイクアウトにはパッケージが必要ね。水田に藺草が住み着いちゃったけどこれもパピルスの近縁種だから処分がてら繊維漉いて紙パックもいいし、花穂や葉の取れる薬草の茎のヘンプ、そして賞味期限はいちいち手書きするよりも、前の職場で使ってた、日付をダイヤルで変えられるちょっと凝った印影のハンコ。少し大きいけど追放のどさくさで何故か持ったまま来ちゃったし。廃品利用!廃品利用!っと。
お気付きの通り、店をやってるという建前はかなりマリーにとって大事で、冒険だとかVIPの治療だとかそんな程度のことで店を放置したりはしません。




